偽物にすらなりきれない出来損ないの僕

ミヒャエルと食事

「ミヒャエル様、おはようございます。開けますよ～」

返事のない部屋の扉に手をかけると、すんなりと開いた。
部屋の奥ではベッドの上から、恨めしげな顔をしたミヒャエルが、ハルミを見ている。
けれど、別に寝巻きというわけではないところを見ると、朝起きて、服を着替えたりなどの身支度は終わっているようだ。ハルミのことをすんなりと受け入れられないという気持ちは分かるし、なんだか天使のような愛くるしい見た目も相まってその怯えているかのような様子が可愛らしく思えた。

「さあ、ミヒャエル様。申し訳ないんですが、僕は簡単なものしか作れないので、サンドイッチです。これは僕が作って僕が持ってきたサンドイッチだし、同じ入れ物の中からとるから、もし何か入っていてもミヒャエル様のせいにはされませんよ。ハムとか野菜とかチーズとか、美味しいものしか詰めてないし、多分美味しく出来ているはずです」
「……おいしそう」
「そうですか！　よかった」

ハルミからしたら全然似てはないと思うけれど、ハルミの体は一応はミヒャエルに似せて作られている。つまりは、現段階で１７、８歳くらいの年齢だということだけれど、ミヒャエルはとてもそうだとは思えないほどに、幼い見た目をしている。なんだか弟ができたような気持ちになって、気がついたらミヒャエルの頭を撫でてしまっていた。ピクリと動いたミヒャエルに、ハルミは一気に我に帰って手を引っ込めた。

「す、すみません。つい」
「……ううん」

ミヒャエルは目をまんまるくして驚いていたけれど、特に咎められるということはなかった。

「……ええっと、では、どうぞ」
「……いただきます」

なんとなく気まずい雰囲気になりながらもミヒャエルの前にずいっとサンドイッチケースを差し出した。戸惑ったように目を泳がせながらも、その中から１つ抜き取ったミヒャエルを見て、なんだかとても嬉しくなった。恐る恐る口に含むミヒャエルが小動物のようで可愛らしい。

「どう、ですか？」
「……おいしいよ。とても」
「そうですか！　よかった！　作りすぎってくらいあるんで、いっぱい食べてください」
「ありがとう」

ミヒャエルはそう言ってふにゃりと笑った。その顔にハルミはドキリと心臓が跳ねた。警戒心が強い猫のようだったけれど、一度そのテリトリーに入ってしまったら、ミヒャエルは意外となんでも簡単に受け入れてしまうのかもしれない。
そんなところを少し心配に思いつつも、ミヒャエルと交流をもてたことに大満足だった。

その日の夜、寝ているハルミの布団の中に、仕事でくたくたのボロボロになったユリウスが入り込んできた。かろうじて風呂には入ったらしく、その体はまだほんのり暖かく、良い匂いを発している。

「おかえりなさい、ユリウス様」
「ただいま、ハルミ。起こしてしまってすまない」
「ううん。最近あんまり会えていないから、起きれてよかった」
「そうか。私もハルミと話せて、仕事の疲れが吹き飛んだ」
「ふふ」

ハルミの体をギュッと抱き寄せ、そんな風に言ってもらえるのが恥ずかしさと嬉しさでむず痒くて幸せだ。ユリウスは向かい合ってハグをして、ハルミの背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。

「今日は、ミヒャエル様とランチを食べました」
「んー？　いつの間にそんなに仲良くなれたんだ？」

ユリウスは、微睡んでいるような間延びした声を上げた。

「ふふん。今日が初めてですけど、通った甲斐がありました。やっぱりあの噂のせいで引きこもってしまったみたいです」
「ああ、あれか。だがそれももう解決する。ミヒャエルのことを気にかけてくれてありがとうな」
「１人の辛さは痛いほど分かるから……。それに、ミヒャエル様、可愛らしくて素敵な方だから、僕の方がかまってもらってるんですよ」
「ハルミは優しいな。あと少しで残った屋敷内の膿も出し切るし、来月のハルミの誕生日前後は必ず休みをもぎ取る。その時はゆっくり過ごそう」
「はい。楽しみにしています」

そう答えたのを聞いたのか聞いていないのか、すぐ上からは寝息が聞こえ始めた。