庶民的な転生公爵令嬢はふわふわ生きる

くしゃもち

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一生を掛けて貴女を守ります

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俺はほとんど感情の起伏が無かった。

やりたいことも、夢も、何にもなかった。笑わないし、泣かない。

皆が面白いと言うモノも何が面白いのかが分からない。

幸いにも、自分には魔力があり、大抵のことはできた。
でも何が楽しいのか、面白いのかが分からない。

親もそんな俺のことを気味悪がったりも疎んだりもしなかった。

他の人が親だったら間違いなく距離を置かれていた。

そして次第に何もかもを面倒だと思ってしまうようになった。


ある日、退屈な剣術をしていた時、珍しくサーシャが慌てて自分を呼びに来た。

ああ、そういえば妹が出来たと言って喜んでいたな。

まあいいや。今日もやることなんてないし。

「ディアン!この子の名前は!?女の子よ!あなたの妹よ!」

母様、すごく混乱しているな。

何時もよりも顔が赤いし、ここまで砕けた口調になるのも珍しい。妹、か。
少し見てみるとしよう。

その生まれた赤ん坊の方を見た時、夜、たまに起こる、階段から落ちるような感覚、それが今起こったような、そんな感覚を憶えた。

書物に書いているような、電撃を喰らったような感覚ではないけれど、
ほんの少し、『面白そう』と思った。

「ユークレース。」

「え?」

「この子の名前。」

アリュール家の新生児は宝石を持って生まれる。
正真正銘、本物の宝石だ。しかしその石が本物か偽物か、種類は何なのか、分かるのはアリュールの血を引いている者だけだ。

そしてその宝石の名前が自分の名前になる。

ユークレース、という有名な知の宝石を持って生まれてきた子。

自分が少し興味を持った相手。

「これからよろしく、ユーク。」


それから、俺はずっとユークを観察していた。

親が薦めてきた本より、この前来た外国の話をする話し手の話なんかよりも、ずっとずっと面白い。

「ディアンはいつもユークを見ているね。そんなに妹のことばかり見ていたら他の女性に嫌われるぞ~。」

「別にいい。それに父様も同じ。」

父様が母様ばかり見ているのと同じことをしているだけ。
咎められる意味が分からない。

「あーあ、誰に似たんだろうね~。あ、そうだ。デュークモン伯爵令嬢がお前と話をしたがっているみたいだけど。どう?お茶会くらい」

「興味がない。面倒。」

「はいはい。」

恐らくユークが出席する茶会と夜会にしか俺は出ないだろう。というか何としてでも行く。

あ、ユークが泣いてる。泣いたらどうなるんだろう?悲しいってどんな感じなんだろう?

他人が泣いている姿や、本気で笑っている姿を見たことが無かった。

だからユークを見ているとそれがどんなものか、何となくわかるような気がする。だから面白い。

さあ、今日はどんなことを教えてくれるんだろうか?


『あ~、もしもし~。起きて~。』

…ここはどこだ?

『よかった~、生きてたよ~。本当に驚いたんだからね!』

要件は?

『うっわ、こいつ全然面白くない…。今回は早く終わらせちゃお…。はい、君はアリュール家がどうやってできたか知ってる?』

本で読んだ。

『なら話は早~い!君たちには僕、アリュールの血が混ざってるから死なないように僕と契約しまーす。はい、何か質問は?』

興味がない。

『あ~あ、なんでこんなに面白くないの?あ、ウィーネの血も混じってるからか?これだから嫌なんだよな~。クレマナイト止めときゃよかった。』

早くして、ユークと居る時間が減る。

『こっわーい、さっさと終わらせちゃいますか~。はい、じゃあ行ってらっしゃーい。』


「ディアン様、朝でございま…お、奥方様ああ!旦那様ああ!ディアン様がああああ!?」

「どうしたの…ユークちゃんが起きちゃう…あら?コール!これはどういうこと!?」

「痛い痛い!!サフィー、少し落ち着いて!ユークが起きる!!」

「あ…そうね。じゃなくてディアンはなんで呼んでも起きないの!?」

「落ち着いて!これはアリュール家の試練なんだってば!!」

「…ディアンは大丈夫なのよね?」

「ああ、というか安全になるために契約するんだから。安心しなさい。」


『おお~、君のは『武』か~。それも凄く純度の高い…あ、聞こえてないか。』

…聞こえている。

『まじで!?すごーいー、精神が強いんだね~。』

帰らせろ。終わっただろ?

『うん。じゃーねー、ばいばーい。』


「…おはよ。」

「ディアン!よかった~!大丈夫?どこも痛くない?」

「ん。」

それよりも早くユークを見たい…

「じゃあ、ディアン、突然だけどこれでちょこっと指を…」

…これをしたらユークに会えるのか。

「…躊躇なくいったね。」

「躊躇したら時間がなくなる。」

躊躇していいことがあるならいいけれど。

指から流れた血は床に触れた瞬間黒い結晶となった。それを拾い上げるといつの間にかそれは真っ黒な剣となった。

「これをどうするの?」

「ええ…もっと反応してよお…悲しくなっちゃう。」

別に俺には関係ないし。で、これどうするんだ?

「あ、にーさま!!それ、剣?かっこいー!」

「ゆ、ユーク…近づいたらダメだ…危ない…」

トコトコとユークが近づいてくる…ユークに怪我させてはいけない…

なんで俺はこんなものを持っていなくてはいけないのだ…邪魔だし投げるか。

「うわ!?ちょっとディアンっ!危ないじゃん!!ちょ、まだ話は終わってないよ!?」

今のうちに逃げるか。おそらく血が宝石になってそれが思い描いた武器になるんだろう。

まあこれでユークと遊べる。

「ねえ、にーさま。とーさまが何か言ってるよ?」

「別にいい。いつものしょうもない話だから。」

「じゃあいっか。いっしょにあそぼー!」

「ん。」


「ねえねえ、今日兄様と一緒に寝てもいい?」

あれから2年後、ユークもあの妙な男と契約したらしい。

そして就寝時間。夜中急にユークが訪ねてきた。

そしてこんなことを言い出した。

正直言って口元が緩むのを隠すのが必死だった。

最近、自分の中にこんな感情があったのかと思うことが沢山ある。

ユークの姿が見えなくなったら焦ったり、ユークが作ってくれたほっとけーきというお菓子を食べた時には顔がほころんだ。

4年前には毎日のように考えていた「面倒」も今ではユークに関しては無くなった。

逆に言えばユークのこと以外になると無頓着となった。全てが色を抜かれたような気持となる。

まあ俺にはこれ以外要らないのだけれど。

布団に入ると、横にはユークがいる。

本当は抱きしめて寝たいけれど父様が「それはしてはいけない。ユークが悲しむ。」と言っていた。

ユークが悲しむのならしない。

そしてしばらく静寂に包まれた。

そしてふとユークに腕をつつかれた。

「私のね、宝石は知の宝石だったの。」

「知ってる」

「ねえ、兄様は何でも知れる私のこと、気味悪いと思う?嫌いになった?」

何を言ってるんだこの妹は。

俺がユークのことを嫌うことなんてないのに。

そうか、ユークは今不安なのか。

なら安心させてあげないと。

「大丈夫、俺はユークのことを嫌いにならない。」

そう言って頭を撫でた。

「ほんと?しようと思えばどんなことでもわかっちゃうんだよ?」

「安心して、俺はユークがユークである限り、嫌いにならないし、気味が悪いとも思わない。」

逆に俺が嫌われないかが心配なくらいだ。俺がそう言うとやっと安心したみたいだ。

「兄様、」

「ん?」

「ありがと。大好き。おやすみ。」

…今大好きって言った?ダメだ、どうしても口元が緩んでしまう。

声が上擦ってしまう。

「じゃあ、ユークは俺と結婚してくれる?」

そんな事を口走っていた。
頭が崩壊寸前だったのだろう。

言ってすぐに後悔した。何故考え無しに言ってしまったのだろう。

「兄妹は結婚できませ~ん。」
兄妹…か。

もしかしてユークは知らないのか?なら好都合。

「出来たら?」

「う~ん、多分兄様と結婚すると思うよ。兄様以上の人、見たことないし。じゃあ、おやすみなさい~。」

「…言質は取った」

おっと、声に出ていた。

まあユークは寝ているし聞こえていないだろう。

ローゼルクには本人と親が承認すれば兄妹でも結婚が出来ると言うのに。

ただし政略結婚の必要の無い家に限るけれど。

今日は嬉しいことが沢山あった。

さあ、明日からは親を納得させないと。

「ユーク、おやすみ。明日も俺に色んなことを教えてね。」

俺がユークをずっと守るから。
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