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異世界で幼なじみともう一度
SS 約束の遠乗りは異世界チートとともに
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「ねえ、本当にここに乗るの?」
「約束しただろ?さ、早く」
「誰かに見られたら恥ずかしいよ……」
「リリアは仕方ないな」
ひょいっと、リリアの体が軽々と抱き上げられ、次の瞬間には馬上にいた。
あの日から約1週間。溜まった書類を怒涛の勢いで片付けたレオン団長は本日ようやく非番になった。
「やれば出来るのに。……でも、書類溜めたらリリアに会わせないって言うのは、今後も有効だな。ふふ」
そんなルード副団長のボヤきと企みが聞こえてくるようだ。木下くんも夏休みの終わりに、怒涛の勢いで宿題を片付けるタイプだった。
ちなみに七瀬とリリアは、学習や業務での計画性は高いコツコツタイプだ。
レオン団長はリリアを前に乗せて、馬を走らせる。リリアのバスケットには、朝早く起きて作ったサンドイッチが入っている。
「わぁ。速い!」
レオン団長の馬はとても足が速い。その分気性が荒く、気に入った相手しかその背中に乗せないという。
しかし、なぜかリリアには初めからすり寄って甘えてきた。もちろん背中にも喜んで乗せてくれている。
「今日はどこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ。でも、リリアは好きだと思うよ?楽しみにしてて」
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しばらく急な坂を登ると突然目の前が開けた。
「わ、すごい!!」
「ここで、お昼にしよう」
そこには美しい湖があった。不思議なことに湖の水は、ピンク色をしている。2人はシートを広げて仲良く昼食をとった。幼い頃のように。
「その昔、女神が愛した勇者との思い出を留めるためにこの湖に魔法をかけたらしい」
「女神の愛の色なんだね。ロマンチック…」
「まぁ。実際には何かしらの原因で、赤い色のバクテリアが繁殖したんだと思うけど」
リリアは頬を膨らませた。
「昔から、そう言うところあるよね。女神の愛と魔法ってことにしておこうよ」
「ふふ。まあ、魔法が存在するこの世界ならそれも否定できないから、検証の余地があるな?」
「そうだよ」
遠くの水面を眺めながら、レオン団長が呟いた。
「この湖を初めて見た時、七瀬と来たいと思った。リリアと初めて会った時、連れてきたいと思った」
「そっか……。うれしいな」
少ししんみりした雰囲気を壊したくて、リリアはレオン団長の手を握った。
「じゃ、私たちの思い出もここに留められるかな」
「まあ、そのために俺の魔力使ったら、闇属性の黒い湖が出来上がるかもしれないけどな。リリアのためなら試すけど?」
「……笑えない。せめて私の魔力で金色にする」
「いや、魔力も愛も俺の方が多い」
「いや、団長には絶対負けない」
そこで元来負けず嫌いな幼なじみ2人の競争心に火がついてしまった。
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「……ねえ、どうしよう」
「……ああ、まさかこんなことになるとは。これが異世界チートというやつか」
今、2人の眼前には真っ暗な湖面に金色の星が瞬く恐ろしくも美しい湖があった。
2人は多分、異世界チートというものを甘く見ていたのだろう。
「たぶん、受けた魔力の種類によって色を変えるバクテリアがいたと思った」
「うん。湖の色が変わるのは、バクテリアのせいっていう方が、科学的だよね」
2人はこの湖に、この日の思い出を留めておくことに決めた。
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――――この湖は、魔王の呪いか女神の嘆きかなどと囁かれ以前より人気の観光スポットになっているらしい。
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