チートな男装令嬢は婚約破棄されても気にしない

いちみやりょう

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49 完

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「これは、私からルーナストに。以前、ハンカチをくれた礼だ」
「これ、は。すごいですね……、嬉しいです。ありがとうございます」

ベルガリュードから手渡されたものは、ルーナストが作った刺繍と比べても良い勝負になりそうな妖怪の刺繍されたハンカチだった。お世辞にも出来は良いとは言えないけれど、ルーナストはそれをわざわざルーナストのために刺繍してくれたことが嬉しかった。

(閣下も、そうだったのかな)

いろいろと考えすぎて、突発的な行動をしてしまったことを後悔した。

「ルーナスト。特殊部隊ではなく、私の部隊に来てほしい」
「それは」

確かに、最初はベルガリュードの隊に入りたいと思っていた。
けれど、今は特殊部隊を結構気に入っている。
3ヶ月。それは訓練生として過ごした期間と同じで、とても濃厚な時間だった。

「すみません。とても嬉しい提案ですが、私は、特殊部隊を気に入っているんです」
「そうか」

一言そう言ってうなずいたベルガリュードに、ルーナストは少し申し訳なく思った。
けれどベルガリュードとは結婚すれば同じ屋敷に帰ることになるので、2人の時間はとれるはずだ。

「ルーナストが特殊部隊に居ることを望むなら私もそこに入るまでだ。まぁ、今の隊を率いる責任もあるからしばらくは兼任になるが」
「え」
「どうせ任務は個人が多いが、私はルーナストと同じ隊に所属しているというだけで嬉しい気持ちになる」

(そんな可愛らしいことを)

とてもドラスティールの鬼神といわれた男とは思えない言動に、ルーナストはドキドキと胸を弾ませた。

(閣下はこんなに可愛くて嬉しいことを言ってくれるのだから、私も)

「ベル、好きです」

結局何を言えば良いのか分からずに、それだけ伝えてみれば、ベルガリュードはルーナストをガバリと抱き寄せた。

「自室に」

ベルガリュードがボソリと低く呟いて、次の瞬間には広い部屋にベッドとソファが置かれた場所に移動していた。

「座って」

ソファに促され、ルーナストが大人しく座ると、ベルガリュードはルーナストの足に触れた。

「ひゃ、な、なんですか」
「ルーナストが特殊部隊に入ったと聞いてから、確かめたくて仕方がなかった。もう、我慢はできない」
「確かめたい?」

ベルガリュードはルーナストのスラックスの裾を上げ、足首に取り付けられた足輪を確認しているようだ。

「私の色だ」

その声は嬉しそうに弾んでいた。
けれどルーナストはその言葉を聞いて顔に熱が集まるのを感じた。

(そういえば、そうだった)

なんだか、本人にこうして見られるのは恥ずかしい。

「私も、特殊部隊に入ることにしたからな」

そう言って懐から新しい足輪を取り出した。
ベルガリュードがそれを自分の左足にキュッと結びつけると、その色は銀に近い色とターコイズブルーのストライプになった。

「ふふ。私の色ですね」
「ああ」

ベルガリュードが目を細めふわりと微笑んでうなずいた。

(柄は違うけど、色が同じだからショーンとお揃いみたい)

そう思ったルーナストだったが、そんなことを言ってしまえばベルガリュードの機嫌が悪くなるかもしれないと、さすがのルーナストもわかったので言うのはやめた。

✳︎✳︎

そしてルーナストはベルガリュードと結婚式当日を迎えた。

2人とも良く分からないものの、なんだかんだと楽しみつつ、一緒に選んだウェディングドレスに身を包み、ベルガリュードが部屋に来るのを待っているとトントントンとノックの音が聞こえた。

『入って良いか』
「はい」

ドア越しにやや緊張したようなベルガリュードの声が聞こえ、ルーナストも少し緊張しながら答えた。
きっと、ベルガリュードの方も2人で選んだタキシードを着ていることだろう。
帝国において男性の軍人の結婚式は軍服が普通だが、今更普通を気にするようなこともない。

ドアを開け、入ってきたベルガリュードはルーナストのウェディングドレス姿を見て、目を細め嬉しそうに笑った。

「綺麗だな」
「あ、りがとう……ございます。えっとベルも……その、綺麗です」

ルーナストは動揺しながらも言葉を返した。
そんなルーナストを見て、ベルガリュードは満足そうに笑った。

「お揃いだ」


してやったりと言う言葉がぴったりの表情だ。
そう。ベルガリュードはルーナストが着ているものと同じデザインのウェディングドレスを着ていたのだ。

「でも、なんで」
「こういうのも悪くないだろう? 私もルーナストも、お色直しではお揃いのタキシードを着よう」
「ははっ……、本当、大好きですベル」
「私も、ルーナストが大好きだよ」

父と共にバージンロードを歩き、途中でベルガリュードに変わる。
ルーナストの父は、ベルガリュードの服装を見て目を見開いていて、ルーナストは笑いを堪えるのに必死だった。
そして、ルーナストも薄々気が付いてはいたが、ベルガリュード側の親族席には、ルーナストが初めてのお茶会の時に出会ったスティールという名の、白髪紳士がニコニコと座っていた。その隣には上皇后と思わしき美しい女性も座っていた。そして、グランツェも。グランツェにはベルガリュードとルーナストが話し合い、無事もう一度結婚の約束を交わしたあと、土下座せんばかりの勢いで謝られた。弟の幸せを思ってのことだと、理解していたルーナストは快く許した。

ドラスティールの鬼神と、ブラクルトの女神の結婚は、多くの人に祝福された。
どちらもその戦いぶりから神と呼ばれるほどの武人で国を守る要だ。
帝国は、盤石の守りを固め、帝国の皇弟と縁を結んだブラクルト辺境伯領にも平穏が訪れた。


モルガンは反逆罪として炭鉱で働いていたが模範囚となり数年で刑期を終えて、平民として過ごしているのだと社交界では噂になっていた。
平民を馬鹿にしていたから、身を持って平民の生活を知ることが出来て良いだろうと王国の王太子が言っていたそうだ。

それから、リンローズはルートの正体がルーナストという女性で、ベルガリュードと結婚したことを知っても尚、ルーナストに言い寄ってくるので、ベルガリュードが嫉妬してルーナストは大変な思いをしている。

ショーンは無事、帝国の国籍を手に入れて、武功を立て一代限りだが男爵の位を賜った。


怒涛の1年間はあっという間に過ぎ、1年前は想像もすることはなかった日常がルーナストの前には広がっている。
愛し愛され幸せに。
ルーナストはこれから先ずっと2人で、そんな生活を送れるように努力していこうと誓った。
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