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元悪役令嬢と年下王子 4
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手早くドレスに着替える。
コルセットがいらないエンパイアスタイルのドレスは、ウェストよりも高い位置に切り替えがあって着心地がいい。
家で過ごすときはそのまま、来客があるときは丈の短い上衣を羽織る。
「……ところで、こんな早朝からお客様って?」
「……食堂でお待ちです」
「なるほど」
食堂にいる、という時点で思い当たる人は一人しかいない
ドアを開ければ、当然のように、セバスチャンが作ってくれた朝ご飯を頬張る黒い髪と金色の瞳を持つ青年がいた。
「…………」
無言のまま見つめていると、ナイフとフォークを置いて、口元を拭った青年は優雅に立ち上がった。
「お久し振りです。お祖母さま」
そのまま、私の前に立ち、恭しく礼をする。
そして、顔を上げると、ニカッと人好きのする笑みを見せた。
「なんてな? 久しぶりだな。フィアーナ」
「…………お久し振りです。ロレンス様」
「なんだ、そんな他人行儀な」
「辺境伯を継がれたはずでは?」
「はは。……父上は、貴族籍を取り戻した。爺さんが、最期に頭を下げたらしい。もうしばらくは、自由の身だよ」
「そうでしたか」
それなのに、なぜリーフ辺境伯は、私に本邸を与えるなどという遺言を残したのだろうか。
どうして彼は、最期まで私にそこまでのことをしてくれたのだろう。
「……暗い顔するなよ。爺さんの葬儀に間に合わなくて悪かったな。感謝している」
「遠方にいたのですもの……。それに、妻として当然のことだわ……」
「……すでに王都では、爺さんとフィアーナは、白い結婚だったと広まりつつあるのにか?」
「えっ、どうして」
真顔で私のことを見つめていたロレンス様は、その答えを教えてはくれなかった。
代わりに手を差し出される。
「えっと?」
「魔術師団は、魔道具師にとって最高の取引相手だ。ふふふ、最年少魔術師団長にして王弟、レザール様とコンタクトをとったという情報は、すでに俺の耳に届いている」
「ちょ! レザール様は!」
商魂たくましい、義理の孫。
お陰で魔道具のアイデアを出すだけの私に、毎月莫大なロイヤリティが入っているから、頭が上がらないけれど、それとこれとは話が別だ。
「…………そんなに、特別か?」
「え、特別?」
もちろん、レザール様は私にとって、命を捧げたいくらい大好きな推し。特別に違いない。
ただ、ロレンス様の言う特別の意味は、推しとは少し違う気がした。
その時、二人きりだった食卓に響いた五回のノック。
「………ふーん、来客か。爺さんと手紙のやり取りをしているのは知っていたが、俺が来たというのはどこで知ったんだろうな? 誰にも気づかれないように、訪問したはずなんだが」
静かに食堂に入ってきたセバスチャンから告げられた来客。
それは、話題の主、レザール様なのだった。
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