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第1章
再会は、闇堕ちの香りとともに。
しおりを挟む「リリーナ。やっと、あなたを迎えにくる準備が整いました」
月のない夜、暗闇に飲み込まれそうな真夜中、私の部屋の窓は、木っ端微塵になった。
眠れずにベッドに腰掛けてボンヤリとしていた私の目の前には、真っ黒な軍服を身に纏った男性。
淡い金色の髪と、南の海のような緑がかったブルーの瞳。背景に溶け込んでいるのに、その髪と瞳だけは、まるで星のようにきらめいている。
その人は、私のよく知っている人だ。
「ディオス様……。どうして」
「どうして? あなたの元に必ず帰る、と約束しましたから」
たしかにあの日、守護騎士ディオス様は、辺境伯令嬢である私、リリーナ・ルンベルグに「あなたの元に必ず帰ります」と約束をしてくれた。
それは、果たされなかった二人だけの約束。隣国との戦いで、ディオス様は命を落としたはずだった。
でも、確かに、目の前のディオス様は、生きているみたい。足もある。
あの戦争の後、ディオス様の亡骸すら私の元には帰らなかった。
けれど、ディオス様が、肌身離さず身につけていたという、深い赤色、葡萄みたいな私の瞳と同じ色をした魔石がはめ込まれた腕輪。それだけは、長兄が持ち帰り、今も私の手首にはめられている。
「それ、身につけていてくれたんですね」
嬉しそうに笑う、その笑顔は、あの日と少しも変わらない。
でも、私が聞きたいのは。
動揺とそれと同じくらい胸に迫り来るなにかで、声が震えているのを自覚しながら、なんとか口を開く。
「……どうして、魔王軍の軍服を」
ベールンシア王国では、馴染みのないはずの黒い軍服。けれど、私は、その服をよく知っている。悪役令嬢リリーナの暮らす、ベールンシア王国の隣国は魔王の国。乙女ゲームの魔王の配下が纏っている軍服だから。
「ああ……。今は、ガルシア国で、将軍の地位についています」
「魔王軍の将軍」
悪い冗談なの?
少なくとも、私が知るディオス様は、清廉潔白な人。間違っても、魔王の配下になるなんて、あり得ない。
これは、魔王の手先が、私の大事な思い出を利用して、ちっとも働かない悪役令嬢を闇堕ちさせに来たのだろうか。
その線が濃厚ではないかしら?
「俺と一緒に、来てください」
「え、闇堕ちのお誘いですか」
「…………ふっ」
ディオス様が、笑う。
その笑顔は、あの日とちっとも変わらない。
そのことに胸が、キュンと切なく、苦しくなる。
「そうですね。俺とともに、堕ちて下さい?」
手のひらに口づけられる。
まるで懇願するみたいに。
あの別れの日みたいに。
悪役令嬢として生まれたはずの、私の運命の歯車が音を立てて回り始めた。
そんな予感とともに、抱き上げられた私の体は、宙を舞った。
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