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真夜中の刺客

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ライオス兄さまが王になった晩。

ライオス兄さまは、俺たちの遺伝子上の父親を牢に入れた。

俺は俺が生まれたときのことを知らないから、扱いにちょっとぎょっとしたけど、今まで次代の王が決まったら、その場で現王は選ばれた王子と戦い、王位を継がせるときは前王を倒したとき―――つまり、殺したときだったらしいから、殺さず放逐するのは優しい方なのだと言われた。


あの嫌な王子達も、今までなら殺されてたらしくて。


伝統だか慣例だか知らないけど、身内で殺しあうなんて、なんか嫌なやり方だなと思った。



ライオス兄様は、「あの男は殺さない。ララ様の最期を悼んで、同じ場所に捨て置く。翼がなくてもあの男なら運が良ければ勝手に生きていけるだろうし、あれでもララ様を愛してはいたようだから、同じ場所で死ねたら本望だろう。ララ様が成し遂げられなかったドラゴン討伐を成し遂げてもらう。」と言って、処分を決めたようだ。

国交が断絶になっているエンジェリカとの国交再開のためにも、その原因となっている者の処分は不可欠らしい。

事を為すために非情になれるのは王として大事な素養なんだと思う。



優しくて、みんなを大事にしてくれて、それでいて大局を見れる。

こんな素晴らしいお兄様が王になってよかったと思う。

ライオスお兄様の下なら、ヒトも幸せになれるだろう。




「今日は遅いから、泊っていくといい。文も出したから、近いうちにエンジェリカにも行ってやれ。向こうのおじい様はお前のことを案じていたから。」

そう言って、ライオスお兄様にレオと2人通されたのは、母さんが使っていた離宮だった。

代々のエンジェリカの妃の宮は、白い離宮で、昼間訪れれば色とりどりの花々が咲き乱れ綺麗なのだろう。
20年も主が不在だったのに、ライオスお兄様のお母様のおかげで、出て行った時のままでありながら、清潔に保たれていた。


「俺、ここで生まれたんだな。」


ぽふっと柔らかいベッドに沈む。

「……そんなはずないのに、母さんの匂いがする気がする…。」


もし俺がヒトじゃなくて、天使に生まれていたら、ここで生活していたのだろうか。

あの人も、少しは違っていたのだろうか。

あの2人とは仲良くなれなかったと思うけど、ライオスお兄様とはきっとすごく仲良しで。

きっと、母さんは何不自由なく、ここで今も生きていた。


今までの人生が不幸だったなんて思わない。
俺たちは俺たちなりに幸せだったけど、母さんがいないことだけが悲しい。


「……うっ、うぅっ。」


俺の髪をレオが撫でる。

ぽんぽんと、背中を軽くたたかれている間に、俺は寝てしまった。








「ふふふ。不用心に寝ているわ。どんなに強くても寝てたら簡単よ。……よくもヒトの癖に私の可愛いペネを!魅了の力は誰より強かったのよ!あの力で相手を操って、自死させたり、仲間同士で戦わせたり。あの子の思うとおりにならなかったことなどなかったものを!」

「誇り高きエルフの子をあんなに辱めて許せない…!なんでヒトの癖にエルフの王子を凌駕する魔力を持つ!このイレギュラーが…っ!」


寝所に忍び込む二人の女性の影。

すやすやと寝ているレノを見下ろし、顎で合図をする。

念のため淫魔の妃が頭の方で目覚めを妨げ、エルフの妃がレノの心臓めがけて刃を振り下ろそうとする。



ガッ!

衝撃音とともに、エルフの妃の手がぶれ、ナイフが落ちる。

ナイフが床に落ちた音は、分厚い絨毯で響くことはなく、鈍い音がわずかにした。



「きゃ!なっ、何!」


「どうしたのッ!なんでッ!」




「なんで番の側に私がいないと思うんだろうね。」



「れっ、レオっ…さまっ!」



レオは淫魔の妃の頭と、エルフの妃の頭を掴んだ。

「このドぐされ淫魔。お前たちのすることはライオスにも筒抜けだ。このままレノの命を狙った罪で投獄され、息子ともども処刑されることを望むか。それとも、二度と歯向かわないか。処刑されたくなければ、淫魔の力を解放しろ。今、この場で。そして、私が言う言葉をそのまま繰り返せ。」


「なっ、何を…!」


「い い から!とっととやれ!」


淫魔の力を解放したまま、二人の妃は見つめあう状態になっている。


「私たちは、王位には興味はない、レノ様も誰も襲わない。」

「私たちは、王位には興味はない、レノ様も誰も襲わない。」

「大事なのはお互いだけ。あなただけを愛する。たとえ効果がきれたとしても。」

「大事なのはお互いだけ。あなただけを愛する。たとえ効果がきれたとしても。」

「ここであったことは永遠に忘れる。」

「ここであったことは永遠に忘れる。」


キイインと淫魔の洗脳が発現し、二人の意思は縛られた。



ふらふらと出ていく妃たちを見て、あれが彼女たちの罰だとレオは見送った。


お互いを嫌っていた二人。

誰よりも権力を望んでいた二人は、これから先、二人で死ぬまでべったりと愛し合うことだろう。


廃人同様になった息子たちのことなど、目にもかけずに。
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