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元家族の末路 ※春海の兄視点

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ずっと祝うことなどしてこなかった春海の誕生日を祝おうと両親と共に決め、春海に伝えた日、春海は居なくなった。それから数日後、春海の遺体が近くの海で打ち上がった。
末の弟、春海が亡くなったと連絡が入り、吉野大輝は愕然とした。

司法解剖の結果、春海は自ら海に飛び込んだということが分かった。
抱えられるギリギリの大きさの岩を自分の体にロープで巻き付けて飛び込んだらしい。本来ならまだ外れることのなかったはずのロープは、なんらかのアクシデントによって外れ、両親と大輝の元に訃報を届けた。

なぜ、このタイミングで。

両親も大輝も、随分と前に可愛い健斗を亡くし、春海を可愛がる余裕などなかったが、やっと可愛がろうと思えた矢先に。

(そういえば、誕生日を祝うと言った時あいつ、どんな顔してたっけ)

今まで誰からも構われることのなかった春海だ。きっと嬉しそうな表情をしていたに違いない。だが、どんな表情をしていたかなど、大輝は記憶を探っても思い出すことはできなかった。

「やっと死んだんだ? 良かったじゃん?」

数年前から付き合っている彼女は、通夜に来る参列者の対応に追われている我が家に乗り込み、開口一番にそう言った。

「……は?」
「だってさ。ずっと言ってたじゃん。なんで健斗じゃなくてお前が生きてるんだって」
「そんなこと……」

確かにそんなことを言った。むしろ健斗が死んでから、何年も何年も言い続けていた。
両親がそう言っていたし、健斗に生きていて欲しかったという弔いみたいな気持ちだった。

「迷惑しかかけないんだから、気配を消して大人しくしておけって、おじさんもいつも言ってたもんね。これで春海くんも永遠に気配を消せたわけだ」
「なに……を」

戸惑う大輝を他所に彼女は、楽しそうに話し続けている。

「あーあ。でも私、春海くんともっと話してみたかったなぁ。だって、いっつも屋根裏部屋に押し込められてて、話せないし。大輝も春海くんが一言でも話したら春海くんにお仕置きするなんて言ってたしさ」
「お前……」

いつもの従順な彼女じゃないように感じ、大輝は戸惑いながら彼女を見つめた。
彼女は口元を歪め、悲しそうな表情をしている。
彼女は大声を上げていたわけではないが、大輝たちの会話は参列者に聞かれていた。
ヒソヒソ声がし始めて、両親と大輝は参列者たちから軽蔑の目を向けられた。

「あのね。大輝とおじさんとおばさんが春海くんを殺したんだよ。あなた達は、人殺しなんだよ。それだけは、ちゃんと分かっていてね。あなたのその反吐が出るようなクソみたいな性格でも、理解できる?」
「……は……?」

彼女はこんな性格だっただろうか。
大輝は息を呑んだ。
そういえば、と思い出す。
彼女は、もともとは春海の同級生だ。
春海が学校を休んだ日、プリントを届けに来て、春海を心配する彼女に付け込んで自分の彼女にした。付き合わなければ春海を害すると言って。
けれど、実際に大輝は春海に直接手を出したことなどない。
小突いたことくらいはあるかもしれないが、それくらいは兄弟喧嘩や躾のうちに入るだろう。

そう高を括っていた大輝や両親だったが数日後には、吉野家は春海へ虐待していたと、近所で知らぬものがいないほどに、知れ渡っていた。
当然のように、父の会社での立場は悪くなり、すぐに失業した。大輝も大学に通えなくなるほどに嫌がらせをされ、家はなくなり家族はだんだんバラバラになった。もともと、春海を虐げることで成り立っていた家族だったのかもしれない。

引越しをする前に、春海が使っていた屋根裏部屋を片付けた。
荷物はほとんどない。教科書も全てボロボロだった。その中に日記帳のようなノートを見つけたが、中は日常生活の一部も、恨み言すらもない、ただの真っ白なノートだった。春海らしいと思う物はなにもなかった。それどころか、何が春海らしいのかも分からなかった。

(春海は、何を思って生きてきたんだろう)

大輝には春海の気持ちが何一つ分からなかった。今さらになって分かりたいと思っても、すでに春海はいない。
そこまでになってやっと、両親も大輝も、自分の過ちに気がついた。
春海を虐げたところで健斗は戻らないのに、自分たちは守るべき家族を自ら死を選ばせるほどに追い詰めたのだ。
けれど、今更気がついたところで何の意味も持たない。

何度引っ越しをしても、なぜか必ず春海のことは周りにバレた。
しばらくして、周りにバレる訳が分かった。通夜の時の彼女との会話が動画投稿サイトで拡散されていたのだ。父親を雇ってくれるところはどこにもなかった。大輝を雇ってくれるところもどこにもなかった。かろうじて母親が夜の店で働き始めたが、それも長くは続かなかった。
失業や引っ越しの繰り返しで金はすぐに底尽きた。
もう、闇金ですら金を貸さなくなり、借金取りから姿を隠し、文字通り道草を食べて生活し、いつ死んでもおかしくない生活を送っている。


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