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第一章 始まりの館

Chapter23 ピアノとヴァイオリン

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 戻ったのはちょうどお昼過ぎで、満席だった。
「きゃー、何どうしたの?!」
カシアンがピアノをカウンターの横に置く。
「みんなアイシャママを待ってたのよ。ラビオリとラザニアが無くなって、ミートソースも無いからパスタはトマトパスタで出してたけど…」
フィナアリスが言うと、アルシャインはすぐにエプロンをしてキッチンで手を洗う。
「ごめんなさい、すぐ作るわ!ラザニアは何個?」
「ラザニア10個とラビオリ15個よ!」
マリアンナがパスタを茹でながら言う。
「待ってね…ラザーニャを茹でてから、ミートソースもすぐにやるわ!」
慌てるアルシャインに、アルベルティーナとフィナアリスが手伝う。
マリアンナはパスタ作りとステーキを焼き、リュカシオンとレオリアムとルベルジュノーが後ろで野菜の皮むきをした。

 一段落付いた所で、アルシャインはピッツァを焼く。
「これはマルゲリータ、こっちは角ウサギとコーンのホワイトソース掛けね」
そう言ってピザ窯で焼く。
店内でコーヒーや紅茶を飲んでいる人々が思わず見る程、いい匂いがした。
「そいつは幾らだい?」
ダンヒルが聞くと、アルシャインは窯からピッツァを取り出して切り分ける。
「まだ味見前だから出せません」
そう言ってアルシャインはまずマルゲリータを食べてみる。
「ん~、よく焼けてるわ。これなら大丈夫!」
そう言い、子供達とカシアンの分を小さく切って渡した。
「美味い!」とルベルジュノー。
「これなら15じゃない?」とアルベルティーナ。
「いや、4等分なら12かな」とレオリアム。
みんなが頷いたので、その値段になった。
半分残ったので、早速ダンヒルとロレッソが買った。
角ウサギとコーンのホワイトソース掛けも美味しかったので20Gになった。
これも半分はすぐに売れた。
ディナーの分の下ごしらえをしてから、アルシャインはピアノの丸椅子に座ってピアノのフタを開ける。
そして誰もが聞いた事があるであろう聖歌の〝聖なる山〟を弾いた。
すると、ティナジゼルやクリストフが歌い出した。
「ああ聖なる山よ、神の住まいたる聖なる山」
〝オーレン、オーレン、オーレン、オーレン〟とお客さんもみんな歌い出した。
オーレンとは山の名前の事だ。
それを見て微笑みながらアルシャインはピアノを弾いた。

 夜は、お客さんの中に弾ける人が居て、〝聖なる夜に〟という聖歌を弾いてくれた。
「キラキラまたたく星の灯りが降り注ぐ~夜空にまたたく星が神の祝福となりて降り注ぐ~♪」
ティナジゼルやフィナアリスが歌う。
ティナジゼルは聖歌が好きなようだ。
〝オウリア、オウリア〟…とみんなが歌った。
〝オウリア〟とは、喜ぼうという意味の言葉だ。
やはりピアノを買って正解だった。
みんな楽しそうだし、楽器に触れる事も出来る。
アルシャインはお客さんの中に、ヴァイオリンケースを持った人を見付けて寄っていく。
「ヴァイオリン弾かれるのですか?」
「え、ああ…」
「あの…もしお嫌でなければ、弾いてみてもいいですか?」
そう聞いてみると、そのお客さんは笑ってヴァイオリンを出して貸してくれた。
アルシャインは懐かしそうにヴァイオリンを見つめる。
〈子供の頃に習ったわね…〉
これでも貴族の娘だ。
アルシャインはヴァイオリンを構えて、そっとピアノに合わせて弾く。
思ったより旨かったのでお客さんも驚き、子供達やカシアンも驚いていた。
優雅な音楽が流れて、一同は拍手を送った。
「ありがとうございます」
ヴァイオリンを返して言うと、その青年がケースにしまいながら言う。
「あなたは、お上手なんですね」
「いえ、私なんて全然…」
「謙遜を。…もし良かったらこのヴァイオリンを貰って頂けませんか?」
「ええ?!」
さすがにアルシャインは驚いて仰け反る。
すると青年が言う。
「実は、妹の形見なんです。妹は隣国で聖女をしていましたが、天に召されてしまって…」
「……!」
過労死だ、とすぐに分かった。
しかし実態を知る者はいない。
「あなたを見ていたら、ヴァイオリンを弾く妹を思い出して…だから、受け取って下さい。ただの飾りでいるよりもいいと思うから…」
「あ………はい」
何故か断れずに受け取ってしまった。
ヴァイオリン自体は好きだが、その亡くなった聖女を思うと心が痛い。
しかし自分には何も出来ない。
〈今度、鎮魂歌を弾いてあげましょう〉
そう思って、ヴァイオリンを大切にミシン部屋に置いた。
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