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最終章

第14話『水をかけ合って』

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 あおいと愛実に背面を塗ってもらった後は、自分で体の前面を塗っていく。2人に筋肉がついてきたと言われたからか、自分で見ても前より筋肉があるような気がしてきた。

「おいっちにーさーんしっ!」

 鈴木の元気な掛け声が聞こえてくる。なので、周りを見てみると……シートの外で鈴木と須藤さんと道本がストレッチしている姿が見える。体を動かすし、ケガを防止するためにもストレッチは重要だ。鈴木と道本はインターハイ目前だから特にしっかりとやってほしい。
 あおいと愛実と海老名さんは日焼け止めを塗り終わり、3人もシートの外に出てストレッチを始める。

「いやぁ、高校生の少年少女達がストレッチをしている姿は美しいね。特に少女達は」

 佐藤先生はとてもいい笑顔でそう言い、あおいや愛実達を見ている。こういう場面も美しいと思えるとは。先生は幸せな脳の構造をしていると思う。先生はシートに座りながら軽くストレッチをしていて。そんな先生の姿も美しいと思う。
 俺も日焼け止めを塗り終わり、みんなのところへ行き、一緒にストレッチを行なった。中学以降は体育の授業は男女別なので、女子と一緒にストレッチすると懐かしく感じられた。

「よし、このくらいでいいか」
「そうだね。そういえば、あおいちゃんはどんな遊具を持ってきてくれたの?」

 愛実はあおいにそう問いかける。今回、海水浴に必要なものやあるといいものを分担して持ってくることになっており、あおいは遊具担当になったのだ。

「浮き輪とビーチボールとフロートマットですね」
「どれも王道の遊具だね」
「そうね。浮き輪かフロートマットに乗ってゆったりとしたいわ」
「気持ち良くていいですよね。ポンプも持ってきたので、それで膨らましましょう」

 それから、あおいは持ってきたトートバッグから、膨らます前の遊具3つとポンプを取り出す。
 浮き輪とビーチボールはあおいが、その2つよりも大きいフロートマットは俺がそれぞれポンプを使って膨らました。ポンプがあるからそこまで疲れずに膨らませられたけど、これがなかったら結構キツかっただろうな。

「おっ、ビーチボールがある! これ使って遊んでいいか?」

 鈴木がビーチボールを使いたいとあおいに言ってきた。
 いいですよ、とあおいは快諾。持ち主のあおいがいいと言ったのもあり、その場にいた俺、愛実、海老名さんも「いいよ」と言った。
 ありがとな! と鈴木はビーチボールを持って、須藤さんと道本のところへ行った。そういえば、去年も鈴木はビーチボールで2人と一緒に遊んでいたっけ。

「俺達はどうしようか?」
「とりあえずは……海に入って、水をかけ合いたいですね」
「いいね! 海に来ると最初にそれをすること多いよね、リョウ君」
「そうだな。まずはそれをするか」
「じゃあ、あたしはその様子を浮き輪に乗りながら眺めるわ」
「私はレジャーシートでのんびりしながら、教え子達と美里ちゃんの遊ぶ姿を眺めるよ」
「じゃあ、行きましょうか!」

 楽しげな様子でそう言うと、あおいは俺の手を引いて海へと向かう。そういえば、小さい頃に海水浴に来たときも、海を目の前にしてはしゃいだあおいが俺の手を引いたっけ。
 また、愛実は浮き輪を持った海老名さんと手を繋いで俺達に続く。2人も楽しそうな笑顔を浮かべている。
 あおいと一緒に、俺は1年ぶりの海に入る。ほんのりと冷たさが感じられて気持ちがいい。
 波は基本的には小さく、たまにちょっと高めの波がある程度。これなら海で色々な遊びができそうだし、海老名さんも浮き輪に乗ってゆったりとできそうだ。

「ほんの少し冷たくていいですね!」
「そうだな。今日は暑いから凄く気持ちいいな」
「じゃあ、もっと気持ち良くなろうよ、リョウ君、あおいちゃん」

 それっ、と愛実は横から俺とあおいに向かって海水をかけてくる。そのことで、冷たい海水が顔にかかって気持ちがいい。

「おっ、気持ちいいな!」
「きゃっ! 冷たくて気持ちいいですね! じゃあ、ここら辺で水をかけ合いますか」

 笑顔でそう言うと、あおいは俺の手を離して、俺や愛実とは少し沖の方に行く。あおいの腰のあたりの深さなので大丈夫だろう。
 また、愛実の近くで、海老名さんは浮き輪の上に座る。波も穏やかでゆったりしているからか、海老名さん顔には柔らかな笑みが浮かんでいて。そんな表情もあり、海老名さんがとても大人っぽく見える。俺と目が合うと、海老名さんは微笑みながら小さく手を振ってくれて。可愛いな。

「涼我君、愛実ちゃん、それっ!」

 あおいの元気な声が聞こえた瞬間、海水が顔にかかってくる。

「おっ、冷たい!」
「きゃっ! 顔にかかると冷たいね!」

 と、愛実は笑顔で話す。
 また、海水をかけたあおいの方を見ると……俺と愛実に同時に海水をかけられたからか、結構楽しそうな様子。今のあおいを見ていると、水をかけたい気持ちが膨らんできた。

「やったな、あおい! さっきは愛実にもかけられたし、2人にお返しだ!」

 それっ! と左手であおいに、右手で愛実に向かって海水を思いっきりかき上げる。その水はあおいと愛実の顔にクリーンヒットした!

「きゃっ、冷たいですっ!」
「冷たいねっ!」

 あおいも愛実も普段よりも高い声でそう言う。2人とも顔に水がかかったけど、とても楽しそうにしている。あと、海水で濡れた2人の笑顔がとても綺麗で。そんな2人を見ているとドキッとした。
 それからも、俺はあおいと愛実と3人で水をかけ合う。
 水をかけるだけなのに凄く楽しいな。それも、かけ合っている相手があおいと愛実だからかもしれない。
 あおいとは11年ぶりで、あおいと愛実と同時に海で遊ぶのは初めて。なので、夢のように思えて。ただ、冷たい海水が何度も顔にかかるから、これが現実なんだって実感できて。だから、楽しそうにしているあおいと愛実が近くにいることがたまらなく嬉しい。
 たまに、俺達の近くにいる海老名さんに3人でかけるときもあって。それも凄く楽しい。

「ふふっ、今度は誰を狙いましょうかねぇ」

 あおいは不適な笑みを浮かべながら、俺、愛実、海老名さんの方を見る。あおいは結構思いっきりかけることがあるからな。
 ただ、沖を背にして、俺達のことを見るのに集中していたからかもしれない。

 ――ザバーンッ!
「きゃっ!」

 海に入ってから一番高い波が、背後からあおいを飲み込んだ。そのことであおいが俺達の目の前から姿を消してしまう。
 周辺を見ると……愛実は元々いる場所に立っている。海老名さんは……浮き輪に乗っているのもあり、高い波に乗って、砂浜の近くまで移動してしまう。ただ、今も浮き輪に乗っている姿を確認できたから、彼女も大丈夫だな。

「あおい、どこだ!」
「あおいちゃん!」

 今もあおいが水面から出てこない。
 ここは俺のお尻くらいの深さがあるし、波しぶきもあって海の中の様子が見えない。あおい、どこに行ったんだ? 海の水もちょっと冷たいし、波に飲み込まれて気を失ってしまったか?

「あおいっ!」
「……ぷはっ!」

 俺のすぐ目の前で、あおいは顔を海面から出した。

「あおい、大丈夫か?」
「あおいちゃん大丈夫?」
「はい。後ろからいきなり高い波が来たので。頭から海水を被ったのもあって驚いちゃって。その場で倒れちゃったんです。たまに、沖の様子も確認しないとダメですね」

 苦笑いしながらそう言い、あおいはその場で立ち上がる。
 しかし、波に飲まれてしまうまでとは違い、あおいの水着のトップスが脱げてしまっていた! 俗に言うポロリである。そのせいで、あおいの綺麗な胸が見えてしまう。すぐに顔を逸らすけど、あおいの胸が脳に焼き付いてしまい、顔を中心に熱くなっていく。

「ど、どうしましたか? 顔を横に向けて。赤いですが……」
「えっと、その……」
「あおいちゃん! 水着脱げてるよ!」
「えっ? ……きゃあああっ!」

 あおいの悲鳴が響き渡る。どうやら、あおい自身もポロリしてしまったことに気付いたようだ。
 あおいはもう胸を隠しただろうか。そう思いながら、あおいをチラッと見ると……あおいが両手で胸を隠していた。そんなあおいの顔は物凄く赤くなっている。小さい頃を含めても、ここまで顔が赤いあおいは見たことない。

「ううっ、水着が脱げてしまうなんて。きっと、波の勢いや海に倒れたことで脱げてしまったんでしょうね……」
「そうだろうな。周りを見ても……見当たらないな」
「私、あおいちゃんの水着を探してくるよ。リョウ君はあおいちゃんの側にいて。体が大きいから、周りの人から胸を隠しやすいだろうし」
「ああ、分かった」
「お願いします、愛実ちゃん」

 俺達がそう言うと、愛実は「うんっ」と笑顔で返事をして、砂浜の方に向かって歩いていった。大きな波があったから、砂浜の方へ流れ着いている可能性が高そうだ。
 砂浜の方を見ると……パッと見ただけでは、あおいの水着が浮いているようには見えないな。あと、砂浜で鈴木と須藤さんと道本がビーチボールで遊んでいたり、レジャーシートで佐藤先生がフロートマットでうつぶせになってのんびりしたりしている様子が見える。あの雰囲気からして、あおいのポロリ事件には気付いていないようだ。

「漫画やアニメやラノベの水着回では、ヒロインが胸をポロリしてしまうことがありますが、まさか自分が経験してしまうなんて。再現をしたくなるシーンはありますけど、これは再現したくなかったですね……」

 俺のことをチラチラと見ながら、あおいはしおらしい雰囲気でそう言う。さすがのあおいもポロリは嫌に思うか。

「水着回の定番シーンだけど、俺も実際にポロリした人を見るのは初めてだな」
「そ、そうですか。……ちなみに、見ましたか? 私の胸。顔が赤くなっていましたから、見ちゃいましたよね……?」

 あおいは俺の目を見ながらそう問いかけてくる。ここで嘘をついても意味ないな。

「……一瞬だけど、見えた」
「や、やっぱり見えてしまいましたか。ど、どうでした?」
「感想を訊くのかよ」
「す、好きな人ですから」
「……さすがに10年経てば成長しているんだって思った。なかなか大きいし」
「……そうですか」

 あおいは依然として顔がかなり赤いけど、口角が上がって。どうやら、正直に言って正解だったようだ。

「私の水着、見つかるでしょうか。見つからなかったらどうしよう……」
「きっと見つかるさ。……万が一見つからなかったら、愛実や海老名さんにタオルかシャツを持ってきてもらおう。そのときまで、俺が側にいるから安心しろ」
「ありがとうございます」

 俺が頭を優しく撫でると、あおいは嬉しそうな笑顔でお礼を言う。ポロリしてしまってショックだろうけど、あおいの顔に笑みが戻ってきて一安心だ。
 周りの人に胸を見られないようにするためか、あおいは俺にさらに近づいてくる。胸を隠している腕が俺に触れるかどうかというところまで。

「周りに人がいるので、こういうことは恥ずかしくて嫌だなって思います。ですが、もし涼我君と2人きりだったら嫌だとは思いません」
「あおい……」
「……大好きな涼我君なら、私の体に触れたり、え……えっちなことをしたりしてもいいですからね」

 甘い声色でそう言うと、あおいは俺のことを見上げてニコッと笑ってきた。
 あおいの可愛らしい笑顔や今の大胆発言、胸を両手で隠している姿もあって体が急激に熱くなって。海水に浸かっている部分でさえも熱をもっていることが分かって。きっと、あおいと同じで顔が真っ赤になっているんだろうな。

「……覚えておく」

 何て返事をすればいいのか分からず、とりあえずそう言っておいた。あおいはそれに満足したのか、ニコッと笑って小さく頷いた。
 あおいの裸が見られないように、俺は右手をあおいの背中に回して、少し抱き寄せる。そのことで、胸を隠しているあおいの手が、俺の体にしっかりと触れる。俺の行動もあってか、あおいの口角が上がった。

「あおい、あったわ!」
「これだよね!」

 背後から愛実と海老名さんの声が聞こえてきた。
 ゆっくりと振り返ると、こちらに向かって歩いてくる愛実と海老名さんの姿が見える。愛実の右手には青いビキニのトップスが。

「あれじゃないか、あおい。色や形的に」
「そうだと思います。……きっとそれです!」

 あおいは大きめの声でそう言った。2人が持ってきてくれた水着があおいのものだといいけど。
 それからすぐに、愛実と海老名さんが俺達のところにやってくる。愛実はあおいにビキニのトップスを渡す。

「これですか?」
「色や形……サイズも私のものです! これです!」
「良かった! 理沙ちゃんが見つけたんだって」
「さっきの大きな波で結構浅いところまで流されてね。戻ろうとし始めたときに、そのトップスが浮いていたから拾ってね。その直後に、あおいの水着が脱げたって愛実から聞いたから、きっとあおいのものだろうって思ったの」
「そうだったんですね! 理沙ちゃん、ありがとうございます! 愛実ちゃんも!」

 あおいはとても嬉しそうな笑顔で、愛実と海老名さんにお礼を言った。
 やっぱり、あおいを飲み込んだ波の勢いで、砂浜の近くまで流れていったんだな。ただ、浮き輪に乗って浅いところまで移動した海老名さんがいたから、運良くすぐに見つけられたのだろう。あおいの水着が見つかって良かった。

「涼我君。その……着替えるので浜辺の方を向いていてくれますか? さっきチラッと胸を見られましたけど、恥ずかしいので」
「分かった。浜辺側からは俺がガードするよ」
「ありがとうございます」

 それから、俺は浜辺の方を向いて、あおいがビキニのトップスを着直すのを待つ。
 浜辺を見ていると……俺達が陣取ったエリアの近くで鈴木、須藤さん、道本、佐藤先生がビーチボールで遊んでいるのが見える。そんな4人を男女問わず視線を向けている人達の姿も。美男美女だし、鈴木はいかにもスポーツマンだと分かるマッチョな筋肉の持ち主だからな。注目が集まるのは自然なことだろう。

「涼我君、終わりました」

 あおいがそう言ってきたので、俺は沖の方に振り返る。すぐ目の前に、ビキニのトップスを身につけたあおいの姿があった。

「ビキニが見つかって良かった」
「はいっ。あと、涼我君も……脱げてしまった私の側にいてくれてありがとうございました。涼我君のおかげで安心できました」
「そうか。あおいの役に立てて良かったよ」

 あおいに笑顔が戻ったから。
 ポロリというハプニングを目撃したのは初めてだから、今回の海水浴はより忘れられないものになりそうだ。
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