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第2章

第16話『あおいと2人きりの放課後-前編-』

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 午前中と同じように、午後の授業も担当する先生の自己紹介や、授業内容について軽く説明するのがメインの教科が多い。
 ただ、担任教師の佐藤先生が担当する化学については、化学の授業内容の説明をした後は教科書の内容について授業が行なわれた。先生の教え方は分かりやすいし、予習もしていたので授業の内容が頭にするする入っていった。



「それでは、これで終礼を終わります。週が変わったから、今週の掃除当番は香川さんの列……2班になるよ。では、また明日」
「起立。礼」
『さようならー』

 クラス委員の男子生徒による号令で終礼が終わり、今日も放課後になった。今日から授業開始だったけど、あっという間に時間が過ぎていったな。月曜日が早く過ぎ去ってくれて嬉しい。これだけで、週末が大きく近づいたような気がする。

「今週は私達の班が掃除当番ですか」
「そうだね。頑張ろうね、あおいちゃん」
「はい、頑張りましょう!」
「2人とも掃除頑張って。俺、廊下で待ってるよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、リョウ君」

 俺はスクールバッグを持って教室を出て、廊下であおいと愛実を待つことに。
 陸上部に向かう道本と鈴木と海老名さんはもちろんのこと、部活やバイトに向かうクラスメイトや別のクラスの友人に「頑張れ」とか「またな」と声を掛ける。今週は全校で部活見学と仮入部期間なので、部活に行く友人達の多くは新入部員の獲得に意気込んでいた。
 また、俺の幼馴染のあおいが転入したのを知ったようで、別のクラスの友人の中にはあおいが誰なのかを教えてほしいと尋ねてくる奴も。掃除しているあおいのことを教えると、

「凄い美人じゃないか。可愛い香川と双璧を成しているぞ」

「滅茶苦茶レベルの高い幼馴染がもう一人いたとは。羨ましすぎる。どうすれば、2人も幼馴染ができるんだ? 麻丘がイケメンだからか? それとも、前世と今世で徳を積みまくったのか?」

 などと、あおいや愛実を褒めたり、俺を羨ましがったりする言葉を言っていた。2人を褒めてもらえると幼馴染として嬉しいものだ。あと、友人達の反応を見て、俺の幼馴染達はとても魅力的なのだと改めて実感した。
 その後は投稿サイトで公開されているラブコメの短編小説を読みながら、あおいと愛実が来るのを待つ。ラブコメをたくさん書いている作者だけあって、この短編も結構面白いな。

「お待たせしました!」
「掃除終わったよ、リョウ君」

 集中して読んでいたので、気づけばすぐ近くにバッグを持ったあおいと愛実の姿が。掃除が終わったからか、2人とも嬉しそう。

「2人とも掃除お疲れ様。それじゃ、帰るか」
「はいっ!」
「私は途中まで。今週は仮入部期間だから、毎日調理実習室に行くの」
「そうなのか」

 見学しに来る生徒や仮入部の生徒のためだろう。それに、愛実は部活動説明会に参加するほどの部員だから、毎日行くのだと思う。

「部活、頑張ってくださいね」
「一人でも多く新入部員が来てくれるといいな」
「うん! ありがとう!」

 愛実は可愛らしい笑顔でそう言った。この笑顔で調理実習室に来た生徒に接すれば、結構な数の生徒がキッチン部に入部するんじゃないだろうか。
 俺達は3人で2年2組の教室を後にする。
 階段で下に降り、特別棟に行ける渡り廊下がある3階に辿り着いたとき、愛実とは別れた。
 愛実と別れてからはあおいと2人きりで昇降口を目指す。
 そういえば、あおいと2人きりで下校するのはこれが初めてか。初日は愛実と3人だったし、次の登校日は俺はバイトがあって別行動だったから。

「涼我君と2人きりで下校するのは今日が初めてですね」
「そうだな。俺も同じことを考えてた」
「ふふっ、そうですか」

 あおいは楽しそうに言った。

「今日もアニメイクに行きますか?」
「そうだな。バイトとか特に予定がない日は、とりあえずアニメイクに行くことが多いよ」
「そうですか。では、とりあえずアニメイクに行きましょうか」
「ああ」

 それからすぐに俺達はすぐに昇降口に辿り着き、上履きからローファーに履き替える。
 教室A棟を出ると、校門までの間にチラシを持った生徒や、試合のユニフォームを着た生徒などがたくさんいる。新入生中心に部活に勧誘するためかな。……おっ、教室B棟から女子生徒が歩いてきた。

「部活入りませんか!」
「見学しませんか!」

 と女子生徒に群がるようにして勧誘している。

「凄い勧誘ですね」
「そうだな。去年も仮入部期間のときは、今のように校門の前まで生徒がたくさんいたよ」

 去年、俺も勧誘の嵐に遭ったな。中には押しつけるような形でチラシを渡されたり、目の前に立たれてしまったりとしつこく勧誘する生徒がいたっけ。「バイトする予定なので!」の一点張りで切り抜けたことを覚えている。今年は「バイトしているんで!」の一点張りで勧誘を撥ね除ける予定だ。

「そうですか。前の学校でも、入学直後の時期は昇降口から校門までの間に勧誘する生徒がいっぱいいました」
「そうだったんだ。どの学校でも一緒なのかもな。俺達は2年だから、さっきの女子生徒のときよりは来ないと思うけど……覚悟はしておいた方がいいと思う」
「分かりました」
「ただ、俺が一緒だから安心してくれ。強引に誘ってきたときは俺が助ける」
「心強いですね。涼我……先輩」
「へっ?」

 まさか、あおいから先輩呼びされるとは思わなかった。だから、間の抜けた声が漏れてしまった。あと、笑顔で言うからあおいが凄く可愛く見えて。それにドキッとして。

「どうして先輩呼び? いい聞き心地だったけど」
「助けると言ってくれたとき、頼れるオーラが凄く出ていたので、先輩呼びしてみたくなっちゃいました。実際、私より1年早く調津高校に通っていますし」
「ははっ、そっか。……じゃあ、行くか」
「はいっ!」

 俺達は校門を目指して歩き出す。
 すると、さっき女子生徒を勧誘していた生徒達の大半が俺達の方に視線を向ける。放課後になってから少し経つけど、この時間に下校するということは部活動には入っていないと考えているのだろうか。
 生徒達は俺達の方にやってきて、

「君、なかなか背高いな! 俺達とバスケやらないか?」
「あたし達と一緒にバンド組もうよ!」
「儂らと囲碁将棋をやらぬか!」

 情熱さと必死さを感じる言葉で勧誘してくる。中にはチラシを押しつけるようにして渡す生徒もいる。

「すみません。俺、バイトしているんで」

 この言葉を言いまくり、俺の前から勧誘する生徒達を離れさせる。去年よりも効き目があるな。バイトパワー凄い。

「私、今のところはバイトが一番したいので!」

 あおいは大きめの声でそう言っている。威勢がいいので、あおいに勧誘している生徒達も彼女から離れていく。
 もうすぐ校門に辿り着く。そう思ったときだった。

「ねえ。サッカー部でマネージャーやらない? 君みたいな綺麗な子がいると、部員達もやる気になりそうなんだ」

 体操着姿の茶髪の男子生徒があおいの前に立ちふさがり、あおいの右肩を掴んでくる。その様子を見た瞬間、お花見で酔っ払った男達にあおいと愛実がナンパされているのを思い出した。

「申し訳ありません。マネージャーをするのには興味ありませんので」
「じゃあ、帰る前にチラッと校庭を見るだけでも――」
「ごめんなさい。これから彼女と駅の方にデートしに行くんで」

 そう言い、俺はあおいの左手をそっと掴む。このくらいしないと、この男子生徒は素直に引き下がりそうにないから。
 デートすると言ったからだろうか。あおいの顔は頬中心にほんのりと赤くなっていて。そんなあおいは俺と目が合うとニッコリ笑った。

「そうなんですよ。これから彼と駅の方に放課後デートする約束で。あと、他の方にも言っているんですけど、私、今のところはバイトを一番したいので。すみません」
「……そ、そうなのか。こっちこそすまなかったな」

 がっかりとした様子でそう言うと、男子生徒はあおいの右肩から手を離した。他の人にも言っているという言葉もあり、バイトしたい気持ちが強い印象を彼に与えることができたようだ。
 校門まであと少しだし、あおいと手を繋いでいる状態。なので、あおいの手を引いて早歩きで校門を出た。

「何とか学校を出られたな」
「そうですね。サッカー部の生徒に勧誘されたときの涼我君、頼もしかったです」

 あおいはそう言うと、俺に向けて嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

「お花見のときのことを思い出してさ。2人きりだったから、デートするって言うのがいいかなと思って。……あっ、手を繋いだままだったな。ごめん」

 俺はあおいの左手をそっと離す。
 ただ、その瞬間に、あおいは俺の右手をぎゅっと握ってきた。

「嫌ではありません。むしろ、涼我君の手の感触や温もりを感じられることに安心して。ここまで手を引いてくれたことが嬉しくて。ですから、もう少しだけ……アニメイクに着くまでの間、手を繋いだままでもいいですか?」

 しっかりとした口調で言い、あおいは笑顔のまま上目遣いで俺を見つめてくる。俺の右手を掴む力がより強くなって。だから、先輩呼びされたときよりもドキドキする。昔はあおいと手を繋いでも何とも思わなかったのにな。

「いいよ、分かった」
「ありがとうございますっ!」

 あおいは眩しい笑顔で俺にそう言ってきた。その姿は小さい頃と変わらない。
 俺達は手を繋いだまま再び歩き出す。あのサッカー部の生徒にデートすると言ったし、あおいと2人きりなので放課後デートな気分になって。アニメイクに到着するまで手を離さなかった。
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