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淡い青色の世界 ※ジェラルド視点
しおりを挟む――――淡くて青い光は美しい。
だが、その光が与える力は、強い風のようにあるべき人生を吹き飛ばし、作り替えてしまった。
「……ここは」
夢と現実の境が曖昧になった場所に、その存在はいた。
美しく淡い青色の馬が、こちらに視線を向ける。
おそらく、こちらに興味を示したのだろう。静かに近づいてきたその馬は、鼻先を私に押しつけきた。
「精霊、ルルード」
その精霊の名は、王国全土に知れ渡っている。
風の高位精霊ルルード。それは、賢王と名高い三代目の王に加護を与えた精霊だ。
次の瞬間、淡く青い光に包まれる。
与えられたのが加護なのだと、すんなりと私には理解できた。
***
八番目の王子として、離宮の片隅に生まれた私は、周囲に大切にされて育った。
王位継承は、ほとんど一番上の兄である第一王子に決定していたし、一番幼い第八王子は、周囲に可愛がられこそすれ、そういった争いとは無縁の存在だった。
それが変わってしまったのは、十五歳の春の日のことだ。
王立学園に入学を控えていたある日、その精霊は私の前に現れた。
精霊からの加護は、生まれると同時に与えられることが多いが、成長してから与えられることもごくまれにある。
しかしそれは、歴史書には記録されていたが、あまりにまれで、まさか第八王子が、現在王族や貴族たちに加護を与える精霊の中で一番高位の存在から加護を与えられるなんて、誰が予想しただろう。
「……ルルード」
第八王子として生まれた私は、本を読むのが好きな大人しい少年だった。
しかし、風の高位精霊は、私に多くの力を与え、その運命を変えてしまった。
「どうして、私を選んだんだ……?」
王族は、どんなに遅くとも王立学園に入学するまでには、婚約者を決める。
けれど、精霊の加護を最も尊重する神殿派が、私が王にふさわしいと意見を強め、決まりかけていた長兄の王位継承一位すら揺らぎかけていた。
「……はあ。それにしても、ルルードが私に加護を与えてから、終わりなく婚約の釣書が届いているんだが……?」
『ヒヒン!!』
「あっ、こら!?」
第八王子である私は、つい先日まで国外の王族か、それなりに有力な貴族と婚姻すると周囲に考えられていた。
しかし、ルルードに加護を与えられて以降、私に届くのは、神殿派や反第一王子派の高位貴族からの婚約打診ばかり。
そのどれもが、受けてしまえば国内に騒乱を招くことが明らかなものばかりだった。
――――その上、私に加護を与える精霊ルルードは、そのどれもがお気に召さないようだ。
どちらにしても、無理に婚約をすすめてしまえば、この国の風を司る高位精霊ルルードの機嫌を損ねてしまうだろう。
それに、私自身も国内の混乱を招いてまで結婚したくはなかった。
だから、風の力でバラバラに刻まれてしまった釣書は、ある意味好都合だった。
そして、加護の力の一つだったのだろう。
努力は嫌いではないが、向いていないと思っていた剣は、急に上達し、加護で手に入れた風の魔法の力も相まって、国内でも最高位の力を手に入れた。
もちろんそれは、入学した王立学園で、後に騎士団長になるライバル、バルトと出会ったのも、大きかったに違いない。
「はあ、それにしても、一生独身で過ごせというのか?」
それほど、絶望しているわけでもないが、別に女性が苦手というわけでもない。
急に手に入れてしまった大きな力を持て余し気味だった私を咎めるように、ルルードが近づいてくる。
『ヒヒンッ!!』
そのとき、私に初めて加護を与えたときと同じように、ルルードが鼻先を押しつけてきた。
ルルードの加護の一つは、風を読むように、時々未来を知ることができるというものだ。
その力は、便利だが、思い通りに使えるものでもなく、実用性には乏しかった。
「……女性?」
『ヒヒイイン!!』
前触れもなく、十五歳の私の前に、淡く青い光があふれ、世界が塗り替えられていく。
美しい青色のカーテンのような光の向こうで、笑いかけるのは、少しだけ年上の可愛らしい女性。
青い光のせいでその色合いはわからないが、優しくて温かい笑顔に、不思議と胸が高鳴る。
「……ステラ」
その名をなぜか知っていた……。それは、ルルードの力だったのだろうか……。
そのときの出来事は、時の流れと、身を置いた過酷な戦場の中、いつしか記憶の奥底に消えてしまった。
***
美しい青い光に、炎のようにゆらゆらと揺らぎながら差し込む赤い光。
その二つは、十五歳の春、ルルードから初めて加護を与えられたあの日のように、少しずつ私の魔力と全てを塗り替えていく。
――――今思えばきっと初恋だったに違いない、青い光の中でこちらに微笑みかける女性、あの日見た光景の記憶を呼び覚ましながら。
「…………」
「んん……。ジェラルド様」
「…………」
「ムニャ……。もうさすがに食べられません……」
「……ステラ!?」
そして私は、目を覚まし、かつて見た女性がすぐ隣でクゥクゥと寝息を立てていることに動揺して、思いっきりベッドから落ちてしまったのだった。
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