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第1章

魔王の都の可愛らしい家

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 兄二人が、思い悩むほどに、問題が大きいなんて知りもしない私は、可愛らしい家の前にいた。
 もちろん、弟のルシードが、暴走しているなんて知る由もない。

 なんだろう。乙女ゲームの世界だと思っていたけれど、ここはおとぎ話の世界だったのだろうか。魔王もいるもの。
 でも、魔王の国の首都だわ? どうしてこんなに可愛いの。

 扉を開けると、この家の使用人たちに出迎えられる。でも、なぜだろうこの違和感と既視感は。

「おかえりなさいませ。旦那様、姫様」

 そう、ここにいる使用人たちは、みんな獣人だ。たぶん、ケモ耳が見えない人も、雰囲気からして人族とは違う何かしらの血を継いでいそうだ。

 ――――その中でも、私の視線を釘付けにしたのは。

「ミミルー!」
「姫様!」

 我を忘れて走って、その体に抱きつく。
 お別れした時は、あんなに小さかったのに。
 今は、平均よりは背が低い私と同じくらいの背丈だ。

「……どうしてここに」
「三年前から、こちらにお世話になっています」
「三年前……」

 王立学園の下見をしていたときに、危うく売られそうになっていた彼女を助けたのが、私たちの出会いだ。ミミルーはその後、故郷に帰ったと聞いていた。

 誰から? そう、ディオス様から。

「ディオス様に、連れられてきたの?」
「そうです。姫様」
「……無理矢理?」

 まさか、ミミルーまで巻き込んでいるなんて。
 ますます、ディオス様の考えがわからなくなる。

「……ここは、私みたいな人間には、楽園です。それにここにいる使用人は全て、旦那様と姫様に助けられた者ばかりです。全員、ここに居たいと希望していますよ」

 私の視線は、彼女の頭に。猫のような三角の耳が、ぴょこんと揺れている。そう、ベールンシア王国では、いつも目深にフードを被っていたミミルーが、その耳を露わにしている。

 周りの使用人たちも、それぞれの身体的な特徴を隠すこともない。そういえば、以前助けた人が何人かいるようだ。

 他の人も、ディオス様が、助けた?

「……さ、積もる話もあるでしょうが、この後、お会いしなければならない方がいます。その格好のままというわけにも行かないでしょう」

 先ほどまで無言でいたディオス様が、口を開く。

 ふと、自分の格好を見れば、ディオス様のマントを巻き付けて、部屋着のままだった。
 転生前の感覚を持ってしても、人前に出ていい姿ではない。

「お任せください! 私、姫様の専属侍女として、この三年間厳しい特訓を受けてきました! ようやく、お役に立てます」
「えっ、あの」

 厳しい特訓を受けてきたという割に、私の手をグイグイ引いてくる。ミミルーらしい。

 直後、お風呂に投げ込まれた私は、高級な石鹸とオイルで磨き上げられる。辺境伯家は、基本自分のことは自分でする主義。転生前の価値観も相まって、手伝ってもらうのは気恥ずかしい。

 石鹸は、ディオス様みたいな、屋上庭園の甘くて爽やかな風みたいな香りがした。もしかして、愛用の品なのだろうか。ようやく解放されて、湯船にブクブクと口元を沈める。

 なぜだろう、その香りに痛くなるほど、胸が高鳴るのを感じた。
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