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毎日毎日恋をする
しおりを挟む空が白み始める頃、レティシアのわずかな身じろぎにウィルフレッドは目を覚ました。後抱きにして眠ったはずだったが、夜のうちに体勢がかわっていたらしい。レティシアがこちらを向いて眠っている。それだけでウィルフレッドの心はあたたかくなる。髪に軽くキスを落とすと、レティシアを起こさないようにと気を付け、静かに寝台を出た。寝台わきに常備している剣を握り、音を立てぬように部屋から出ていく。
「おや、ウィルフレッド、おはよう。それにしても随分と早起きじゃないか」
一階に降りると、新聞を読んでいる公爵ディアルドに遭遇した。新聞を読みながらも、飲むのは水だ。健康志向とかいう事ではなく、愛する妻であるクラウディアとの朝食を毎日楽しみにしているデイアルドは、朝食前には余計なものは口にしないと決めているのだ。
「おはようございます、父上。目が覚めてしまいましてね。それに、少し身体を動かしておこうかと思いまして」
「鈍っているのか?」
「それもあるかもしれません」
「ふっ、この十日の間レティシアに言われて、辺境でも稽古に加わっていたりしたのだろう?鈍るほどでもあるまい。だとすると、他に訳があるんだな?」
「・・・決意が揺るぎそうなんです」
「決意?」
息子は何を覚悟しているのか。精神を落ち着かせたい。集中したい。そして、何かを誤魔化すかのように意識をそちらにめける必要がある素振りである。
「本当は登城したくないんです。シアと一時も離れたくなんてないんです。ですが、後継を育てない事には、いつまでたっても俺が騎士団長のままだとシアに言われて」
「確かにな。私も早く隠居してクラウディアと共に気ままに過ごしたいものだ」
「父上はいつだって母上と一緒にいるではないですか」
「ん?それでも、やはり領地の経営だとか、貴族間の付き合いだとか、やりたくない事は山ほど降ってくるものだ。愛や恋に障害はつきものだなぁ・・・」
「父上・・・もう、愛や恋などを語る年齢でもないでしょう・・・」
「何を言うんだ。私は初めて会った時からずっとクラウディアに恋している。毎日毎日目が覚めて顔を合わせるたびに初恋の日のように胸が高まるんだぞ?こんないい女を妻にできたと思う気持ちと、今だに信じられない気持ちもある」
「それだけ長年一緒にいるのにですか?」
「そうだ。お前は違うのか?レティシアに対して恋する気持ちが冷めることがあると思うか?」
「ないですね」
「だろう?昨日より今日。今日より明日と毎日毎日クラウディアは素敵になっていく。毎日毎日クラウディアに恋をする私は、努力してないと捨てられてしまうのではないかと今だに不安になるぐらいだ」
「・・・父上に聞かされる話の内容ではない気がしますが、そのお心はよくわかります」
「そうだろう、そうだろう。お前も私の息子だからな。好きな女を追いかけて、必死で手に入れに行って、婚約者となるやいなや屋敷に住まわせ溺愛する。まるで昔の私のようだな」
ウィルフレッドはギョッとした顔でディアルドを見ていた。
「なに驚いているんだ?言ってなかったか」
「はい・・・初めて聞きました」
「そうか。しかし、さすが私の息子だ」
満足そうに頷くディアルドを、なんとも言えない表情で見ていたウィルフレッドは、一礼して頭をガシガシかきながら庭へと出ていった。
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