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13.守護神オウリュウ様

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「その声は……オウリュウ様……ですよね?」


 何もない、ただただ真っ白な空間に問いかけてみる。


「あいさつはおかおをみながら、きちんとしないとだめなんだよ!」

「あはは、たしかにそうだ。ゴメンゴメン」


 相手が神様だと理解していないのであろう愛ちゃんの、物怖じしない言葉が辺りに響くと、笑い声と共に、ふわっとひとりの青年が現れた。


「やぁ。この姿では初めまして、だね。僕がオウリュウだよ、よろしくね」


 話し方も表情もとっても気さくなオウリュウ様は、龍というよりはドラゴン寄りのようで、その背中には立派な翼をお持ちだ。……しっぽもあるわね。
 縦長な瞳孔の瞳を持つ顔や、ギリシャ神話の神々のようなヒラヒラした衣装から覗く腕、手や足先はもちろん鱗で覆われている。
 だからというわけじゃないけれど、その容姿は――


「おーちゃん、りあむににてるねぇ。きいろいりあむだ。ね、めぐちゃん」

「おーちゃんって、また可愛い名前にしちゃって……まぁでも、そうよね。すごく似てる気がする……形態が似てるとかそういうことじゃなくて……顔? なんだろう?」


 まるで2Pカラーのリアムだ。
 空色の部分が黄……クリーム色になって、濃紺色の部分が黒色に置き換わっている。


「おーちゃんかぁ……愛称なんてつけられたの初めてかも。いいね、ぜひこれからもそう呼んでよ。あ、リアムに似てるのはぁ……彼が僕の血を……というか、双子の弟の血を引いてるからかもね。先祖返りみたいになってるし、余計にね」


 おーちゃん呼びが公認になったぞと思っているうちに、何やら重大発表がなされたんだが?


「立ち話もなんだし、椅子用意するから……この辺りでいっか……ホイッと。よぉし、さぁ座って座って。あ、お茶も出すね」

「あ、はぁ。お構いなく……」

「まほうだ! すごいねぇ」


 何もなかった空間には、神力だか魔力だか私には分からない不思議な力で用意された居間セットが、あっという間に設置されていた。
 渋る理由も術もないことだしと、素直に席に着く。


「粗茶ですが…………って言うんだっけ?」

「うわぁ、馴染みあるセリフなのに違和感がすごいわ」

「あはは、その顔! 感情が正直すぎだよ。……はぁ、やっぱりメグミはいいね」


 おかしそうに笑っていたオウリュウ様が、ふっと穏やかな、慈しみの表情に変わった。


「メグミを召喚するにあたって、僕が現地まで見に行ったって話、聞いてる?」

「そうらしい、ってことだけ」

「ひとつ前の召喚があんなことになっちゃったからさ、責任感じちゃって。次は絶対、リアムを幸せにしてくれるをって。ここでいろんな世界の様子を覗きながらメグミを見つけて、なんとなく今度は大丈夫そうだと思ったんだけど、もう失敗できないから直接確かめようと思って出向いたんだ」


 いつどこで出会ってたのか、さっぱり分からないんですけど。


「ははっ、全然知らないって顔してる。そりゃ、気づかないよね……だって、僕トカゲになって会いに行ってたんだもん」


 トカゲ!? 思わずお茶が変なところに入って咽た。
 私の咳にビックリした愛ちゃんが、慌ててその小さな手で背中をさすってくれる。


「大丈夫? そんなに驚くと思わなかった。ほら、僕龍神だし。爬虫類に忌避感があるかどうかを確かめるには丁度いいでしょ? で、その姿でしばらくメグミを観察してたんだけど夢中になっちゃってさ……うっかり、網戸の隙間に挟まって出られなくなっちゃったんだよねぇ」

「網戸ってもしかして……あの寝室の、コレ絶対野生じゃないヤツって思った黄色と黒の!」

「そうそう、ソレ。あの時、マナが見つけてくれて、そのあとメグミが助けてくれてさ。あ、普通に触れるんだ……って、ふたりとも平気なんだ……って。もうね、絶対君たちを連れて帰るって決めた瞬間だったんだよ」


 そういえばカラーリングがまんま一緒じゃないの。

 いつだったか、寝室で愛ちゃんとお勧めのイラスト集を眺めていた時に、窓からカサカサ音がしてきて、駆け寄った愛ちゃんが、何か引っかかってるよとしゃがみ込んで教えてくれた先に見えたのは黄色地に黒斑点……いや、逆か? まぁとにかく、これ日本のじゃないだろって一発でわかる色と形をしたトカゲだった。
 どこからか逃げ出したのか分からないが、通報すべきかとか、毒とかあるのかしらとか色々考えたけど、藻掻いてる姿を見てるとなんとなく、あ、助けてあげなくちゃって、それが正しいんだって思えてきたから、窓を開けて網戸を少し動かして、広げた隙間からそっと摘まんで出してやった。

 それがまさか神様だったなんて。人生何が起こるか分からないわ、本当に。


「そんなこんなで、めでたく召喚に至ったわけさ」

「なるほどねぇ」

「いやぁ、大成功だね! あの日のようにリアムを前にしても怖がることもないし、なんなら好みでしょ? 君が大好きだって言ってた本の中の人物にそっくりだし」

「すきすき、ちゅっちゅのひと」

「そうそう」

「なっ……なんで知って……!?」

「えー? だって、しっかり観察したからね!」


 ニヤニヤと楽しそうに笑っていたかと思うと、急に真面目な顔つきに変わったオウリュウ様は、静かな声で語った。


「本当に君が来てくれてよかったよ。リアムが嬉しそうに笑ってて安心したんだ。……僕のせいで、一度はあんなに傷つけちゃったからさ」

「……もしかして……オウリュウ様にとってリアムは特別なんですか?」


 さっき言っていた、弟の血を引いているというのが関係しているのだろうか。


「――僕はかつて、皆と同じただのリザードマンだったんだ」

「……え」

「詳しいことは省くけど、色々あって神となって今に至るんだ。この地の民として生まれた頃には双子の弟がいて、その弟は生を全うして、その血を受け継ぐ子たちができて……。この国の皆が僕にとっては大切な子どもたちだけど……リアムは、リアムがあまりにも弟に生き写しでね。彼は何も知らないよ。僕が勝手に懐かしさに浸ってるっていうか、世話を焼きたくなっちゃうっていうか」


 オウリュウ様の過去に何があったのかは教えてはもらえなかったが、彼がリアムを本当の弟のように思っていることはよくわかった。
 神様が贔屓なんてしちゃ駄目なんだけどね、って苦笑いしてる顔には、でも弟が可愛くて仕方ないって書いてあるような気がした。


「余計なお世話かもだけど、リアムのことよろしくね。君なら……君たちなら、幸せにやっていけるよ。神様のお墨付きなんて心強いでしょ? ……なんてね」


 最後は無理やり明るく振舞ったような言い方だったが、触れずに頷いた。


「もちろんです。あの日常から切り離してくれた上に、好みの男性まで用意されてて、しかも、向こうも少なからず私のこといいなって思ってもらえてるとかご褒美じゃないですか。神様が勧めたお見合いだもの、誰かが反対してきたとしても強気で振り切ります。絶対逃がしませんよ? ……なんて」

「ふふっ……あははっ! いいね、すごく。リアムが大切なのは本当だよ。でも、メグミも……もちろんマナも、僕のお気に入りだってこと覚えておいて。愛し子の中でも、特にね」


 助けたトカゲの恩返し。
 あの時の行動が、こんなに素敵な未来につながっていたなんて。
 誰かに褒めてほしくてやったわけじゃないけど、この褒美をありがたく受け取らせていただこう。
 ところで、自分の行いにグッジョブと自画自賛している最中に、何やら物騒な言葉が聞こえてきたような……。

 もしも本当に邪魔してくるやつがいたら僕が潰してあげるからね、なんて……その言葉はひとまず触れない方向でいきますね。


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