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勘違いと懇願

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父は母を愛していた。そして母も父に愛されていたのだとレティシアは語る。その顔はとても穏やかだった。


「そうか・・・私の付け入る隙はなかったと言う事か?先に出会っておれば変わっていただろうか」

「そうですね・・・先に出会っていたならば可能性はあったかもしれませんね」

「そうだな。誠に残念だ」


そして残念な男がもう一人。


「陛下!」

「ん?」


声のした方を向くと、鬼の形相でウィルフレッドが駆けてきているのが見えた。開けたテラスで茶をしていた二人は、何事かとウィルフレッドの方を見ている。そして、息を切らしながらウィルフレッドは国王に詰め寄った。


「っ、どういう、事ですか!」

「何がだ?」

「あんまり、ですよ!」

「だからなんだと言うのだ?」

「何が残念なんです!先に出会っていればとか、可能性があったとか!シアを口説くのはやめてください!」


国王はポカンと口を開けて固まってしまった。


「ウィル、何を言っているの?」

「何って、陛下がシアを横取りしようとしていたんだろう!?」


レティシアもポカンとしてしまった。さっきの話のどこがそう聞こえたのか。ところどころ、かいつまんで聞いてしまったのだろう。ウィルフレッドは何も言わないレティシアの前に膝をつくと、そのまま右頬を膝に押し付けていた。


「シアは・・・陛下がいいのか?大人の男に魅力を感じるのか?だったら俺だっていずれ歳を重ねればそういった年齢になる。だからそれまでは・・・」


怒りから段々と不安気に弱々しい態度へと変化していく。


「・・・ふはっ!」


耐え切れず笑いが起こる。それは唖然とした表情でウィルフレッドを見ていた国王であった。ついぞ耐え切れずに笑いが出てしまった。ウィルフレッドは振り返り国王を見る。


「すまん、すまん!まさか私相手にまで嫉妬し出すとは」

「陛下がシアを誘惑しようとするからでしょう!」

「なぁに、心配はいらん。夫人を横取りしようなどと思ってはおらん」

「・・・」


ウィルフレッドは半信半疑、信用できないと言わんばかりの表情だった。


「そうよウィル、陛下とはお母様の話をしてたのよ」

「シアの母上・・・?」

「えぇ、陛下があの時お母様との縁談を断らなければ、お父様と出会うこともなく、先に出会ったのは陛下だったはずよね?」

「そうだな」

「そしたら私はいなかったと言う話」

「それは困る」


そう言うと、ウィルフレッドは思い出したように、また膝に頬を擦り寄せ始めた。


「その点に関しては陛下には感謝はする」

「感謝?」

「だってシアの母上であるソハナスの王女と婚姻されていれば、シアは産まれていなかったかもしれないからな」


ウィルフレッドは尚もレティシアの足に擦り寄る。腰に抱きつきまるで幼子のようだ。そんな様子を見ていた国王は羨ましくも微笑ましくウィルフレッドを見ていた。



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