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第一章 始まりの館

Chapter25 聖水の浄化

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 それからマリアンナとルベルジュノーとノアセルジオがベッド作りをして、カシアンとレオリアムとリュカシオンがダイニングのテーブル作りをした。
ダイニングのテーブルには取っておいた大きな一枚板を使う。
慎重に作っていた。
「高級感が出るように磨き上げないとね」とレオリアム。
「ここも一流レストランだしな!」とカシアン。
「…レストランはどんな味?」
そうリュカシオンが聞くとカシアンは苦笑いをする。
「ここの飯のが絶対美味い!…レストランは損した気分になるからな。アイシャもきっとそう思ったぞ」
「そうなんだ…美味しい食事をしてきて欲しかったのにな…」
そうレオリアムが残念そうに言った。

 常連さんがみんなでコトレッタとリゾットを頼むので、てんてこ舞いとなっていた。
アルシャインだけでは手が足りずに、フィナアリスもアルベルティーナもリナメイシーもクリストフも手伝った。
ティナジゼルとメルヒオールは配膳で忙しい。
「今日はみんなライスの気分?!」
ティナジゼルが言いながら運ぶと、ロレッソとエイデンが笑う。
「ここの新メニューは必ず頼むのが常識だろ!」とロレッソ。
「新しいのは早く食いたいからな!」
とエイデン。
そこにルベルジュノーとマリアンナが応援に駆け付けた。

 昼過ぎにやっと落ち着いた。
コーヒーと紅茶を飲んでいる布屋のアデレードとカイルだけだ。
「そういえばアルシャインさん、可愛い花柄の布がたくさん入荷されましたよ!花柄のワンピースやスカートが流行ってるみたいで!」
そうアデレードが笑って言うと、アルシャインは目を輝かせる。
「花柄のスカート~!ワンピースもいいなぁ…きょうはリース作らないといけないし…明日もあるよね?」
「どうかな…」
ボソッとカイルが言う。
「街中の人が花柄のワンピースやドレスを着てるから、無くなるのも早いと思う」
続けてカイルが言うと、アルシャインは涙目になった。
しかし立ち直って祈りながら言う。
「お願い売り切れないで~!」
「…アイシャママ、行って来ていいわよ」
フィナアリスが言うと、アルシャインが驚く。
「私、料理は得意だし、さっきのでコツは掴んだから。マリアンナもアルベルティーナもいるし大丈夫よ」
まだ14歳でも、フィナアリスはしっかりとしていた。
「…じゃあ…行ってくるわ!」
早速お金をカバンに入れていると、カシアンがやってくる。
「俺も行くよ、荷物番で」
するとアデレードとカイルも立ち上がった。
「じゃあ一緒に行こうか」
カイルが言い、お金をテーブルに置く。

 荷車を持って布屋に来ると、アルシャインは目を輝かせて布を見て回る。
「可愛い~あっ、キレーイ!待ってこっち…あ、これも!」
そう言いカシアンに布を預けていく。
「こんなに買えるのか?」
「大丈夫よ…私にはこれがあるの!」
そう言ってカバンから取り出したのは白地小切手。
「これに好きな額を書いて使えってお父様が渡してくれたの!」
そう小声で言うので、カシアンはそれをしまわせた。
「待て待て待て!そうじゃあない!ソレの使い方はそうじゃない!」
「…え?でもお金…」
「それはもっと高い物に使おう、なっ?」
「…分かったわ。足りるかしら…」
「足りるから!足りなかったらここに持ってきた分もあるんだ」
そう言ってカシアンがバックパックをポンと叩く。
隣国ここに移った時にお屋敷に行って、お父君にアイシャの様子を伝えたんだ。そしたら〝頑張れ〟と言ってな」
カシアンはそこから耳打ちする。
「一万くれたんだよ!」
「えー?!」
アルシャインが驚いて仰け反るとカシアンは人差し指を口に当てて言う。
「しー!」
「そんな大金…あ、後でリサイクル屋さんよ!いい?!」
そう小声で言ってからアイシャは迷いながら布選びを続行した。

ワンピースやスカート、そして掛け布団も華やかな方が良いだろうと思って買った。
「買い過ぎたかしら…でも女の子が5人もいるから…すぐ無くなるわね」
「そうだな…」
もはや母親だ、と思いながらもカシアンは苦笑した。
リサイクル屋では、荷車を預けて盗まれないようにしてから中に入る。
「ドアノブとか、廊下に付ける壁掛けランプも欲しくて…」
「ああ、ドアノブ…確かに古かったから、ドアごと替えないと駄目かもな…」
カシアンが言うと、お兄さんがやってくる。
「ああ、いらっしゃい!今日はドアを買いに来たのかい?」
「ドアはサイズを測らないと…ってあるの?!」
アルシャインが驚く。
「あるよ。貴族や商人の家の付け替えたドアとか。見るかい?」
そう言って奥に案内してくれる。
奥の壁にドアが何枚も重ねられていた。
「こういう木の彫刻なんかは人気があるからね」
そう説明する間にアルシャインがドアを見つめる。
「…玄関のドアにしたら…きっといいわね~…でもお値段は……?」
「高いだろうな」カシアンも言う。
「どれも大体2千以上だが……一つだけ、安く譲れるのがあるんだが…」
そう言ってお兄さんが出したのは真っ黒なドア。
「これさ、瘴気やられで黒いんだが…みんな薄気味悪いと言って買わなくてな…」
真っ黒だが、とても細かい模様で美しかった。
「幾ら?」
アルシャインが聞く。
「5百だ」
「3百!聖水の値段が百だから!」
アルシャインが値切る。
「お清め代か~…良しいいだろう!あと、瘴気やられで駄目だった小物とか売れない物も良かったら付けるぜ」
「頂くわ!」
交渉成立だ。
「あんた名は?俺はハンク」
「アルシャインよ。アイシャでいいわ」
「いい名前だな!アイシャマスター!」
そう言い握手をする。

瘴気にやられた小物や棚まで貰った。
「カシアン、教会から聖水を一つ買ってきて」
「一つ?」
「ええ」
アルシャインは微笑して頷く。

聖水も買って帰ると、それらの瘴気やられをまずは人気のない森の中で降ろして置いて、周りに丸く聖水を一滴ずつ垂らしていく。
そしてアルシャインはその前でかがんで祈る。
ドキドキと胸が高鳴る…。
〈もしかしたら、出来るかもしれない…〉
そう思い〝浄化〟を試みた。
聖なる浄化セイン・ピュリファイ!」
唱えると、聖水から光が天に上がり、消える。
すると真っ黒だった品が、茶色や白に変わっていた。
「出来た………カシアン!」
振り返ると、カシアンが髪を上げて見ていた。
「すげー…ホントに聖女だったんだ…」
「ちょ、ちょっと前髪!」
赤くなってアルシャインが言うので、カシアンは仕方なく前髪を下ろす。
「あのね、これは正しい浄化じゃないのよ」
「え?」
「聖女なら、聖水を使わなくてもすぐに浄化出来るわ。でも、聖水を使えばもしかしたらと思ったけど、出来て良かった~!さ、運びましょう」
「なる程…」
騎士に聖女の魔法が分かる筈もない。
ただ感心するだけだ。
カシアンはそれらの品を荷車に乗せて引いた。
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