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9.ショッピング

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 緩んだ頬を戻しながら歩けば、すぐに目的地へと着いた。
 この通りに並んだ数軒全てが衣類に関するお店だった。愛し子パワーすごい。
 とりあえず手前から順に攻めて行こう。

 カランッ――


「いらっしゃいませ」


 扉を開くとドアベルの軽やかな音が響き、店員さんが出迎えてくれる。
 見渡した店内には服が掛けられたトルソーやハンガーが展示されていて、見知ったショップのようで親しみが持てた。
 ここは婦人服がメインみたい。
 男爵家で用意してもらった今日の服がかなり着やすくて、似たものをいくつか持っておきたいと思っていると店員さんに伝えると、形だけでなく材質や着方の近いものを用意してくれた。
 さすがに試着はできなかったけど、その場でササッとサイズを計測してくれて、鏡の前で合わせてみながら皆にも伺ってみる。


「どうかな? こっちもいいと思うんだけど、これもなかなか……」

「どちらのメグミも素敵です。選べないのでどちらも買いましょう」


 お金を出してくれるリアムがいいって言うなら、私としてはありがたいけど。


「物価とかわからないから、高いからダメとか、買わなくても家にあるとか、ちゃんと言ってね」

「はい、わかりました」


 ……本当に? って聞きたくなるくらいニコニコ笑ってる。
 この世界のこと、お金のこと、早めに勉強しよう、そうしよう。

 次のお店は――隣は同じく婦人服店だったからパスして、その隣の、ガラス窓から様子が見えているお店に入ってみた。
 オレンジや黄色といった明るい色が目に飛び込んでくる内装の中、小さな服や靴、小物が並んでいる。
 子供服店って、空間がもうすでに可愛いのよね。


「愛ちゃん、どんな服が好き? 愛ちゃんがいいなって思うもの、教えてほしいな」


 愛ちゃんとは、スーパーやコンビニで買い物したことはあったけど、衣服に関しては初めてだから、好みをしっかり知っていきたいと思った。


「……いいの? わたしのすきなの、いってもいいの?」


 躊躇いがちに聞いてきた愛ちゃんの瞳は、期待と不安で揺れていた。
 思い当たる節がないこともない。
 いつもブランド物に包まれていた誰かさんは、食べ物とか色々愛ちゃんには我慢させてきてたから、この感じだと身に着けるものも同じなんだろう。

 はぁ、また嫌な記憶が頭に……早く消さなきゃと振り払う。


「もちろんだよ! だって、愛ちゃんのためのものを買うんだから。愛ちゃんが気に入ったものじゃなきゃ意味ないよ。ね、リアム」

「えぇ、そうですね。私も、マナの好きな色、形、なんでも知りたいと思います。教えていただけませんか?」


 私たちの言葉に表情を明るくした愛ちゃんは、飾ってあった服の前に駆けていくと、指を差して示す。


「あのね、あのね……わたし、あおいろがすき! このふわってしてて、ひらひらってしてるの、かわいくてすき!」


 薄い青色のワンピース。
 膨らんだ袖にさり気なくレースが施されていて、胸元には大きなリボンがついていた。


「おおぉ……可愛い。愛ちゃんのセンスの良さに驚きを隠せないわ」

「よく似合うと思います。鏡の前で合わせてみましょうか」


 ここでも店員さんがササッと計測してくれて、問題なさそうだったので無事購入。
 包まれた箱を受け取って、「ありがとう、だいじにするね!」ってキラキラ笑顔でお礼を言う愛ちゃんの姿に、店員さんを含め皆がキュンキュンしてた。
 ははは、どうだ可愛かろう。得意気になる私を許してくれ。

 その後、荷物はクロエが預かってくれて(エドガーさんは護衛だから手を空けておかなきゃね)、さらに次のお店で靴を買った。
 子どもから大人までサイズは様々、でも種類が少なめとのことだったが、おかげで愛ちゃんとお揃いにすることができて、満足である。

 さて、お次は通りを折り返して一軒目、そこは――


「あー……」

「男性方は外でお待ちください」


 下着と寝間着のお店だった。ここはクロエにお任せだな。
 ちなみに今身に着けている下着は、コルセット型ではあるけど柔らか素材でできていて、苦しい締めつけはない。
 でも、やっぱり慣れ親しんだものに近いのがあるといいんだけどと思いながら入店すると、意外にも種類が豊富で、いいものが買えた。
 過去の愛し子たちが下着に並々ならぬ思いを抱えていたことを思い知った。

 店を出て、欲しいものがだいたい揃ったことをリアムに伝えると、時間もちょうどいいから昼食にしようと決まった。
 リクエストを聞かれたけど、食べ物はよくわからないので、荷物がたくさんあることだし、ゆっくり座れそうなところをお願いした。

 人通りのまばらな道へと移り、辿り着いた場所は、少し古びた外観のカフェだった。
 席に着いて見渡した店内の雰囲気は、日本の喫茶店に近いかもしれない。
 レコードの音楽が流れてきそうな、落ち着いた大人の隠れ家のようだ。


「お気に入りの場所なんです。大通りの賑やかなカフェよりも、こちらのほうがゆっくり過ごせるかと思いまして」

「うん、すごく落ち着く。日本にも似たようなお店があってね、なんだか懐かしい。私も好きだな、ここ」

「気に入っていただけてよかった。……自分の好きなものを、愛しい相手に同じく好きだと思ってもらえるのは、こんなにも嬉しいことなんですね」

「えっ…………愛しい、って」


 サラッと。すごくサラッと流れるように、愛しいって言った。
 初めから好意的だったし、目が口ほどに物を言ってたから、経験値の乏しい私でもそうじゃないかなーって思ってはいたけども。
 はっきり言葉にされると……あうぅ、恥ずかしい。

 でも、すごく嬉しい。

 こんなに、しっかり好意を伝えられたのって、甘い空気に、ふわふわ幸せな気分になったのって…………いつぶりかしら。


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