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砦の前で
しおりを挟むエルサとフィーノに相乗りして、コルテオが勝手に悶々としている間に砦についた。砦は隣国との防衛の要よろしく、荘厳で厳格な雰囲気があった。
「エルサお嬢様!?こんな所までいかがなされたのです!?それと・・・こちらの方は?」
砦の門を警護していた若手の騎士が、フィーノに跨がり現れたエルサとコルテオに気付き駆け寄ってきた。エルサと一緒に乗っている男は誰なのか。一緒に乗るほど親しい間柄なのかと騎士は考えあぐねている様子だ。歳を重ねた重鎮の騎士ならばコルテオが領地の者ではない事、はたまた王族や高位の貴族出身者ではない事に気付くだろう。砦や辺境領には、隣国の様子や情勢など、状況把握の為、王宮からの使者であったり、視察などで人が訪れることがある。そういった相手であればある程度の地位もあり、従者や護衛などを率いているものだ。こんなところにちょっと散歩がてら寄っただけという雰囲気でふらりと現れるものでもない。例のごとく目の前の騎士はコルテオがどのような立場か見当がつかずにいるのだ。フィーノからコルテオが先にヒラリと降りるとエルサに手を差し出した。エルサは一瞬驚くも素直に手を借りた。
「突然来て驚かせたわね。彼はコルテオ・ハッサル様。王都で近衛騎士をされているわ。以前に通信機の設置に力を貸してくれたのが彼よ。
コルテオ様はアンバー辺境伯邸に滞在なさっているの」
「そうでありましたか。存じ上げず大変失礼しました」
コルテオは驚いていた。王都では近衛騎士であるというのに、剣を振らないというだけで笑い者だった。いつも下に見られ、敬われることなど殆んどないに等しかったからだ。
「そんなに畏まらなくていいよ。大した人間ではないからね」
コルテオは苦笑しながら答える。だがそれに反論する者がいる。
「そんな風に自分を自分で下げなくてもよろしんじゃないですか?コルテオ様は頑張ってるのに・・・」
「え・・・っと、あ、ありがとうございます」
コルテオはほんのり頬を染めながらも、こんな顔もするのだなと見つめていた。何故なら、エルサが口を尖らせるようにして、頬をぷうっと膨らませるような仕草をして見せたからだ。そして騎士は驚いていた。
(いつも凛としていらっしゃるエルサお嬢様がこんな表情をなさるなんて・・・ソルディオ副団長ほどの美男子がお側におられても表情一つ変えることはないのに。このコルテオ様はそれだけ特別なお方だという事だろうか?優しそうなお方ではあるが、パッと見特段何かに秀でているわけでもなさそうだし・・・女性の好みというのはよくわからないな・・・だが・・・これはひょっとすると・・・)
騎士は思った。これは大ニュースだ!と。その日のうちに砦内に常駐している騎士達に、二人は恋仲だと噂がまわったのは言うまでもない。騎士達も嬉しいニュースと温かく二人を見守ることに決めた。
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