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休暇七日目③−3【ソルディオ×ウィルフレッド】諦めるのか?
しおりを挟む嬉しそうにレティシアを見つめながら話すウィルフレッドの横顔を、ソルディオは静かに見つめていた。
「簡単になんて、手に入らなかったぞ?」
振り返ったウィルフレッドは言う。
「何度も怒られ、色よい返事なんて貰えなくて。一年以上、毎日書いた手紙には一通も返してもらえたことなんてない。俺はずっと、叶わない恋をしていたんだ。だが・・・諦めきれなかった。しかし、諦めきれずにずるずるとしているのも相手に迷惑かもしれないなと、一年を区切りに手紙を書くことをやめようと考えた。簡単に言うと、諦めようとした。だから最後の手紙にと、俺を振ってくれ、好いた男がいるのなら、目の前で見せてくれ、でないと諦めきれないと書いたさ」
「それにも返事は?」
「なかった。そしてその直後の夜会に、彼女は現れた。久々に見る彼女に駆け寄りたい衝動に駆られたが、俺は婚約者でもなく、近衛の騎士団長としての任もあって、結局何も叶わなかった。だが・・・その夜会で、さっきも言ったがライバルであった王子殿下を俺の目の前で盛大に振ってくれた。夫にする人は決めてるんだと・・・俺を選んでくれた」
ウィルフレッドは当時の事を思い出しているようで、左手の人差し指でそっと唇に触れた。
「ヴィンセント殿下の目の前で、そして観衆の前で、初めてのキスを奪われた」
「随分と・・・情熱的なんですね」
「あぁ、驚いて、信じられなくて、でも・・・嬉しくて。俺はみんなが見ている前でボロボロ泣いた。そこからだな。俺が感情を露わにし始めたのは。人前で嫉妬もするし、甘えるし、泣く事だってある。だが・・・そんな俺でもいいって、私がいないとダメねって言って、隣にいてくれるんだ」
当時を思い出し、日々の想いを隠す事なく話をしていたウィルフレッドは、視線をソルディオに戻す。
「諦めるのか?」
「諦めきれませんよ」
「だったらどうするんだ。君はエルサ嬢に何を望むんだ」
「・・・ずっと、隣にいて欲しいです」
「隣にいると言うのは、補佐官としてか?」
「いえ!・・・夫婦に・・・なれたら」
「だったら、君はどうすればいいんだろうな?エルサ嬢はお前の気持ちには気付いているみたいだとシアが言っていた。知っていて関係性が変わらないという事は、エルサ嬢は君の気持ちに答えるつもりはないという事だろうと。君の望む事ばかりになってないか?エルサ嬢は何を求めているのだろうな」
ソルディオの心に、ウィルフレッドの言葉が鋭く突き刺さった。公爵家の嫡男で、騎士団長でこの見目で。全てが簡単に手に入るのだと思っていた。だが、夫人の事は、相当頑張り諦めかけもしたらしい。そんなウィルフレッドの言葉だからこそ、ソルディオの心に刺さったのかもしれない。深く考えている様子のソルディオを残し、ウィルフレッドは役目は済んだとばかりに、愛しい妻の膝を占拠しに走っていった。
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