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34 差し入れ
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「おい。お茶を汲んでこい」
「はい、殿下」
不遜な態度で見下すモルガンに、ルーナストは微笑みを返しうなずいた。
モルガンは意に返さない様子のルーナストに悔しそうな顔をしている。
ルーナストはサッと席を立ち、食堂の中の従業員にお茶を頼み持って戻りモルガンの前にそっと差し出した。
「どうぞ」
「はぁ……今は茶の気分ではなくなった。それくらいのことも分からないのか」
(分かるわけないだろ。アホ)
内心ではかなりイラつきながらも、ルーナストは微笑みを絶やさずモルガンに接した。
なんだかんだその方が、モルガンにダメージがあるらしいことが、ここ何日かで分かったからだ。
「申し訳ございません。では何をお持ちいたしましょうか」
「自分で考えろ」
「はい」
モルガンに付き従うルーナストに、ショーンやロイは遠くの方で心配そうに視線をよこした。
それに“大丈夫だ”とうなずいて笑う。
モルガンに付き従い信頼を勝ち取ることができれば、何か大きな手がかりが掴めるかもしれない。焦ってはダメなことは分かっているが、浮き足立つ気持ちを抑えるのは大変で、夜になればルーナストは訓練室で一人、黙々と鍛錬をする。
「程々にして寝た方がいいぞ」
訓練室で黙々とトレーニングをこなしている最中に突然現れたベルガリュードは開口一番そう言った。
「はい。ですが落ち着かなくって」
「まぁ気持ちは分かるが」
「何を持っているんですか?」
ベルガリュードの手には、水色のリボンのかけられた箱が握られていた。
「これは……差し入れ、だな。重いから気を付けろ」
「え、私にですか。ありがとうございます」
「開けてみろ」
「はい!」
ルーナストが箱を受け取ると、それは確かにずっしりと重い。
言われた通りに開けてみると中からは鉄アレイが出てきた」
「これで寝る前にトレーニングをしたくなった時でもすぐにできる」
「本当ですね! 嬉しいです。ありがとうございます!」
「ああ」
最近、ベルガリュードはたまにこうして差し入れをくれるようになった。
それは今回のようにトレーニンググッズだったり、剣や弓などの武器だったり、はたまた、肉まんやホットドックのような食べ物だったり。どれもこれもルーナストがもらって嬉しいものばかりだった。最近、ベルガリュードの兄が即位したことによるゴタゴタが落ち着き、公爵を賜ったベルガリュードからすれば痛くない出費かもしれないが、その頻度はすごく、いくら部下思いのベルガリュードからの差し入れだとしても貰いっぱなしに罪悪感が芽生えるくらいには貰っている。
ルーナストは何か返したいと悩んでいた。
「何をあげたら喜ぶんだろうなぁ」
「何が何が!」
ポツリとつぶやいた独り言は、ショーンにしっかり聞かれていて、嬉々とした顔で聞かれた。
今は訓練の時間で走り込み中だ。
「いや、閣下からは差し入れを頂いてばかりだから、何をお返しすれば喜んでくださるかなぁって。本当、部下思いだよね」
「え!? 差し入れ!?」
「うん」
「僕たちにはないよ。そんなの」
「え? ない?」
ルーナストは全員に渡していないとしても、ベルガリュードが受け持つショーンやロイには同じように差し入れをしているものだと思っていた。
「うん。僕たちは差し入れなんて貰ったことないよ。ねぇ、ロイ」
「ああ、ないな」
「ほら!」
「そ、そうなんだ」
ルーナストがたじたじになりながらなんとかそれだけ言えば、ショーンは考えるように首を捻った。それから声を潜めてささやいた。
「それってさ、もしかしてルートに婚約者としてプレゼントしてるんじゃない?」
ショーンの言葉にロイもうなずく。
「俺もそう思う。閣下は部下を大切に想ってはいるが、差をつけて可愛がったりはしない。ルートに差し入れをしているのは婚約者だからだろう」
「え、それは、ないと思うけど」
困惑気味なルーナストに、ショーンは興味津々と言うようにルーナストを覗き込んだ。
「それで、ルートは何を差し入れて貰ったの?」
「えっと、昨日は鉄アレイ。その前は肉まんだったよ。剣とか弓のこともあるし。どれもこれも私が貰って嬉しいものだけど」
ショーンは一瞬目を丸くした。
そして突然笑い出した。
「あっははは! 閣下ってやっぱすごい! ちゃんとルートを見てくれてるんだ!」
「ちゃんと?」
「そうだよ! だって、ルートがドレスやアクセサリーを貰ったって困るだけでしょ? でも、ちゃんと喜びそうなものを考えてルートにプレゼントしてるんだから、婚約者としてルートを大切に想っている証拠だと思わない?」
「そうなのかな」
「きっとそうだよ!」
「そっか」
(そうだとしたら、すごく嬉しい)
「どっちにしろ、何かお返しがしたいけど何がいいだろう」
「それならあれはどうだ?」
「あれ?」
ロイは偵察が得意らしい。
そのロイが提案してくれるものなら信頼できる。
「今、訓練所内で流行ってるんだ。彼女から貰った刺繍入りのハンカチや身に付けるもの。まぁ、彼女がいないやつは、それを持ってるやつを見てだいぶ荒れてるようだが」
「あーでもルートは刺繍とか苦手だもんね」
「いや……。苦手だけど、私は作ってみるよ。他に良いプレゼントも思い浮かばないし」
「おお。あのルートが刺繍を。すごい」
ショーンの感動したような顔はちょっとムカついたルーナストだったが、プレゼントも決まったことで安心した。
「はい、殿下」
不遜な態度で見下すモルガンに、ルーナストは微笑みを返しうなずいた。
モルガンは意に返さない様子のルーナストに悔しそうな顔をしている。
ルーナストはサッと席を立ち、食堂の中の従業員にお茶を頼み持って戻りモルガンの前にそっと差し出した。
「どうぞ」
「はぁ……今は茶の気分ではなくなった。それくらいのことも分からないのか」
(分かるわけないだろ。アホ)
内心ではかなりイラつきながらも、ルーナストは微笑みを絶やさずモルガンに接した。
なんだかんだその方が、モルガンにダメージがあるらしいことが、ここ何日かで分かったからだ。
「申し訳ございません。では何をお持ちいたしましょうか」
「自分で考えろ」
「はい」
モルガンに付き従うルーナストに、ショーンやロイは遠くの方で心配そうに視線をよこした。
それに“大丈夫だ”とうなずいて笑う。
モルガンに付き従い信頼を勝ち取ることができれば、何か大きな手がかりが掴めるかもしれない。焦ってはダメなことは分かっているが、浮き足立つ気持ちを抑えるのは大変で、夜になればルーナストは訓練室で一人、黙々と鍛錬をする。
「程々にして寝た方がいいぞ」
訓練室で黙々とトレーニングをこなしている最中に突然現れたベルガリュードは開口一番そう言った。
「はい。ですが落ち着かなくって」
「まぁ気持ちは分かるが」
「何を持っているんですか?」
ベルガリュードの手には、水色のリボンのかけられた箱が握られていた。
「これは……差し入れ、だな。重いから気を付けろ」
「え、私にですか。ありがとうございます」
「開けてみろ」
「はい!」
ルーナストが箱を受け取ると、それは確かにずっしりと重い。
言われた通りに開けてみると中からは鉄アレイが出てきた」
「これで寝る前にトレーニングをしたくなった時でもすぐにできる」
「本当ですね! 嬉しいです。ありがとうございます!」
「ああ」
最近、ベルガリュードはたまにこうして差し入れをくれるようになった。
それは今回のようにトレーニンググッズだったり、剣や弓などの武器だったり、はたまた、肉まんやホットドックのような食べ物だったり。どれもこれもルーナストがもらって嬉しいものばかりだった。最近、ベルガリュードの兄が即位したことによるゴタゴタが落ち着き、公爵を賜ったベルガリュードからすれば痛くない出費かもしれないが、その頻度はすごく、いくら部下思いのベルガリュードからの差し入れだとしても貰いっぱなしに罪悪感が芽生えるくらいには貰っている。
ルーナストは何か返したいと悩んでいた。
「何をあげたら喜ぶんだろうなぁ」
「何が何が!」
ポツリとつぶやいた独り言は、ショーンにしっかり聞かれていて、嬉々とした顔で聞かれた。
今は訓練の時間で走り込み中だ。
「いや、閣下からは差し入れを頂いてばかりだから、何をお返しすれば喜んでくださるかなぁって。本当、部下思いだよね」
「え!? 差し入れ!?」
「うん」
「僕たちにはないよ。そんなの」
「え? ない?」
ルーナストは全員に渡していないとしても、ベルガリュードが受け持つショーンやロイには同じように差し入れをしているものだと思っていた。
「うん。僕たちは差し入れなんて貰ったことないよ。ねぇ、ロイ」
「ああ、ないな」
「ほら!」
「そ、そうなんだ」
ルーナストがたじたじになりながらなんとかそれだけ言えば、ショーンは考えるように首を捻った。それから声を潜めてささやいた。
「それってさ、もしかしてルートに婚約者としてプレゼントしてるんじゃない?」
ショーンの言葉にロイもうなずく。
「俺もそう思う。閣下は部下を大切に想ってはいるが、差をつけて可愛がったりはしない。ルートに差し入れをしているのは婚約者だからだろう」
「え、それは、ないと思うけど」
困惑気味なルーナストに、ショーンは興味津々と言うようにルーナストを覗き込んだ。
「それで、ルートは何を差し入れて貰ったの?」
「えっと、昨日は鉄アレイ。その前は肉まんだったよ。剣とか弓のこともあるし。どれもこれも私が貰って嬉しいものだけど」
ショーンは一瞬目を丸くした。
そして突然笑い出した。
「あっははは! 閣下ってやっぱすごい! ちゃんとルートを見てくれてるんだ!」
「ちゃんと?」
「そうだよ! だって、ルートがドレスやアクセサリーを貰ったって困るだけでしょ? でも、ちゃんと喜びそうなものを考えてルートにプレゼントしてるんだから、婚約者としてルートを大切に想っている証拠だと思わない?」
「そうなのかな」
「きっとそうだよ!」
「そっか」
(そうだとしたら、すごく嬉しい)
「どっちにしろ、何かお返しがしたいけど何がいいだろう」
「それならあれはどうだ?」
「あれ?」
ロイは偵察が得意らしい。
そのロイが提案してくれるものなら信頼できる。
「今、訓練所内で流行ってるんだ。彼女から貰った刺繍入りのハンカチや身に付けるもの。まぁ、彼女がいないやつは、それを持ってるやつを見てだいぶ荒れてるようだが」
「あーでもルートは刺繍とか苦手だもんね」
「いや……。苦手だけど、私は作ってみるよ。他に良いプレゼントも思い浮かばないし」
「おお。あのルートが刺繍を。すごい」
ショーンの感動したような顔はちょっとムカついたルーナストだったが、プレゼントも決まったことで安心した。
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