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いたずらな未来視 3
しおりを挟む「お会いできて光栄です。今日は、どうなさったのですか?」
「あら、ディールス公爵には、お伝えしていたのだけれど……。ティアーナ様を我が家のお茶会に招待したいと思って」
「そうだったのですね。失礼致しました。ライハルト様は、きっと私のことを驚かそうとしたのでしょう。昔からそういうところがありますもの」
「……昔」
小さくつぶやいたベルク公爵夫人の言葉に気がつかないまま、ティアーナは招待状を受け取った。
もしかしたら、妹のフィリーネにも会うことが出来るだろうか。
フィリーネは婿を迎えて、今は三人の子どもがいるという。
本当であれば、後ろ盾を持たない王子であるライハルトは、ミリティアと結婚し公爵家を継ぐはずだったのだ。
けれど、ティアーナはもう、ベルク公爵家の人間ではない。
「――――それでは、来てくださるのを心待ちにしていますわ」
「はい。私も楽しみにしています」
ほんの少しの距離感をさみしいと思いながら、ティアーナはベルク公爵夫人、かつての母の背中を見送った。
その背中は、ミリティアとして一緒に過ごしていた頃よりも、小さく見える。
「お母様……」
小さくつぶやいたティアーナ。
ほぼ同時に、ベルク公爵夫人がミリティアの名をつぶやいていたなど、ティアーナは知りもしない。
***
お茶会の招待状は、正式なものだった。
美しい封筒、優しい香りがついた便せん。
その日は、フィリーネも挨拶したいと言っていると書かれていた。
ティアーナは、何度もその手紙を読み返した。
直筆の筆跡は、懐かしく、確かに母のものだった。
「はあ……。ライハルト様が用意してくださったドレスが役に立つわね」
婚約式の翌日、屋敷に運び込まれたのは色とりどりのドレスだった。
王女として過ごしていたと言っても、ティアーナは亡国の姫。
しかも、今はなくなってしまった母国では、王族としての扱いなど受けていなかった。
だから、こんなにたくさんのドレスを前にするのは久しぶりだ。
「あら……。この箱は」
隠されるように置いてあったのは、リボンのついた薄い箱だった。
金色の光と、映し出されたほんの少し未来の光景。
未来視の中、ティアーナは寝室でリボンをほどき、真っ赤に頬を染めて中身を取り出していた。
ティアーナは、形のよい眉をそっと寄せる。
そして、赤くなってしまった頬をそっと両手で押さえた。
「この箱……。寝室に運んでおいて貰えるかしら?」
侍女にそう告げると、明らかに表情が明るくなった。
つまり、彼女もこの箱の中身をすでにしっているということだ。
「――――いったい、こんなもの、いつの間に用意したのよ」
この箱の中身をティアーナは、未来視の中で身につけていたことがある。
純白の心許ないそれは、ほとんど太ももが全部見えてしまう、そして隠したいところをかろうじて隠すことが出来るだけの夜着だ。
そう、それは、ライハルトと再会したあの日の未来視だ。
未来視は、少しだけ形を変えながら、現実と混ざり合っていく。
「……でも、私は」
出かける前のライハルトの言葉が、耳の奥で反響している。
ティアーナは、急に高まってしまった心臓の鼓動に、昼食も夕食もほとんど食べることが出来なかった。
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