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46.スモック使いが脱獄

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 フロンティアトリトンズに戻ると、受付嬢ソフィアの前に兵士たちがいた。
「……というわけだ。もし見かけたら連絡を頼む」
「わかりました」

 兵士たちが立ち去ると、ソフィアは僕たちに視線を向けた。
「お帰りなさい、アキノスケ隊長」
「何かあったのかい?」
 そう質問したら、ソフィアは困った顔をした。
「以前に、支部長とアキノスケ隊が苦労して倒した……スモック使いが脱走したそうなのです」
「なんだって!?」


 仲間たちにとってもショッキングな事件だったらしく、特に直接兵士に引き渡したスカーレットの表情は穏やかではなかった。
 彼女はすぐにソフィアに近づく。
「確か、能力者を収容する監獄に送ってもらったはず……どうして逃がしてしまったのかな!?」
「詳しい話はわからないけど……特に警備に問題はなかったみたいですよ?」

 その言葉にウェアウルフのクロエは、信じられないと言わんばかりの表情をした。
「でも、お偉いさんとか軍って……ミスをすぐ隠すじゃない。居眠りでもしていたんじゃないの?」

「或いは……誰かのアビリティかな?」
 僕がそう言うと、クロエは「確かに、それもあり得るね……」と同意した。
 様々なアビリティがある世界だから王国側も対策はしているだろうが、テレパシーを傍受する魔法があるように、対策の抜け穴となるようなアビリティも必ず存在するだろう。


「……そうなると、スモック使いがやりそうなのは、逮捕した僕たちへの復讐だね」
 そう伝えるとキンバリーも頷いた。
「ギルドにいる間も、気を抜かないようにしないといけませんね」

 部屋に戻ると、すぐにキンバリーに質問をした。
「ねえ、キンバリー」
「なんでしょう?」
「敵意を持ったような相手が近づいてきたときに、察知するような魔法ってないかな?」

 そう質問すると、キンバリーは少し考えてから答えた。
「そうですね……私では覚えることはできませんでしたが、敵意なら【ヘイトセンス】というアビリティを元に作られた魔法【エネミーリサーチ】が良いかと」
「その魔法のこと、もっと詳しく知ることはできるかい?」


 協力を求めると、キンバリーはすぐに魔導書を出して関連項目を見せてくれた。
 アビリティ【ヘイトセンス】は、文字通り敵意を見抜く特殊能力のようだ。どうやら、敵意が強いほど赤黒いオーラが目に見えるらしく、攻撃意欲がオーラのキザというか鋭さとして見えるらしい。

 その説明を聞いて、僕はバトルマンガに出てくるオーラの塊のようなものを思い浮かべた。
 筋骨隆々の戦士が闘気を纏うと周囲にオーラのようなモノが見える……それの赤いヴァージョンが【ヘイトセンス】の使い手には見えているようなイメージだろう。


 そして、それを一般人でも使えるように簡略化したのが【エネミーリサーチ】。
 ヘイトセンスほど情報量はないが、視界の一部にレーダーのようなモノが見え、周辺に敵意を放出している人間がいれば色の濃さや大きさで教えてくれる。
 ちなみに、本家本元の【ヘイトセンス】の使い手も、周囲をみたいと思ったときは、エネミーリサーチのように周辺状況を知ることができるようだ。


 途中から部屋にきたスカーレットは、キンバリーと僕の会話を聞いて「????」という表情をしていたが関係ない。
 キンバリーは、ヘイトセンスの説明を「竜の瞳から怒りの感覚を抜き取って頭の上に乗せた感覚」や、エネミーリサーチに関しては「タンポポの綿毛が風のない空間を舞っているイメージ」といった、マナセンスの恩恵を受ける人間にとっては、とてもイメージしやすいたとえ話を用いてくれた。
「さ、さっぱりわからない……」

 まあ、僕も透明な首輪がなければ、彼女と同じ反応になるのだろうが、脳裏にはしっかりと【ヘイトセンス】と【エネミーリサーチ】のイメージが浮かんでいた。

 そして【キリン式テレパシー】や、【ユニコーンアイ】という固有魔法のイメージが脳内で交じり合い、一般魔法【エネミーリサーチ】が変化していく。

 僕の脳裏には【ユニコーンセンス】という固有魔法が浮かんでいた。


「……新しい固有魔法を覚えたよ」
「も、もうできたのですか!?」
「うん。名前はユニコーンセンス。通常時で半径350メートル以内の敵意を感知し、さらに周りの小動物の敵意の向きから隠れている敵も探し出す」

「す、凄いですね……」
 キンバリーだけでなくスカーレットも驚いた様子だったが、ユニコーンセンスにも欠点はある。
「我ながら良い能力だと思うけど欠点があってね……うっそうとした森とか、敵味方が入り乱れて戦ってる場所とか、全員が異様に殺気立ってる賭博場のような場所だと、制度が大きく下がるんだ」


 そう。固有魔法はアビリティを元に作り出した僕専用の魔法だ。だから、本家本元に比べると……やっぱり効果は限定的になる。

 まあ、仕方のないことなんだけどね……




 僕たちが不審者・侵入者対策をしていたとき、魔族の女は生ける屍の性能テストをしていた。
 具体的にどんなことをしていたのかと言えば、捕虜を1人放って、それを生ける屍が10体がかりで捕まえられるかというものだ。

 必死に逃げ回る捕虜の動きは素早く、生ける屍の移動速度に魔族の女はため息を付いた。
「ダメね。こんなんじゃゾンビとは言えないわ」


 そんな折に、女の元にもスモック使い脱走の知らせが届けられた。
 奴の目つきは一瞬で変わったのは言うまでもない。
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