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9 試験

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ルーナストは高揚していた。
もしもトーナメントで1位になったら、ベルガリュードに願いを聞いてもらえる。
つまりは、一戦願うことができるのだ。

『俺、第一部隊への入隊をお願いする』
『俺は騎士見習いにしてもらうっ』
『僕は有事の際も後方支援のみを約束してもらう』

周りの試験生達も口々に願いを言っている。
全員自分が勝つと思っているようだが、ルーナストだって負けるわけにはいかない。

『では、1番と3番は出てきて試合を始めよ……、言い忘れていたが、魔力を持つものも今回の試験での魔術の使用を禁止する』

試験官がそう叫びトーナメントは始まった。

(良かった。魔法はみんな使えないのか)

平民は基本的にタバコに火をつけるくらいの魔力しか持っていないので、身分を隠しているルーナストには魔術を使った戦い方はできない。そもそも平民には高魔力保持者が生まれづらいし、たまたま強い魔力持ちが生まれても貴族が養子に引き取り育てるのが普通だ。
もしも魔力保持者と当たってしまった時は少し面倒くさいなと思っていたところだった。

何組もの試合を観戦し、とうとうルーナストの番になった。
最初に戦うことになったのは、180センチは越えているだろう大男だ。

「こんなチビが相手とは、初戦は楽々勝ち上がりだな」
「身長は関係ないと思いますが」
「はっ、ガキが知ったような口を聞くなよ。筋肉の差も、お前と俺とじゃ全然違うだろ」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ、さっさと終わらせてやるよ! ぐっ、ぐぁ!!」

男は筋肉と身長に自信を持っているようだったが、動きは愚鈍で大口を叩いていた割にあっさりと地面に突っ伏した。
剣を大きく振りかぶった男がルーナストに向かって走ってくるのに対して、ルーナストは体を少しずらし剣の柄部分をその腹に食い込ませただけだ。

静かに、そして一瞬で勝敗が決まったことに対して、観戦席に居た試験生たちは息を飲み驚き声を上げることもなかった。
ルーナストは突っ伏した男を一瞥し、貸し出してもらった剣を元の剣立ての中にしまい観戦席に戻った。

『勝者、221番』

司会がルーナストの番号を告げると、うぉー!!! と男達の雄叫びが上がった。
勝ちそうになかった人間が勝つことに、ロマンを感じているのだろう。

「ルート様ぁ、素敵ぃ~」

甲高い声でルーナストを褒めるのは、リンローズだ。
試験場の敷地内からは追い出されたようだが、いまだに会場の柵に張り付いている。
観戦席に戻り空いている席に座ると、奥の方に座っていたモルガンから鋭い視線を送られた。

(あーあ。彼女がらみで敵意を向けらても困るよ)

ルーナストはモルガンから視線を逸らし、ため息をついた。

その後もどんどん試合が進んでいき、またルーナストの順番が回ってきた。
その日の2戦目は何とモルガンが相手だった。

『221番、227番』

番号が呼ばれ、貸し出しの剣立てから1本取り出して前へ出る。
モルガンはルーナストを見据え、その口元は自信ありげな笑みを浮かべていた。

(けど、あの婚約破棄の場面の動きを見たところ、殿下は手も足も出せないだろうな)

けれど油断は禁物だと、ルーナストは真っ直ぐにモルガンを見据えて剣を構えた。


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