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へっぽこ召喚士、迷子と出会う①
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もぬけの殻になったミアの部屋で一人、まだ微かにシーツに残る彼女の温もりを撫でながら、静かに我に返るリヒトは重たい溜息を零す。
(……やってしまった)
後悔が滲む中で、何故か彼女の温もりを独占できたことに優越感に浸る。
眩しい朝日に目を細めながら、ミアのコロコロと表情を変える顔を思い出しては、眉間にしわを寄せて口元を手で押さえた。
「月の魔力のせいとは言え……欲望を剥き出しにしてしまうとはな」
ここ数日のミアの仕事っぷりを部下が噂するのを小耳に挟んだり、執務室から見えた彼女の楽しそうに仕事をしている姿を見て、野性的な本能が疼いた結果がこれだった。
ミアを心配して獣舎まで顔を見せに行ったはずが、頑張りすぎる彼女を見て少し休めと言うつもりが説教紛いのことをしてしまったことを謝るために、部屋に訪るまではまだ理性が働いていたはずだった。
ところが、いざスヤスヤと気持ちよさそうに眠るミアを前にしたら、腹立たしさよりも彼女を求める本能が勝り、温もりを求めてベッドの中に無断で入り込んでしまったのだ。
(まだ覚醒しきってない頭で、俺はあいつに何をした?)
彼女の温もりを確かめるだけでなく、あの髪を撫で柔らかい頬を堪能し、そのまま――。
曖昧な記憶だが、確かに言えることは一つだけある。
「あんな面白い反応を見せるあいつは、悪くない……な」
ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届くことはなかったが、リヒト自身に言葉が根付くように深く絡まっていく。
寧ろもっと色んな表情を見てみたいとまで思うのは、素直な気持ちが全て表情に出て、無理やり押し付けた仕事だというのに、懸命にこなす彼女の頑張る姿は見ていて楽しいからだろうか。
あの手で魔獣達を撫で、あのペリドットの瞳で見つめられ、あの柔らかい頬を擦られると思うと、魔獣達が少しだけ羨ましくなる気持ちに蓋をしながら、ゆっくりと立ち上がった。
不思議と普段よりも仕事の疲労が消えていることに驚きつつ、しんと静まり返った部屋を後にしようと扉へと向かう。
「さて、もう一寝入りしてから仕事に取り掛かるか。一区切りついたらあいつの様子でも――って何考えてるんだ俺は……」
全ては月の魔力のせいだと自分に言い聞かせながら、また彼女のペリドットの瞳が見たいと、声が聞きたいと思うのを誤魔化して部屋を出たのだった。
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