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ヒロインの特権
しおりを挟む「とにかく、来なさいよ」
アイリ様に手を引かれて、廊下の端に向かう。
行き止まりだ。行き止まりのはずのその場所。
なぜだろう、通れそうな気がする。
アイリ様が言っていた、ヒロインとして動くときのチート。
ほかの人たちが、入れない場所に、入ることが出来る。
「……セリーヌ様にも、わかるでしょう? ここ、行き止まりのように見えるけれど」
「抜け道、ですか」
「そうよ。いざとなったら、ここから抜け出すのよ?」
いざとなったら、とは。
話の内容が掴みきれずに、アイリ様の蜂蜜みたいに甘ったるい、垂れ目がちな瞳を見つめる。
「……ベルン様が、記憶を取り戻すのは、あの野獣公爵の見た目の時だけの可能性もあるのよ? いつ元に戻るかも、はっきり分からないと言っていた。制約が大きすぎる。もし、もしも、記憶を無くしたままのベルン様が、メリル・フェンディスと遭遇したら」
「記憶をなくしたままの、ベルン様が、メリルお姉様と出会ったら?」
メリルお姉様と、ベルン公爵が出会った時、何が起こるのかは分からない。
ベルン公爵が、メリルお姉様のことを大切に思ていたのは確かだ。でも、私と過ごした記憶がない状態で出会ったなら、ベルン公爵はどちらを選ぶだろう……。
その場合、やっぱり私は、二人の幸せを邪魔する悪役令嬢という役柄になるのだろうか……。
個人的には、モフモフ愛好家として、仲良くしたいのだけれど。
それに、部屋から出られなくなるほどベルン公爵が苦しんでいた原因という、過去の出来事。
出会った直後の、顔色の悪いベルン公爵の姿が、脳裏に浮かぶ。
「――――これは、ベルン公爵が過去の苦しみから救われる、チャンスです」
「はぁっ、危機感がないわね。そんなことでは、生き残れないわ」
「アイリ様……?」
「セリーヌ様は、初めからベルン様の庇護を受けていたから、分からないのよ。この世界は、そんなに優しくなんてないの。現に私は、忘れられてしまった」
ここまでくる間に、アイリ様にもいろいろあったに違いない。
そうだ、私は覚えていないけれど、この世界に着た直後からベルン公爵のお屋敷に、婚約者として納まっていたという。ベルン公爵のここまでの行動を見ても、大事にされていなかったはずがない。
覚えていないにもかかわらず、それだけは確信を持って言える。
「――――そうね、少なくとも今回は、私もセルゲイも、アルト様も、記憶に関しては問題ないわ。シナリオの好きになんてさせない」
「……アイリ様」
「だから、いざとなったら、この抜け口から抜け出すのよ!」
――――なんとなく、その選択は波乱を呼ぶのだろうなぁ。予感ではなくそれは確信だ。
だって、私とヒロインは、本当は共闘なんてするはずない、悪役令嬢とヒロインのはずなのだから。
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