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プレゼント
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病院で受付を済ませてから、1時間ほど待たされて検査が始まった。
それからまた1時間ほどかけて機械の中に入れられたりしながら大がかりな検査があって最後に先生の問診があった。
「伊月さん」
「はい」
「研究中の妊娠体実験の薬を服用したことがありますか」
「え……、多分、はい。以前半年ほど妊娠できる体にする薬だというものを飲んでいた時期があります」
先生は僕の言葉を聞いて息を吐いてうなだれた。
「なぜその開発途中の薬を入手できたのかはあえて聞きませんが、伊月さんの出血の原因は経血です」
「え?」
「つまり、俗に言う生理です。あなたの体が無事妊娠できる体に変化したと言うことです」
「……生理……? でもなんで。僕がその薬を飲み終わったのは1年以上前の話です」
「開発途中の薬ですからはっきりしたことは言えませんが、体の変化に耐えるには体力や栄養が必要です。あなたの場合、1年ほど前までの栄養状態が悪かったことが体の変化の妨げになっていたのかもしれません」
「栄養……。そんなことまで分かるんですね」
「ええ」
「あの、今までの体に戻すことはできないんですよね」
「そうですね。一度変えてしまった体は体への負担が大きすぎますので諦めたほうが良いと思われます」
「そう……ですよね」
その後も、先生は説明をしてくれたけど、そのほとんどが耳から流れ落ちていった。
「何か不調があればすぐに病院に来てください」
「……はい。ありがとうございました」
先生の言葉になかば反射的にそう答えて診察室から出た。
待合室の椅子に座っても僕はまだそれが現実だという感覚がなかった。
なんのリスクもなしに妊娠できる体になるはずは無いのに、僕はそれも考えずにあの薬を飲んでしまっていたんだ。
銀次さんのところで暮らすようになって、まともな食事が食べられるようになった。
その結果、栄養状態がまともになった僕の体は完全に妊娠できる体に変化してしまったんだ。
病気じゃなくて良かったけど、それでも生理が来たことは僕にとってかなりショックな出来事だった。
受付で会計を済ませて同じ建物内にある薬局で処方された薬をもらった。
鎮痛剤が入っていたのでそれをすぐに飲んだ。
外に出るとロータリーまで只野さんが車を回して来てくれた。
「どうだった」
車に乗り込むと早速そう聞かれた。
「病気じゃありませんでしたよ」
「じゃあなんだったんだ?」
「……ただの、二日酔いでした」
笑ってそう言っても、只野さんは眉を寄せて睨んできた。
「病気とか詮索するのは良く無いことだと分かっているが頼む、教えてくれ。私も佐渡も君のことを大切に思っているんだ。何かあってからじゃ遅いし、サポートできることがあるかもしれないだろう」
僕を睨んだと思った瞳はすぐに自身なさげになって、眉を下げてそう言われた。
僕が無言でいるとカフェに連れて行かれてコーヒーとケーキを奢ってくれた。
時刻はもうお昼を過ぎていてカフェの中はまばらに人がいるだけだった。
鎮痛剤も効いてきていて、お腹が空いていた僕はそれを一口食べてから話し出した。
妊娠できる体になったこと、それまでの経緯。
今日生理が始まったこと。
それをカフェにいる他のお客さんや従業員の人に聞こえないように小さな声で話した。
「そうか……」
聞き終わった只野さんは、ただ静かにそう言った。
「気持ち悪い、ですよね」
「いや、そんなことは無いだろう。その薬が一般的に使われるようになることは少なく無い人の希望だろう」
「……はい」
「しかし、それなら買い物に行かないといけないな」
「買い物ですか?」
「ああ。必要なものがいろいろある。君は車で待っていろ」
僕がケーキを食べ終わったのを見計って只野さんは会計を済ませて僕を車へと促した。
只野さんは、僕が以前銀次さんと来たショッピングモールに車を止めて僕の座席の椅子を倒して僕を横にならせてから買い物に行ってしまった。
僕が只野さんが貸してくれた薄手の上着をお腹に乗せてウトウトしながら待っていると30分ほどで戻って来てくれた。
「さあ、帰るぞ」
「あ……はい」
「後ろの席に行って寝転がっていてもいいぞ」
「……ありがとうございます」
僕はその言葉に甘えて後ろの席に移動して横になった。
只野さんの家に着いて車を降りた。
「今日はありがとうございました」
「いや、私もそっちの家に行くから」
「え?」
只野さんは有無を言わさず僕の後について来て、家に入ってきた。
「これ付け方分かるか? まぁ見りゃ分かると思うからこの下着と一緒に持ってトイレ行ってつけてこい」
「……え、えと、わかりました」
僕はよく分からなかったけど一応渡されたものを持って言われた通りにトイレに入った。
外から見たら普通にボクサーパンツに見えるその下着は中に何かつける部分があって、それが一緒に渡されたものなのだと気がついた。
ナプキンと書いてあるそれはCMで見たことがある。
シールの部分がくっついてしまって何枚か無駄にしてしまったけど最終的に付けることができてトイレを出た。
「できたか?」
只野さんはソファでコーヒーを飲みながらまったりしていた。
「……はい。あの、ありがとうございました。何も分からなかったので助かりました。でも、このことは銀次さんには」
「ああ、黙っといてやるよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日は帰るから」
「え、夕飯は召し上がって行かれないんですか?」
「今日は遠慮する」
只野さんはそう言って帰っていってしまった。
その後銀次さんが帰宅した。
「具合、大分マシになった?」
「はい、心配していただいてありがとうございます」
そういうと、安心したような顔をした後に箱を渡された。
「よかった……。これ、昨日渡せなかったけど誕生日プレゼント」
「え? でも昨日はケーキもお酒もいただきましたし」
「あれはおまけって言ったでしょう? こっちが本命」
「あ、ありがとうございます」
ニコニコと見守られながら箱を開けると、手触りのいい水色のシャツと細身の黒いスラックスが入っていた。
「わあ、ありがとうございます」
「まだ入っているでしょう?」
「え?」
服をどかして確認すると、大きめの黒いリュックが入っていて、その中にもいろいろ入っていた。
歯ブラシ、下着、靴下、財布。
そして最後にスマホが出て来た。
「え、こ、こんな高価なものは」
「いーからいーから」
ニコニコと僕を見ていた銀次さんはその後僕の心臓が飛び出そうなことを言い出した。
「それ全部持って来月俺と旅行行かない?」
それからまた1時間ほどかけて機械の中に入れられたりしながら大がかりな検査があって最後に先生の問診があった。
「伊月さん」
「はい」
「研究中の妊娠体実験の薬を服用したことがありますか」
「え……、多分、はい。以前半年ほど妊娠できる体にする薬だというものを飲んでいた時期があります」
先生は僕の言葉を聞いて息を吐いてうなだれた。
「なぜその開発途中の薬を入手できたのかはあえて聞きませんが、伊月さんの出血の原因は経血です」
「え?」
「つまり、俗に言う生理です。あなたの体が無事妊娠できる体に変化したと言うことです」
「……生理……? でもなんで。僕がその薬を飲み終わったのは1年以上前の話です」
「開発途中の薬ですからはっきりしたことは言えませんが、体の変化に耐えるには体力や栄養が必要です。あなたの場合、1年ほど前までの栄養状態が悪かったことが体の変化の妨げになっていたのかもしれません」
「栄養……。そんなことまで分かるんですね」
「ええ」
「あの、今までの体に戻すことはできないんですよね」
「そうですね。一度変えてしまった体は体への負担が大きすぎますので諦めたほうが良いと思われます」
「そう……ですよね」
その後も、先生は説明をしてくれたけど、そのほとんどが耳から流れ落ちていった。
「何か不調があればすぐに病院に来てください」
「……はい。ありがとうございました」
先生の言葉になかば反射的にそう答えて診察室から出た。
待合室の椅子に座っても僕はまだそれが現実だという感覚がなかった。
なんのリスクもなしに妊娠できる体になるはずは無いのに、僕はそれも考えずにあの薬を飲んでしまっていたんだ。
銀次さんのところで暮らすようになって、まともな食事が食べられるようになった。
その結果、栄養状態がまともになった僕の体は完全に妊娠できる体に変化してしまったんだ。
病気じゃなくて良かったけど、それでも生理が来たことは僕にとってかなりショックな出来事だった。
受付で会計を済ませて同じ建物内にある薬局で処方された薬をもらった。
鎮痛剤が入っていたのでそれをすぐに飲んだ。
外に出るとロータリーまで只野さんが車を回して来てくれた。
「どうだった」
車に乗り込むと早速そう聞かれた。
「病気じゃありませんでしたよ」
「じゃあなんだったんだ?」
「……ただの、二日酔いでした」
笑ってそう言っても、只野さんは眉を寄せて睨んできた。
「病気とか詮索するのは良く無いことだと分かっているが頼む、教えてくれ。私も佐渡も君のことを大切に思っているんだ。何かあってからじゃ遅いし、サポートできることがあるかもしれないだろう」
僕を睨んだと思った瞳はすぐに自身なさげになって、眉を下げてそう言われた。
僕が無言でいるとカフェに連れて行かれてコーヒーとケーキを奢ってくれた。
時刻はもうお昼を過ぎていてカフェの中はまばらに人がいるだけだった。
鎮痛剤も効いてきていて、お腹が空いていた僕はそれを一口食べてから話し出した。
妊娠できる体になったこと、それまでの経緯。
今日生理が始まったこと。
それをカフェにいる他のお客さんや従業員の人に聞こえないように小さな声で話した。
「そうか……」
聞き終わった只野さんは、ただ静かにそう言った。
「気持ち悪い、ですよね」
「いや、そんなことは無いだろう。その薬が一般的に使われるようになることは少なく無い人の希望だろう」
「……はい」
「しかし、それなら買い物に行かないといけないな」
「買い物ですか?」
「ああ。必要なものがいろいろある。君は車で待っていろ」
僕がケーキを食べ終わったのを見計って只野さんは会計を済ませて僕を車へと促した。
只野さんは、僕が以前銀次さんと来たショッピングモールに車を止めて僕の座席の椅子を倒して僕を横にならせてから買い物に行ってしまった。
僕が只野さんが貸してくれた薄手の上着をお腹に乗せてウトウトしながら待っていると30分ほどで戻って来てくれた。
「さあ、帰るぞ」
「あ……はい」
「後ろの席に行って寝転がっていてもいいぞ」
「……ありがとうございます」
僕はその言葉に甘えて後ろの席に移動して横になった。
只野さんの家に着いて車を降りた。
「今日はありがとうございました」
「いや、私もそっちの家に行くから」
「え?」
只野さんは有無を言わさず僕の後について来て、家に入ってきた。
「これ付け方分かるか? まぁ見りゃ分かると思うからこの下着と一緒に持ってトイレ行ってつけてこい」
「……え、えと、わかりました」
僕はよく分からなかったけど一応渡されたものを持って言われた通りにトイレに入った。
外から見たら普通にボクサーパンツに見えるその下着は中に何かつける部分があって、それが一緒に渡されたものなのだと気がついた。
ナプキンと書いてあるそれはCMで見たことがある。
シールの部分がくっついてしまって何枚か無駄にしてしまったけど最終的に付けることができてトイレを出た。
「できたか?」
只野さんはソファでコーヒーを飲みながらまったりしていた。
「……はい。あの、ありがとうございました。何も分からなかったので助かりました。でも、このことは銀次さんには」
「ああ、黙っといてやるよ」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日は帰るから」
「え、夕飯は召し上がって行かれないんですか?」
「今日は遠慮する」
只野さんはそう言って帰っていってしまった。
その後銀次さんが帰宅した。
「具合、大分マシになった?」
「はい、心配していただいてありがとうございます」
そういうと、安心したような顔をした後に箱を渡された。
「よかった……。これ、昨日渡せなかったけど誕生日プレゼント」
「え? でも昨日はケーキもお酒もいただきましたし」
「あれはおまけって言ったでしょう? こっちが本命」
「あ、ありがとうございます」
ニコニコと見守られながら箱を開けると、手触りのいい水色のシャツと細身の黒いスラックスが入っていた。
「わあ、ありがとうございます」
「まだ入っているでしょう?」
「え?」
服をどかして確認すると、大きめの黒いリュックが入っていて、その中にもいろいろ入っていた。
歯ブラシ、下着、靴下、財布。
そして最後にスマホが出て来た。
「え、こ、こんな高価なものは」
「いーからいーから」
ニコニコと僕を見ていた銀次さんはその後僕の心臓が飛び出そうなことを言い出した。
「それ全部持って来月俺と旅行行かない?」
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