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第2章
運命のシナリオ
しおりを挟む「はあ……。記憶消去の魔法、いや時間を巻き戻して聖女を拘束」
ディオス様の独り言が怖い。どれも、ルンベルグ家の図書館にあった禁書に書いてあった魔法だ。
ディオス様なら、魂を対価にするにしても、成功できそうなのが怖い。
せっかく再会できたのに、魂を対価になんてさせるわけにいかない。
魂があること、生まれ変わりがあること、私は知っている。
もしかしたら、いつかまた会えるかもという思いだけが、私をディオス様が迎えに来てくれた、あの日まで、辛うじて生かしていたのだから。
「ダメですよ。私、ディオス様のことは、一つも忘れたくないんです」
「忘れていたじゃないですか」
「少し、大事すぎて、厳重にしまい込んでしまっていただけです」
「――――は、そんな言葉。やめてください」
両手で顔を覆ってしまった、ディオス様。
耳が赤いのは、気のせいだろうか……。
「――――ディオス様、好きです」
「……聖女が言っていたでしょう? 俺は、あなたの両親を死なせたのですよ?」
「ディオス様のせいではありません」
「そんな、そんなこと言ってはいけません」
どうして? そう、この間も私が告げようとした言葉は、唇に塞がれてしまった。
――――唇に。私の、ファーストキス。
「――――好きです。好きで、好きで、好きです」
「リリーナ」
「どれだけ好きかなんて、ディオス様こそ、知らないです」
無事に断罪を逃れたら、ディオス様の後を追ってしまおうと、毎日考えずにはいられないほど、好きだった。だから……。
「愛しているって、言いましたよね?」
ゴクリと、喉を鳴らす音がした。
私を見つめる瞳は、ドロドロと溶けてしまいそうなほど、熱い。
「――――後悔しても、知りませんよ?」
「後悔なんて、もうし尽くしました」
「っ……リリーナ」
「もう、いなくならないとだけ、約束してくれるなら、私のすべてをディオス様に」
抱きしめられた。熱い、熱い体と、泣きそうな瞳。
「そんな約束、してはいけません。俺のような人間に」
「どうして? ディオス様は、いつだって、優しかった」
転べば手を差し伸べてくれた。木の上から降りれなくなれば、助けに来てくれた。なぜか、助けようとした子猫は、ディオス様に懐いて、辺境伯家に居ついた。
優しいディオス様。大好きなディオス様。
守護騎士になって欲しいなんて、言わなければよかったのに。
何度、後悔したか分からない。悪役令嬢の守護騎士になるなんて、きっとディオス様にとって、得になることが一つもない。
「――――私の、守護騎士になるなんて、頼まなければ、今も一緒にいられたのかなって、何度も何度も後悔しました」
その時、浅瀬の海の色をした優しい瞳が、すっと細められた。
「――――それこそ、あなたのもとに俺はいない」
「ディオス様?」
「あの日、死を覚悟しました。……救ってくれたのは、あなただ」
それは、あの日のディオス様の覚悟だった。
もう一度、落ちてきた口づけは、私の気持ちを封印してしまうためのものではない。
あの日に、もう一度、思いを馳せるための勇気。
ディオス様が語ってくれたのは、生まれ落ちたゆえの苦悩。
自分では、避けることが出来ない、運命のシナリオだった。
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