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スウェンは知らない

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私はスウェン・ローガン。神官長です。
神殿に奉仕して数十年。神官長の務めである十歳の子どもの魔力検査も滞りなく終わらせることができるようになりました。
ふむ、今年の子どもたちは魔力の保有量が多いようです。しかしとびぬけて才能のある者も…今回は面白みがなさそうですねえ。
「皆様、列に並んでください。」
おや、後ろの方から怒声が聞こえてきますね。これは少し懲らしめないと。
掌に顔位の大きさの炎の球を作り、喧嘩をしている子どもたちに当たらぬように軌道を調節し、投げる。
よし、おとなしくなりましたね。
毎年あることですが、どうも慣れません。ですがこれも私の務め。心して取り掛からなくては。

「アイスタス。」
はあ…慣れているとはいえ、学科の組を言い渡すのは気が重いですね。
長年にわたり、ウェールは優等生、ヒエムスは劣等生という価値観が植え付けられていますが、そんなものはないのに。
「次の方。」
控えめに出てきた少女は恐ろしく綺麗な顔立ちをしていた。魔力量を見ると…なんだ、思ったより大したことありませんね。この子はアウトゥーヌスですかね。
水晶玉を差し出すと、少女は腕輪らしきものを二つ、外した。
!?魔力が大幅に増えている?不正は…違う。他人の魔力を混ぜてはいない。なら今まではこの魔具で抑え込んでいたのか…
ん?何故だ、既視感が…
少女が魔力を込め出すと、水晶玉はどんどん膨張していった。私は呆然とするしかなかった。水晶体が割れる。そんなことあってはならない。皆が騒ぐだろう。
だがそれは、前例のないときの話。

四年前、ある麗しい少年がここに来た。そしてその子も少女と同じように水晶玉を破壊したのだ。それも魔具のついた状態で。
そんなことは前代未聞の事態だったのでどの組に入れればいいのかわからず、ただ
「ヒエムス」
と言い渡しました。ヒエムスはほとんどの人は劣等生の集まりと認識していますが、ヒエムスは本来、『この世界に何かをもたらすものがある人』が集う場所。
この子はこの世界の誰よりも強くなる。そう思い、ヒエムスに入れるよう指示しました。

そのような事例があったのは初めてではありません。という訳でこの少女にもヒエムスを言い渡しました。
少し不憫にも思ったがこの少女にも多大なる魔力があります。おそらく大丈夫でしょう。
それにしても…替えの水晶玉を持ってこなければ…この水晶玉、希少価値の高い物なのですが…また陛下に頼みましょう。

スウェンは知らない。
この兄弟が全く本気を出していないことを。
この先一生、知ることはないが。
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