ヒロインは他に任せて

オウラ

文字の大きさ
38 / 50
エスト公国にて

36

しおりを挟む
 あの後、雨に打たれながらアネルを慰めた後、あのまま、雨に打たれ続けるという訳にもいかず、本日お世話になる宿に帰ってきた私とアネル。


 本来、帰る時間よりもだいぶ早く帰ってきたので、冷えた身体を温めようと風呂に入ったり、ボーとしたり、部屋に置いてある本を読んだりしながら、1人で余った時間をつぶしていた。(因みに、アネルは泣き疲れたのか、風呂に入ったあとそのまま夢の世界へと旅立った。私も寝たかったんだけど、流石に二人してネルのもどうかと思い、皆が帰ってくるまでの間、1人さみしく時間をつぶすことにしたのだ)







 そして気がつけばすっかり雨はやみ、空は星が輝き始める時間帯。まぁ、そんな時間帯にもなれば、流石にみんなも、帰ってくるわけで、案の定、殿下、ルイ、セシルちゃんの順で、彼らは宿へと帰還した。が、セシルちゃんと共に大公さまに挨拶をしに行ったディルクは、ここに帰ってきていない。セシルちゃん曰く、なんでも、大公さま達に止められた為、今日は大公さまの屋敷で過ごすとの事。いやぁ、大変そうだなぁ。











「うぅ、疲れたよ」

 先程、帰ってきたばかりのセシルちゃんが、ソワァーにぐったりと座り込む。何やら、とても疲れた様子。まぁ、それもそうか、なんてたって大公さまに挨拶をしに言ったのだから、疲れるのも仕方ないだろう。



「お疲れ様です、セシルちゃん。これどうぞ」
「わぁ!ありがとう、ルーナ」

 食堂からもらってきたホットミルクをセシルちゃんに渡せば、とびっきりの笑顔と共にお礼の言葉が帰ってくる。うん、相変わらずの可愛さと優しさ。




「にしても、物凄いお疲れみたいですね。何かあったんですか?」
「そう、そうなんだよ!聞いてよルーナ!」

 思い出した!と行った感じに、ぷぅっと、頰を膨らませてプンプンと起こり始めるセシルちゃん。お、これは地雷を踏んだか?


「私、ディルクと一緒に、挨拶を行ったんだけど、その時の対応がなんて言うかなぁ……あのね、すっごい疲れたの。」

 先程、頰をぷぅっと膨らませたかと思えば、次ははぁと溜息をつくセシルちゃん。ころころと変わるその表情も可愛いよ!

「まずね、大公さまに挨拶をしに言った筈なのに、気がついたら何故か、公国の重鎮達に囲まれてたの。一応、大公さまに会うことはできたんだけど、その後が大変。此処ぞとばかりに、皆んな、私たち、特にディルクに媚を売ってくるの。コネを作ろうと、必死になってる姿が目に見えてわかるっていうか、なんていうか」
「はぁ…」
「まぁ、確かに、ディルクは大公さまの甥にあたるし、媚を売る理由もなんとなくわかるよ。だって、彼らは貴族。コネと権力で、上に立つ、そんな存在だから………でもね、あそこまでするのもおかしい気がする。」


 成る程、成る程、そんな事があったのか。でも、ごめんね、セシルちゃん。私、庶民だから、貴族の事情ってよくわからないんだ。媚を売って、コネを作るか……なんか難しい世界だ。
 というか、セシルちゃん、なんかいつにも増して饒舌……




「そ、それにね。それにだよ!聞いてよ、ルーナ。媚を売ってくる貴族の中には、ディルに自分の娘を紹介する人もいたんだよ?どう思う!ねぇ」
「へ?」

 どう思う?って言われても、なんて答えていいのやら。でも、どうせ彼奴のことだから、断ったんじゃないの?

「私達は今世界を救う旅の途中。それを相手もわかってる筈なのに……それなのに、だよ。自分達の欲を優先するなんて、可笑しいよ」

 少し私から視線を逸らし、何処か複雑な表情のセシルちゃん。おや?一体どうしたんだ。

「だいたい、ディルクも、ディルクだよ。断るのは失礼だからって、そのままその娘のところに行っちゃんだもん。私を置いて……しかも、その後、やっと再開できたかと思えば、大公さまの屋敷に留まるって言うし。ねぇ、酷いと思わない?」

 へー、意外だ。ディルクがセシルちゃんのいる手前、そんな行動をとるなんて。あー、いや、でも彼奴のことだから、断ったら外交的な問題が発生する可能性があるかもしれないと考えた末、その申し出を受けたのかもしれない。確か、ゲームでも、確かそんなエピソードがあったな。乙女心がわからないディルクと、それに悩まされるヒロイン。両思いなのに!なんでそうなるんだ!と画面越しにもやもやしたのも良い記憶。
 んー、それにしてもだ。なんか、セシルちゃんの話を聞く限り、ディルクの態度に腹を立てている気がするなぁ。始めはエスト公国の貴族の態度に疲れて、そして起こっているのかと思ったんだけど、どうやら違うみたい。……んー、なんだろうなぁ、なんて言ったらいいのかなぁ?これ

「本当にムカつく。きっと、紹介された女の子が可愛かったから私を先に返して、屋敷に残ったんだよ。そうに決まってる。一緒に、挨拶しに言った私の事よりも……彼女の事を優先したんだよ。」

 あぁ、これ、もしかすると……いやいや、もしかしなくても嫉妬?嫉妬だよね?ディルクが、ほかの子に取られてしまったから、嫉妬しているんだ。

「挨拶が終わったら一緒に観光しようって約束したのに……酷いよ」

 ジワリと目尻に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうなセシルちゃん。それを見た瞬間、彼女には、悪いが今この瞬間、ついついガッツポーズをしかけてしまった。だって、これで、2人が両思い確定という事がわかったから。ディルクとセシルちゃんをくっつけようと考えてきた日々。セシルちゃんの気持ちがどうなのかが心残りだったけど、この反応を見るに確実に、彼女はディルクの事が好きだ。だとすれば、あとはもう何求めるものはあるまい。2人の背中を押して、押して、押しまくれば、きっと結ばれるだろう。となれば、私の代行ヒロイン作戦も無事大成功に終わる。はっきり言って、ディルクルートが、一番平和で死亡プラグも少なく、安全コースだったから嬉しいよ。ありがとうセシルちゃん、ディルクを好きになってくれて!


「そうですか、それは大変でしたね」
「うん………」
「一緒に観光したかったんですね」
「うん…」
「その女の子にブロテンガ殿をとられて悔しかったんですね」
「う…ん?」
「……セシルちゃんは、ブロテンガ様の事、好きなんですね」
「う…………ん?……え、ちょっと待って、ルーナ!!なんでそうなるの!!?」

 なぜか、急に慌て始めるセシルちゃん。照れ隠しかと思ったが、反応を見るに、どうもそうではない。……これは、本気で言っている。
 
「あのね?いい。ディルクは友達だよ?初めて会ったときから、ずっと友達。確かに、友達としては好きだよ。でも、ルーナが想像しているような好きじゃないよ。うん」
「いや、でも今回、ブロテンガ様が他の子と仲良くしているのをみて胸が痛くなったりしませんでした?モヤモヤしませんでした?」
「……なったわ、なったけど。なんか、胸が苦しかったけど」

 うん、だから、それを恋と呼ぶのでは……
 誰が、どう見ても、どう聞いても、恋だとわかるのに、なぜそこまで否定する。……もしかして、もしかすると、セシルちゃんよ。
 
 
「でも、恋って一目見た瞬間に好きになるものじゃないの?物語だとそうだよね?アーサーだってルーナにそうだったように。……だから、ね?これって恋じゃないよね?」

 ………無自覚? ディルクが好きだって無自覚なの!?
 あと、恋の始まりってそれだけじゃないから!!……………………………………………………………………………………多分。いや、私前世でも、今世でも経験したことないから、分かんないけどさ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...