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最終章

第15話『磯遊び』

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 あおいの水着が戻ってからも、あおいと愛実と海老名さんと水をかけ合って遊んだ。
 ただ、水をかけ合ってみんな少し疲れたり、あおいが「喉が渇きました」と言ったりしたので、一旦、レジャーシートに戻って休憩することに。
 レジャーシートに戻っていると、かなり浅いところで鈴木と須藤さんが水をかけ合って遊んでいた。

「愛実さん達を見ていたら、私達も水をかけ合って遊びたくなってね」
「水をかけ合うのも楽しいな! 冷たくて気持ちいいし!」
「そうね! 力弥君!」

 と、鈴木と須藤さんは水をかけ合って楽しんでいる様子。2人とも幸せそうな笑顔になっていて。本当に仲のいいカップルだと思う。また、2人を見ながら、あおいが「いいな……」と呟いているのが印象的だった。
 海から出て砂浜に戻ると、レジャーシートの中では道本と佐藤先生がガールズラブ漫画やアニメについて談笑していた。2人は車の中でもこの話題で話が弾んだのだという。2人ともガールズラブ作品が大好きだからなぁ。
 また、佐藤先生はフロートマットの上で寝そべっていた。先生曰く、マットが柔らかいのでとても気持ちいいらしい。
 俺達4人はそれぞれ自分のバッグから飲み物を取り出して、水分補給することに。
 ちなみに、俺はワンタッチの水筒に入っている冷たいスポーツドリンクだ。喉が潤され、スポーツドリンクの冷たさが染み渡っていく感覚が心地いい。お尻のあたりまで海に浸かっていたけど、日なたにずっといたし、あおいのハプニングもあって体が熱くなったからかもしれない。

「あぁ、スポーツドリンク美味しいですっ!」

 そう言い、あおいは自分の水色の水筒に口を付けている。爽やかな笑顔になっているから、あおいがとても美しく見えて。

「麦茶美味しいな」
「体を動かした後だものね。あたしはスポーツドリンク。喉が潤されるわ。海で遊ぶのって意外と汗掻くし、定期的に水分補給をしていかないとね」

 落ち着いた笑顔でそう言う海老名さん。陸上部のマネージャーらしいと思う。今の海老名さんを見ていると、陸上部に入っていた中1の夏を思い出す。

「どうしたの、麻丘君。あたしのことをじっと見て」
「中1の夏頃のことを思い出してさ。部活中に水分補給をしっかりしてって何度も言っていたから」
「俺も思い出したよ、麻丘。あと、今でも言ってくれるぞ」
「そうなんだ」
「熱中症になったら元も子もないからね。麻丘君も朝にジョギングするけど、水分補給はしっかりしてね」
「は、はい」

 まさか、俺にも注意してくれるとは。予想外だった。ただ、その展開が面白かったらしく、あおいと愛実、道本、佐藤先生は声に出して笑う。
 最近は朝早くても暑いと思う日が多くなってきたからな。道本が誕生日プレゼントしてくれた水筒にスポーツドリンクを入れてジョギングしているよ。
 それからも、あおいや愛実達と談笑し、たまにスポーツドリンクを飲みながら休憩をする。日陰で脚を伸ばしているからゆったりできて。たまに、海から吹く柔らかな潮風が気持ちいい。

「次は何をして遊びましょうか?」

 休憩をし始めてから10分ちょっとして、あおいが俺達にそう言ってくる。

「あの岩場に行ってみない?」

 愛実はそう言うと、海水浴場の端の方にある岩場の方を指さす。今は親子と思われる夫婦と小学校低学年くらいの男の子が散策している。

「海で遊んだし、今度は岩場を散策するのもいいかなって」
「探検みたいな感じもして楽しそうだな。小学生の頃は海水浴に行くと、愛実と一緒に岩場を歩くことも結構あったよな」
「そうだねっ」

 弾んだ声でそう言う愛実。そんな愛実の顔には楽しげな笑みが。

「あおいとも、昔行ったときに岩場に行ったよな」
「行きましたね。小さかったですから親も一緒でしたが。久しぶりに一緒に岩場に行ってみたいです!」
「あおいちゃんも一緒に行こうか。理沙ちゃん達はどうします?」
「私も一緒に行こうかな。あそこの岩場にどんな生き物がいるか気になるし」

 佐藤先生は笑顔でそう答える。さすがに生物を教えるだけあって、海の生き物にも興味があるか。

「樹理先生が行くなら、あたしはフロートマットに乗ってゆったりしようかしら。さっきの浮き輪も気持ち良かったし」
「俺はちょっと泳ごうかな。せっかく海に来たし」
「分かった。じゃあ、リョウ君とあおいちゃんと樹理先生と私で行きましょう」

 岩場に行くのは久しぶりだから、結構楽しみだな。
 ビーチサンダルを履いて、あおいと愛実と佐藤先生と一緒に、海水浴場の端にある岩場に向かって歩き始める。その際、あおいに手を引かれて。
 ここは海水浴場の端に近いところだけど、俺達が陣地を確保したときよりも海水浴客の数が多いな。これからお昼の時間帯になるにつれて、さらに多くなっていくだろう。

「あの3人、凄くレベル高くね?」
「ああ。金髪の男がいなければ声をかけたのになぁ……」

 という男性達の話し声が聞こえてくる。俺と一緒に歩いている女性3人のレベルが高いことについて心の中で頷く。
 今の男性達と同じようなことを思っている人は多いのか、男性中心にこちらに視線を向ける人は結構いる。ただ、俺が抑止力になっているようで、声をかけてくる人は一人もいない。
 レジャーシートからも見える場所ので、すぐに岩場に到着する。
 見た感じ、岩場はそれなりに広い。歩きやすそうな場所もあって、今も小学校低学年くらいの女の子が歩いている。
 岩場の中には海水が溜まっているへこみや海と繋がっている岩礁部分がいくつもある。たまに波が来ると海水が岩場にかかる。へこみや岩礁に、魚や貝などの生き物がいそうだ。

「立派な岩場ですね!」
「そうだね、あおいちゃん。海水が溜まっている場所や、海に繋がっているところには色々な生物がいそうだ」

 楽しげな様子でそう言うあおいと佐藤先生。

「この海水浴場の岩場に来るのは初めてだけど、何だか懐かしいね、リョウ君」
「そうだな。岩場に来るのは久しぶりだからかな」

 だから、昔、海水浴で磯遊びをしたときのことを思い出すよ。
 俺達は近くにある海に繋がっている岩礁に向かう。そこには小さい魚や貝、ヒトデといった様々な生物がいる。小さな天然の水族館といった感じだ。

「うわあっ、色々な生き物がいますね!」
「そうだね! 青い魚とか黄色い魚がいて綺麗……」

 あおいは興奮気味に、愛実は穏やかな笑顔でしゃがみながら岩礁の中を見ている。そういえば、昔もあおいは生き物を見つけるとワクワクして、愛実も見た目が綺麗な生き物を見つけると笑顔でじっと見ていたっけ。

「海に繋がっているのもあってか、色々な生き物が住んでいますね」
「そうだね、涼我君。ちなみに……愛実ちゃん。青い魚はソラスズメダイ、黄色い魚はチョウチョウウオって言うんだよ」
「そうなんですか。さすがは樹理先生です」
「さすがは生物の先生ですね! さらっと言えるところがかっこいいです」
「女子高生達に褒めてもらえて嬉しいなぁ」

 あははっ、と佐藤先生は声に出して笑う。結構嬉しそうだ。もしかしたら、こういう展開になることに期待していたのも、岩場に一緒に行くと言った理由の一つかもしれない。

「樹理先生に教えてもらったら、小さい頃は磯にいる生き物の名前を両親に教えてもらったのを思い出しました」
「愛実と一緒に名前を教えてもらった記憶があるな」
「私も両親に教えてもらいましたね。今の樹理先生のように、すぐに名前を言えたお父さんをかっこいいと思いました」
「あおいちゃんの言うこと分かるよ。私も、海にいる魚や貝、山に生えている草や花の名前を答えられる両親がかっこいいとか凄いって思ったよ。そんな両親に憧れて、家や学校の図書館にある図鑑を見て、生き物の名前を覚えたものさ。君達にとって、私がそんな大人になれているみたいで嬉しいよ」

 佐藤先生は俺達の顔を見ながらニコッと笑う。今もメガネを外しているのもあり、かなり可愛く見えた。大学時代の専攻は化学だけど、御両親への憧れや尊敬をきっかけに培った知識があるおかげで、生物教師にもなれたのかもしれない。授業も分かりやすいし。
 再び岩礁を見ようと視線を下ろすと……あおいのすぐ近くに体長数cmほどのイソガニがいるのを見つけた。俺はカニの甲羅の部分をそっと掴んだ。

「あおいのすぐ近くにこのイソガニがいたよ。うっかり手を出さなければハサミで挟まれる心配はないだろうけど、一応捕まえた」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「リョウ君って小さい頃から、カニとか平気で触れるよね。ハサミで痛い思いをするかもしれないから、私は今でも怖くて触れないよ」
「愛実は昔、生き物によっては涙目になって怖がっていたよな。俺は父さんに掴み方のコツを教えてもらったから、昔からカニとか貝とか普通に触れるよ」
「そういえば、幼稚園の頃も、涼我君は浅い水たまりに入って、貝や小さなカニを掴んでいましたね」

 愛実とあおいは笑いながらそう言う。
 触れる俺にとってはイソガニとか結構可愛く思えるんだけどな。そう思いながら、俺は掴んでいるイソガニを海に放した。

「さすがは幼馴染同士だけあって、こういう場所でも思い出が色々あるんだね」
「ふふっ。樹理先生は御両親が凄かったこと以外に、何か磯遊びでの思い出はありますか?」
「そうだねぇ……」

 あおいからの質問に、佐藤先生は腕を組みながら考えている。昔の記憶を辿っているのだろうか。真剣な表情も絵になるな。あと、組んだ腕の上に胸が乗っかり、これまでよりも胸が大きく見える。

「あっ」

 と、小さく声を漏らすと、佐藤先生の口角が上がる。

「小学校高学年の頃の家族旅行での海水浴中に、一人でこういった岩場を探検していたら……大学生くらいのカップルが岩場の影に隠れてイチャイチャしていたのを思い出したよ」

 ふふっ、と佐藤先生は楽しそうに笑う。口角が上がったから、どんな楽しい思い出が語られるのかと思いきや。まあ、先生らしいか。

「な、なるほど。カップルのイチャイチャですか」
「海水浴場によっては、砂浜や海から隠れられそうな場所がありますもんね……」

 質問したあおいはもちろんのこと、愛実も少し頬が赤くなっている。

「そのカップルがいたのも、人の目から隠れやすそうな場所でね。女性の甘くて可愛らしい声が聞こえたから覗いてみたら、水着姿の男女のカップルが抱きしめ合って激しくキスしていたよ。当時の私にはそれがかなり刺激的でね。男の子が女の子の首筋にキスし始めて、女の子が可愛い声を漏らし始めたところで、私は静かに立ち去ったよ」

 笑顔で話す佐藤先生の頬がほんの少し赤くなっている。漫画やアニメ、ドラマならともかく、実際のキスシーンは小学生にとっては刺激的か。

「そんなことがあったんですね、佐藤先生」
「ああ。その後何度かは、海水浴に行ったときには、磯の様子を必ず確認していたよ」
「先生らしいですね」

 海に来て、肌の露出が多くなる水着姿になったら……イチャイチャしたくなるカップルもいるか。岩場のような人目につかないような場所に行って色々とするカップルもいそうだ。
 ちなみに、ここの岩場は開けていて、人が隠れられそうな場所はないから、そういうことをするカップルはいないだろう。

「さてと。私は別の岩礁や水たまりを見てみるよ。こことは違った生き物がいるかもしれない」
「私もそうします!」
「私も」
「見てみましょうか」

 あおいと愛実が立ち上がり、別の岩礁や水たまりに向かって歩き始めたときだった。

「きゃっ」

 足元が滑ったのか、俺の前にいる愛実がそんな声を上げ、俺の方に向かって倒れてくる。

「おっと」

 愛実のことを後ろから抱き留めたことで、愛実が転ばずに済んだ。あと、海で水をかけ合ってから少し時間が経っているからか、愛実の体からは柔らかさと共に温もりが感じられた。

「大丈夫か? 愛実」
「う、うん。リョウ君のおかげで転ばずに済んだよ、ありがとう」

 そうお礼を言うと、愛実はこちらに振り返ってニッコリとした笑顔を見せた。頬がほんのりと赤いけど。ただ、特にケガもなさそうだしほっとした。

「愛実ちゃんにケガがなくて良かったです」
「そうだね。濡れていて滑りやすいから、足元には気をつけないとね」
「ですね。滑って転びそうになっちゃいました。……そういえば、昔も転びそうになった私をリョウ君が抱き留めてくれたよね。そのときはリョウ君が尻餅ついちゃったけど」
「あったな、そんなこと。転ぶ勢いもあったし、当時は小学生だったからな。下が岩だからお尻が結構痛かったのを覚えてる。ただ、あのときも今も愛実にケガがなかったから良かったよ」
「うんっ。ありがとう、リョウ君」

 愛実は俺の目を見つめながら、笑顔でお礼を言ってくれる。そんな愛実がとても可愛くて。今も愛実と肌が触れているからドキッとする。昔、愛実を抱き留めたときには、尻餅をついた痛みもあってかこういう感覚にはならなかった。
 その後も、愛実とあおいと佐藤先生と磯遊びを楽しんだ。足元に気をつけたのもあって、転んでケガをすることはなかった。
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