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第02話 待って! 主任の告白が熱すぎます(下)
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「えっ、え、あ、あのっ?」
「篠崎まほろさん、俺は君のことがたまらなく好きです。このうえなく愛しています。どんな君でもこの先ずっと愛していけると誓えますので、俺と付き合って結婚して死ぬまで一緒にいてくれませんか」
「え……ええっ!?」
「結婚って……そ、そこまで言うんですか!?」
「きゃぁ~っ……えっ、すごっ……えぇっ……」
ただひたすらに驚愕の表情を浮かべているまほろ。交際の申し込みだけでなくまさかの求婚までした聡介に驚かされるやら呆れるやらで、なんとも言えない気持ちになる前園。そして、まるでドラマのワンシーンでも見ているかのような気持ちで熱くなってきて、目を輝かせる愛子。夜の住宅街の公園に、四色様々な男女が浮かび上がる。
「俺は田口くんや浅川くんとは違う。自分が悪者にならないような回りくどい方法はとらないし、かといってまほろ自身の心も無視したくない」
「いや、さっきまでほとんど無視してましたよね?」
「ちょっと前園くん、黙りなさいよ。いまいいところなんだから」
(いいところ……か? え、本当に?)
「でも、正直断られたくない。俺は本当に君が欲しい。君の心も身体も全部を手に入れたい。朝から晩まで、しつこいぐらいに君をかわいがりたい」
(だ、か、ら! 本音がだだ漏れすぎる! ほんとにセクハラ発言で通報されるからやめてくれ、伊達主任! 俺はまだあなたと一緒に働きたいんですけど!)
本当は声に出してツッコミを入れたいところだったが、話の腰を折るのも悪い気がしたので前園は懸命に言葉を吞み込んだ。
「君が不埒な輩に狙われて危ない橋を渡るのはもう許せない。生涯をかけて俺が君の全部を愛するから、どうかこの手に落ちてきてほしい」
聡介はそう言うと、すっと右手をまほろに伸ばした。
「まほろ、君のことが好きです。この先ずっと、俺の傍にいてくれませんか」
まほろは伸ばされた聡介の右手をじっと見つめた。恥ずかしくて恥ずかしくて、とてもではないが聡介の顔を見ることはできなかった。けれど、彼の視線がそらされることなくずっと自分に向けられているのはわかる。それはつまり、ものすごい勢いで紡がれる言葉に嘘偽りはないということ。田口とはまた違う意味で強引というか、逃げ道を与えてくれていないような気もしたけれど――。
(――でも……嫌じゃない。伊達主任のこと、ほとんど何も知らないのに……)
アルコールに酔わされて判断力のにぶった頭でも、田口相手にははっきりと覚えた嫌悪感。それ以上私のスペースに入ってこないで、と思った拒絶感を、なぜか聡介には微塵も覚えない。それもそうかもしれない。こんなにも真正面から真正直に好意を示されたら、無下には扱えない。知らないなりにも、聡介がずる賢い田口と違って軽薄でないことはどことなくわかる。
それに、先ほどふと父を思い出した感覚――数少ないながらにも父に感じた安心感を、なぜかほぼ初対面の聡介にも感じた。彼が自分を傷つけることは決してなく、すべての他人が敵になっても聡介だけは最後まで必ず味方でいてくれるような、そんな頼もしさをふっと胸の中に抱いた。女の勘と呼べる代物が、こんな自分にもやはり備わっているのだろうか。
「まほろ、返事をしてくれませんか。どうか〝はい〟と」
聡介が催促する。しかしその声音はあくまでもまほろを気遣うようにうかがうもので、決して威圧的ではない。まほろの「否」を受け取る気は一切ないようではあったが。
「え、えっと……私、伊達主任のこと、ほとんど知らなくて……好き、とは……その……思えないんですけど」
「問題ないですね。これから俺を知って、好きになってくれればいいだけのことです。君が知りたいなら、俺はいくらでも自分をさらけ出して教えます。その代わり、君にも同じ分だけさらけ出してほしいですが」
「あ、あの……でも、私、まだ……け、結婚とかは……わからなくて」
「社会人になったばかりですもんね。将来的に結婚してくれるなら、一年でも二年でも待ちます。五年……はちょっと長いですね、正直。本音は、一日でも早く君と夫婦になって、君の残りの人生に一番近くで寄り添いたいですから」
「えっと……えっと……」
まほろは言葉に詰まった。聡介に何を言っても、三倍から五倍ぐらいの分量で返されてしまう。
(私、断りたいの? どうしたらいいの?)
よく知らない相手から告白された。けれど、意外とそのことを嫌だとは思わない。とはいえ自分も好きですとは明確に言えなくて、どんな返事をするのが正解なのかわからない。
「まほろ、もしも嫌じゃないならひとまず頷いてくれませんか。俺のことをしっかりと好きになるのは、ゆっくりでいいですから」
(すげぇな伊達主任……穏やかなのに強引って、相反する態度を同時にしてるよ)
事の成り行きを見守っていた前園は胸の中で感嘆した。どうにもスイッチが入っておかしくなってしまった先輩だが、まほろが好きすぎるという軸がブレないがゆえに、まほろをどうにかしてでも手に入れたい気持ちと、しかし彼女を尊重したい気持ちが見事に半々ずつの分量で両立している。
「ゆっくり、でも……あの……好きにならない、かも……しれないですけど」
「大丈夫、なるから。俺がいないと生きていけないくらいに君を甘やかしてあげます。だから君は、必ず俺を好きになる」
まほろはぎゅっと目を閉じた。そこそこ時間が経っているが、聡介は跪いて手を伸ばした姿勢のままだ。それだけ真摯にまほろに向き合っている。いくらまほろが弱気な反論をしたところでその姿勢を崩すことがないように、彼の気持ちがしおれて崩れるということも決してないのだろう。ならば、その手にふれてみるぐらいのことはしてもいいかもしれない。
「じゃあ、あの……お付き合い、から……で……よろしく……お願いします」
まほろは目を開くと、おずおずと聡介の手のひらに自分の手のひらを重ね合わせた。すると聡介の手はぎゅっとまほろの手を掴み、さらにぐいっと引っ張る。柵から強制的に立たされたまほろは、同時に立ち上がった聡介の腕の中にあっという間に捕らえられて、肺が潰されてしまうのではないかと思うほどに強く抱きしめられた。
「うっ……だ、て主任……っ」
「職場ではそれでいいですが、外では名前で呼んでください」
「そ……聡介、さん……っ! 苦しいです!」
「ああ、すみません。感動のあまり、つい」
聡介は腕の力を弱めた。しかし、まほろを離す気はないようだった。
「まほろ……君はいい匂いがする。それに小さくて非常に愛らしいサイズですね。いくらでも抱きしめられます。髪はつやつやで、慌てた声もかわいらしくて、ずっと見ていたいです」
「い、言わなくていいですからっ、そういうことはっ」
「なぜ? 言わないわけにはいきませんよ。君にはしっかりと俺を好きになってもらわなきゃいけない。だからまずは、俺がどれだけ君のことを好きかわかってもらわないと」
「はぁ……すごい……すごいものを見ちゃいました」
新しく誕生したカップルに、愛子は深いため息をついた。田口と浅川との飲み会でした嫌な思いは、もうどこかへ吹き飛んでしまったようだ。
「よかったね、篠崎さん。こんなに熱烈に愛されてたら、きっと幸せになれるよ」
そう言ってほほ笑ましく笑う前園を聡介の腕越しに見やったまほろは、「そうかなあ?」と心底疑問に思った。
それから、前園と愛子が缶コーヒーを自販機横のゴミ箱に捨てに行き、四人は駅に向かった。もしかしたら聡介はこのまままほろをお持ち帰りするかもしれないと前園は危惧したが、聡介は「離れがたいのが本音ですが今日はひとまず解散です。連絡先を交換したから、後日あらためて、デートから始めましょう」と言ってまほろを自宅へ帰した。ここでもやはり、まほろを手にしたい気持ちと彼女を大事にしたい気持ちがきちんと両立されているようだった。
こうして熱烈すぎる溺愛をしてくる主任の押しに負けたウサちゃんことまほろは、めでたく聡介と付き合うことになったのだった。
◆◇◆◇◆
「篠崎まほろさん、俺は君のことがたまらなく好きです。このうえなく愛しています。どんな君でもこの先ずっと愛していけると誓えますので、俺と付き合って結婚して死ぬまで一緒にいてくれませんか」
「え……ええっ!?」
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「俺は田口くんや浅川くんとは違う。自分が悪者にならないような回りくどい方法はとらないし、かといってまほろ自身の心も無視したくない」
「いや、さっきまでほとんど無視してましたよね?」
「ちょっと前園くん、黙りなさいよ。いまいいところなんだから」
(いいところ……か? え、本当に?)
「でも、正直断られたくない。俺は本当に君が欲しい。君の心も身体も全部を手に入れたい。朝から晩まで、しつこいぐらいに君をかわいがりたい」
(だ、か、ら! 本音がだだ漏れすぎる! ほんとにセクハラ発言で通報されるからやめてくれ、伊達主任! 俺はまだあなたと一緒に働きたいんですけど!)
本当は声に出してツッコミを入れたいところだったが、話の腰を折るのも悪い気がしたので前園は懸命に言葉を吞み込んだ。
「君が不埒な輩に狙われて危ない橋を渡るのはもう許せない。生涯をかけて俺が君の全部を愛するから、どうかこの手に落ちてきてほしい」
聡介はそう言うと、すっと右手をまほろに伸ばした。
「まほろ、君のことが好きです。この先ずっと、俺の傍にいてくれませんか」
まほろは伸ばされた聡介の右手をじっと見つめた。恥ずかしくて恥ずかしくて、とてもではないが聡介の顔を見ることはできなかった。けれど、彼の視線がそらされることなくずっと自分に向けられているのはわかる。それはつまり、ものすごい勢いで紡がれる言葉に嘘偽りはないということ。田口とはまた違う意味で強引というか、逃げ道を与えてくれていないような気もしたけれど――。
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アルコールに酔わされて判断力のにぶった頭でも、田口相手にははっきりと覚えた嫌悪感。それ以上私のスペースに入ってこないで、と思った拒絶感を、なぜか聡介には微塵も覚えない。それもそうかもしれない。こんなにも真正面から真正直に好意を示されたら、無下には扱えない。知らないなりにも、聡介がずる賢い田口と違って軽薄でないことはどことなくわかる。
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「まほろ、返事をしてくれませんか。どうか〝はい〟と」
聡介が催促する。しかしその声音はあくまでもまほろを気遣うようにうかがうもので、決して威圧的ではない。まほろの「否」を受け取る気は一切ないようではあったが。
「え、えっと……私、伊達主任のこと、ほとんど知らなくて……好き、とは……その……思えないんですけど」
「問題ないですね。これから俺を知って、好きになってくれればいいだけのことです。君が知りたいなら、俺はいくらでも自分をさらけ出して教えます。その代わり、君にも同じ分だけさらけ出してほしいですが」
「あ、あの……でも、私、まだ……け、結婚とかは……わからなくて」
「社会人になったばかりですもんね。将来的に結婚してくれるなら、一年でも二年でも待ちます。五年……はちょっと長いですね、正直。本音は、一日でも早く君と夫婦になって、君の残りの人生に一番近くで寄り添いたいですから」
「えっと……えっと……」
まほろは言葉に詰まった。聡介に何を言っても、三倍から五倍ぐらいの分量で返されてしまう。
(私、断りたいの? どうしたらいいの?)
よく知らない相手から告白された。けれど、意外とそのことを嫌だとは思わない。とはいえ自分も好きですとは明確に言えなくて、どんな返事をするのが正解なのかわからない。
「まほろ、もしも嫌じゃないならひとまず頷いてくれませんか。俺のことをしっかりと好きになるのは、ゆっくりでいいですから」
(すげぇな伊達主任……穏やかなのに強引って、相反する態度を同時にしてるよ)
事の成り行きを見守っていた前園は胸の中で感嘆した。どうにもスイッチが入っておかしくなってしまった先輩だが、まほろが好きすぎるという軸がブレないがゆえに、まほろをどうにかしてでも手に入れたい気持ちと、しかし彼女を尊重したい気持ちが見事に半々ずつの分量で両立している。
「ゆっくり、でも……あの……好きにならない、かも……しれないですけど」
「大丈夫、なるから。俺がいないと生きていけないくらいに君を甘やかしてあげます。だから君は、必ず俺を好きになる」
まほろはぎゅっと目を閉じた。そこそこ時間が経っているが、聡介は跪いて手を伸ばした姿勢のままだ。それだけ真摯にまほろに向き合っている。いくらまほろが弱気な反論をしたところでその姿勢を崩すことがないように、彼の気持ちがしおれて崩れるということも決してないのだろう。ならば、その手にふれてみるぐらいのことはしてもいいかもしれない。
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