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出発
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「りょ、旅行ですか? 僕と?」
「うん。実は旅館をやってる知り合いから誘われてね。伊月くんのことを話したらぜひ3人でどうかって言ってくれたんだよ。どうかな」
「3人で?」
「うん。伊月くんと俺と只野の3人でどう?」
そっか。びっくりした。
銀次さんが僕と2人で旅行なんて誘うはずないよね。
「僕までいいんですか?」
「もちろん。これは誕生日プレゼントなんだから伊月くんがいないと始まらないでしょ」
「じゃあ、行きたいです! わあ、僕、旅行なんて初めてです! ありがとうございます」
「いーえ」
夕飯を食べ終わり、僕たちは旅行についてあれやこれや話して楽しんだ。
だけど、僕は違和感に気がついていた。
何かと僕の頭を撫でていた銀次さんは、今日帰って来てから一度も僕の頭を撫でなかった。
その他の態度に表れずとも、僕が銀次さんを好きになることを嫌がっていることが分かった。
どうしよう。
居心地が良くて、長いことここにお世話になってしまっていたけど、これ以上ここに置いてもらうのは迷惑かもしれないな。
だって、もう今更だよ銀次さん。
今更適切な距離を置かれても、僕はその手の暖かさを知ってる。
優しい笑顔も、声も。
全部好きになってしまった後なんだ。
旅行が終わって、銀次さんからもらったマリーゴールドが咲いたらこの家を出よう。
この気持ちが銀次さんの迷惑になるなら。
銀次さんが僕を司さんの代わりにするような人じゃなくて良かった。
だけどそう思うのと同時に、代わりにすらなれない自分が嫌になった。
決して司さんの代わりになりたいわけじゃない。
だけど、居なくなってしまった後も銀次さんの心の中を占める司さんみたいな人になってみたかった。
そうだ。
僕は、咲夜様の時もそうだったんだ。
僕は愛されている人になりたかったんだ。
咲夜様の心を癒せればそれでいいなんて嘘だ。
僕は耳障りのいいようなこと言って、結局は自分のことしか考えていない。
最低な人間なんだ。
僕は美香様になりたかったんだ。
僕は、司さんになりたかったんだ。
誰かに愛される人になってみたかったんだ。
愛される感覚を知りたかったんだ。
ただ、誰かに愛して欲しかったんだ。
僕はそれに気がついて笑った。
僕が愛されるはずなんてないのに。
生理は3日目になるとお腹の痛みも引き、僕は家事の隙間時間を全て使って、花と野菜作りに勤しんだ。
なんとしても今度こそ咲かせたいし実らせたい。
あと数日で花も咲き、野菜も実るだろうというくらいになり、旅行当日となった。
1泊なので水を少し多めにやって、準備も万端だ。
「おーい、出発するよ」
「はい!」
「なんで私が運転なんだよ」
只野さんは運転席で、銀次さんは助手席、僕は運転席の後ろに座って車はゆっくりと出発した。
「うん。実は旅館をやってる知り合いから誘われてね。伊月くんのことを話したらぜひ3人でどうかって言ってくれたんだよ。どうかな」
「3人で?」
「うん。伊月くんと俺と只野の3人でどう?」
そっか。びっくりした。
銀次さんが僕と2人で旅行なんて誘うはずないよね。
「僕までいいんですか?」
「もちろん。これは誕生日プレゼントなんだから伊月くんがいないと始まらないでしょ」
「じゃあ、行きたいです! わあ、僕、旅行なんて初めてです! ありがとうございます」
「いーえ」
夕飯を食べ終わり、僕たちは旅行についてあれやこれや話して楽しんだ。
だけど、僕は違和感に気がついていた。
何かと僕の頭を撫でていた銀次さんは、今日帰って来てから一度も僕の頭を撫でなかった。
その他の態度に表れずとも、僕が銀次さんを好きになることを嫌がっていることが分かった。
どうしよう。
居心地が良くて、長いことここにお世話になってしまっていたけど、これ以上ここに置いてもらうのは迷惑かもしれないな。
だって、もう今更だよ銀次さん。
今更適切な距離を置かれても、僕はその手の暖かさを知ってる。
優しい笑顔も、声も。
全部好きになってしまった後なんだ。
旅行が終わって、銀次さんからもらったマリーゴールドが咲いたらこの家を出よう。
この気持ちが銀次さんの迷惑になるなら。
銀次さんが僕を司さんの代わりにするような人じゃなくて良かった。
だけどそう思うのと同時に、代わりにすらなれない自分が嫌になった。
決して司さんの代わりになりたいわけじゃない。
だけど、居なくなってしまった後も銀次さんの心の中を占める司さんみたいな人になってみたかった。
そうだ。
僕は、咲夜様の時もそうだったんだ。
僕は愛されている人になりたかったんだ。
咲夜様の心を癒せればそれでいいなんて嘘だ。
僕は耳障りのいいようなこと言って、結局は自分のことしか考えていない。
最低な人間なんだ。
僕は美香様になりたかったんだ。
僕は、司さんになりたかったんだ。
誰かに愛される人になってみたかったんだ。
愛される感覚を知りたかったんだ。
ただ、誰かに愛して欲しかったんだ。
僕はそれに気がついて笑った。
僕が愛されるはずなんてないのに。
生理は3日目になるとお腹の痛みも引き、僕は家事の隙間時間を全て使って、花と野菜作りに勤しんだ。
なんとしても今度こそ咲かせたいし実らせたい。
あと数日で花も咲き、野菜も実るだろうというくらいになり、旅行当日となった。
1泊なので水を少し多めにやって、準備も万端だ。
「おーい、出発するよ」
「はい!」
「なんで私が運転なんだよ」
只野さんは運転席で、銀次さんは助手席、僕は運転席の後ろに座って車はゆっくりと出発した。
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