冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

連載

少年期［５４５］冷静な判断

「どこ見てんだよ」

ゼルートは一瞬にしてベーザルの右側に移動しており、殴る準備が整っていた。
そしてゼルートの声で居場所が分かって無理向こうとするが、既に攻撃が放たれていた。

「ふんっ！！！」

特に身体強化系のスキルを使ってはいない。体術スキルの技を使用もしていない。
ただ単純に正拳突きをかました。

「ごはっ！！？？」

そんな正拳突きをモロに貰ったベーザルは当然吹っ飛ぶ。
そのまま行けば他の同業者にぶつかってしまう。

「……はぁーーー、少々拍子抜けだな」

結果を予想していたゲイルは先回りしてベーザルが吹っ飛ぶ方に移動しており、飛んできたベーザルを受け止める。

「なんだ、呆気ないな」

「ッ……てめぇ！　いきなり何してんだッ！！！！！」

「何って戦いを開始しただけじゃん。ちゃんと開始の合図はしただろ」

自分達のリーダーがいきなり吹き飛ばされたとこに憤慨するタンクの大男。
しかしゼルートはそんなそろそろ感情が噴火しそうな男に対しても余裕な表情は崩れない。

「お前ら、ルーキーじゃないんだからあれぐらいの攻撃は対応出来ると思ったんだけどなぁ……どうやら見当違いだったみたいだな」

これは本音であり、反撃は無くともガードされるとは思っていた。
だが、結果は反応こそしたものの……そのまま正拳突きを食らって吹っ飛んでしまった。

（確かに初速こそ身体強化無しの状態で全力で動いたけど、ガードぐらいは出来るだろ。それともこれから戦うのに本当に気を抜いていたのか？　てか、よーいドンってちゃんと言ったんだから少しぐらい反応出来る筈だろ）

やや反則に近い攻撃ではあったが、ゼルートとしては真面目にガードされると思っていた一撃。
さすがにその一撃でノックアウトにはならなかったが、あばら骨には日々が入っており、ヒーラーのパーティーメンバーが急いで駆け寄って回復魔法を使用する。

「なぁ……お前ら本当にBランクなのか？　もう一回Cランクからやり直したらどうだ？」

一番下のランクからやり直せとは言わない。
一応ゼルートの攻撃には反応したベーザル。
なのでそこまで実力が低い訳では無いが、それでもBランク冒険者と名乗るには実力が足りないと思うゼルート。

ただ……今回のゼルートの一撃を目で追えていた冒険派は三分の一もいなかった。
実家を出て冒険者になってから更にレベルが上がったゼルートの素の身体能力は、余裕でAランク冒険者の域に達している。

そしてゼルートは才能だけでいえば魔法に特化しているが、接近戦のパラメーターはスピード寄り。
なので身体強化系のスキルを使用していなかったとはいえ、全力の初速を見切って反応出来る冒険者はBランクの中でも多くない。

「小僧……俺達を嘗めるのもいい加減にしろよ」

「嘗めてるっていうか……ただ事実を言っただけなんだけどな。というか・・・・・・その様子だと、次はあんたが相手になってくれるのか？」

ゼルートとしてはそれでも問題無い。
タンクの男としてもそれは望むところ。

しかしパーティーメンバーの魔法使いは優秀であり、仲間を馬鹿にされた怒りは収まっていないが、冷静な判断を下すことが出来た。

「止めなさい、バグズ。ギルドに迷惑を掛けることになります」

「何言ってんたメーリア、先に喧嘩を売って来たのかこの小僧だ！！！！」

「いいえ、どちらかと言えば私達がこの少年達に下層に挑むのは無謀だと止めようとしたのが原因です」

「それは俺達からの助言だろうが！！！！」

確かに男の言い分も間違ってはいない。
ただ、魔法使いの女性の方が冷静にゼルートの実力を判断することが出来ている。

（この子……いったい何者なの？　年齢は私達より確実に下なのに）

自分達より年下でも才能や実力が上の同業者がいないとは思わない。
ただ、ゼルート程の年齢で自分達より勝る経験を積んでいるとも思えなかった。

「不意打ちに近い一撃とはいえ、それにベーザルは反応出来なかった。それが彼らの実力を証明しているといっても良いでしょう」

それは周囲にいる冒険者達にも解かる確かな事実だった。