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馬車に揺られること、何日だろうか。私は、すっかり旅人になっていた。
着慣れない、くたびれた旅装。髪はぼさぼさで、顔には埃がついていたかもしれない。でも、誰にも見られていないという解放感が、私を少しずつ変えていった。
父の屋敷を出てから、私はひたすら北へと向かっていた。王都から遠く離れた、辺境の地。そこには、私が知るきらびやかな社交界とは、まったく違う世界が広がっていた。
小さな村の宿屋に泊まり、そこで出された素朴なスープの美味しさに、涙が出そうになった。今まで食べていた、豪華な料理とは比べ物にならないけれど、人の温かさが、私の心をじんわりと温めてくれた。
旅の途中、私はお気に入りの本を読んで時間を潰すことが多かった。昔から、本の中の世界に逃げ込むことが、私にとっての唯一の居場所だったから。
ある日のこと。私は、馬車が通れるような大きな道から外れ、森の中へと迷い込んでしまった。旅慣れていない私は、すぐに道に迷ってしまった。日も暮れてきて、不安と心細さで、私は足がすくんでしまった。
「どうしよう……このままでは、夜になってしまう」
そのとき、草むらの奥から、呻き声が聞こえた。
ドキリ、と心臓が跳ねる。動物だろうか? それとも、盗賊?
私は怖くて、その場から動けなかった。でも、その声は、苦しそうだった。助けを求めているように聞こえた。
私は、震える足をなんとか動かして、声のする方へ近づいていった。草木をかき分けて進むと、そこに、一人の青年が倒れていた。
彼は、身なりのいい服を着ていたけれど、その服は泥にまみれ、破れていた。腕からは血が流れ、顔は青ざめていた。
「大丈夫ですか!?」
私は慌てて駆け寄った。
青年は、ゆっくりと目を開けた。その瞳は、深い森の色をしていた。
「……君は、誰だ?」
その声は、か細く、掠れていた。
「私は……ただの旅行者です。あなたは、どうしてこんなところで……」
私は、彼の腕の傷を恐る恐る覗き込んだ。深い傷だった。このままでは、出血多量で命を落としてしまうかもしれない。
私は、父の屋敷で、薬草の知識を少しだけ学んでいた。母が、病弱な私を気遣って、家庭教師をつけてくれたのだ。その知識が、こんなところで役に立つなんて、夢にも思わなかった。
「動かないでください。すぐに手当をしますから」
私は、持っていた手ぬぐいを破り、応急処置を施した。近くに生えている薬草を探し、それを潰して傷口に塗った。
青年は、私の手際の良い動きを、じっと見ていた。
「君は、医者なのか?」
彼は、少しだけ驚いたような顔をして、尋ねた。
「いいえ。ただの、素人です。でも、これ以上、血が流れてしまうと危ないので……」
手当を終えると、私は彼をどうするか考えた。このまま、森の中に置いていくわけにはいかない。
「近くの村まで、歩けますか?」
彼は、かすかに首を横に振った。
「すまない。足も捻挫してしまったようで……」
仕方なく、私は彼を肩に担ぎ、ゆっくりと森の中を進んだ。彼は、私よりも背が高く、体も大きかったので、とても重かった。でも、彼を放っておくことはできなかった。
ようやく森を抜け、小さな村にたどり着いたときには、あたりはすっかり夜になっていた。私は、村の宿屋に彼を連れて行った。
宿の主人は、怪我をした彼を見て、すぐに部屋を用意してくれた。私は、彼をベッドに寝かせ、看病をした。熱が出て、うなされている彼に、冷たい水を飲ませ、額に濡れた手ぬぐいを乗せた。
翌朝、彼が目を覚ますと、熱は下がっていた。
「助かった。本当にありがとう」
彼は、優しい声で言った。
その日、彼は自分のことを話してくれた。彼の名前は、カイル。旅の途中で、魔物に襲われ、仲間とはぐれてしまったらしい。
私は、自分のことを何も話さなかった。侯爵令嬢だったこと、婚約破棄されたこと。そんな惨めな過去は、誰にも知られたくなかった。
でも、カイル様は、そんな私のことを、何も詮索しなかった。
「君は、聡明で、優しい人だね」
彼は、ベッドの上で、微笑んだ。
「私のことを、何も知らないのに……」
私は、少しだけ驚いて言った。
「知らなくても、わかるさ。だって、君は、怪我をした私を、一人で看病してくれたんだろう? そんなことができるのは、心が美しい人だけだ」
その言葉は、私の心をじんわりと温かくした。今まで、誰も私のことを褒めてくれたことなんてなかった。私を褒めるのは、ただ、アルベルト様と婚約している、侯爵令嬢だから。そう思っていた。
でも、この人は、私のことを、何も知らないのに、褒めてくれた。それが、ただただ嬉しかった。
私たちは、カイル様が完全に回復するまで、その村で過ごした。私は、カイル様と話すうちに、今まで押し殺してきた、自分の本当の気持ちを話すようになった。
「私は、本を読むのが好きなんです。特に、植物図鑑とか……」
「へえ、すごいね。僕は、そういう本はあまり読まないけど、君が話してくれると、なんだか面白そうに思えてくる」
カイル様は、私の話を、いつも楽しそうに聞いてくれた。私の話に、飽き飽きした顔をする人もいなかった。
「もうすぐ、僕の仲間が迎えに来てくれるはずなんだ」
ある日、カイル様が言った。
「そう、なんですね……」
私は、少しだけ寂しくなった。彼がいなくなれば、また、一人ぼっちだ。
でも、そのとき、カイル様は、私の手を取った。
「君は、これからどうするんだい?」
「私は……まだ、行き先は決めていません。ただ、遠くへ行きたくて……」
「もしよかったら、僕と一緒に、僕の国に来ないか?」
私は、彼の言葉に、目を丸くした。
「そんな、私は、ただの旅人で……」
「構わない。君のような才能ある女性を、放っておくことはできない。実は、僕は……」
カイル様は、少しだけ言いづらそうに、でも、はっきりと、私に言った。
「僕は、この国の隣にある、ユージェニア王国の第二王子だ」
その言葉に、私は、心臓が止まるかと思った。まさか、私が助けた青年が、王子様だったなんて。
カイル様は、優しい笑顔で、私の手を取った。
「もし、君が望むなら、僕の国で、君の才能を活かしてくれないか? 君が望むなら、どんな勉強でも、好きなだけしていい。君の本当の居場所は、きっと、僕の国にある」
彼の言葉に、私は胸がいっぱいになった。初めて、私のことを、私として見てくれた人。私を必要としてくれた人。
私は、アルベルト様との婚約を破棄されたとき、もう二度と、誰かに必要とされることなんてない、そう思っていた。でも、目の前にいる王子様は、私に、新しい人生を与えてくれると言ってくれた。
私は、静かに頷いた。
「はい……。喜んで」
そして、その日から、私の新しい人生が始まったのだ。王子の庇護のもと、私は、王都で、語学や歴史、外交について、たくさんのことを学んだ。
それは、退屈な日々を過ごしていた、昔の私からは、想像もできないような、充実した日々だった。
私は、もう、ただの地味な侯爵令嬢ではない。王子に必要とされ、王子に守られ、王子と共に生きる、新しい私になったのだ。
そして、私は知らなかった。この出会いが、私を、そして、あの人たちの運命を、大きく変えていくことを。
着慣れない、くたびれた旅装。髪はぼさぼさで、顔には埃がついていたかもしれない。でも、誰にも見られていないという解放感が、私を少しずつ変えていった。
父の屋敷を出てから、私はひたすら北へと向かっていた。王都から遠く離れた、辺境の地。そこには、私が知るきらびやかな社交界とは、まったく違う世界が広がっていた。
小さな村の宿屋に泊まり、そこで出された素朴なスープの美味しさに、涙が出そうになった。今まで食べていた、豪華な料理とは比べ物にならないけれど、人の温かさが、私の心をじんわりと温めてくれた。
旅の途中、私はお気に入りの本を読んで時間を潰すことが多かった。昔から、本の中の世界に逃げ込むことが、私にとっての唯一の居場所だったから。
ある日のこと。私は、馬車が通れるような大きな道から外れ、森の中へと迷い込んでしまった。旅慣れていない私は、すぐに道に迷ってしまった。日も暮れてきて、不安と心細さで、私は足がすくんでしまった。
「どうしよう……このままでは、夜になってしまう」
そのとき、草むらの奥から、呻き声が聞こえた。
ドキリ、と心臓が跳ねる。動物だろうか? それとも、盗賊?
私は怖くて、その場から動けなかった。でも、その声は、苦しそうだった。助けを求めているように聞こえた。
私は、震える足をなんとか動かして、声のする方へ近づいていった。草木をかき分けて進むと、そこに、一人の青年が倒れていた。
彼は、身なりのいい服を着ていたけれど、その服は泥にまみれ、破れていた。腕からは血が流れ、顔は青ざめていた。
「大丈夫ですか!?」
私は慌てて駆け寄った。
青年は、ゆっくりと目を開けた。その瞳は、深い森の色をしていた。
「……君は、誰だ?」
その声は、か細く、掠れていた。
「私は……ただの旅行者です。あなたは、どうしてこんなところで……」
私は、彼の腕の傷を恐る恐る覗き込んだ。深い傷だった。このままでは、出血多量で命を落としてしまうかもしれない。
私は、父の屋敷で、薬草の知識を少しだけ学んでいた。母が、病弱な私を気遣って、家庭教師をつけてくれたのだ。その知識が、こんなところで役に立つなんて、夢にも思わなかった。
「動かないでください。すぐに手当をしますから」
私は、持っていた手ぬぐいを破り、応急処置を施した。近くに生えている薬草を探し、それを潰して傷口に塗った。
青年は、私の手際の良い動きを、じっと見ていた。
「君は、医者なのか?」
彼は、少しだけ驚いたような顔をして、尋ねた。
「いいえ。ただの、素人です。でも、これ以上、血が流れてしまうと危ないので……」
手当を終えると、私は彼をどうするか考えた。このまま、森の中に置いていくわけにはいかない。
「近くの村まで、歩けますか?」
彼は、かすかに首を横に振った。
「すまない。足も捻挫してしまったようで……」
仕方なく、私は彼を肩に担ぎ、ゆっくりと森の中を進んだ。彼は、私よりも背が高く、体も大きかったので、とても重かった。でも、彼を放っておくことはできなかった。
ようやく森を抜け、小さな村にたどり着いたときには、あたりはすっかり夜になっていた。私は、村の宿屋に彼を連れて行った。
宿の主人は、怪我をした彼を見て、すぐに部屋を用意してくれた。私は、彼をベッドに寝かせ、看病をした。熱が出て、うなされている彼に、冷たい水を飲ませ、額に濡れた手ぬぐいを乗せた。
翌朝、彼が目を覚ますと、熱は下がっていた。
「助かった。本当にありがとう」
彼は、優しい声で言った。
その日、彼は自分のことを話してくれた。彼の名前は、カイル。旅の途中で、魔物に襲われ、仲間とはぐれてしまったらしい。
私は、自分のことを何も話さなかった。侯爵令嬢だったこと、婚約破棄されたこと。そんな惨めな過去は、誰にも知られたくなかった。
でも、カイル様は、そんな私のことを、何も詮索しなかった。
「君は、聡明で、優しい人だね」
彼は、ベッドの上で、微笑んだ。
「私のことを、何も知らないのに……」
私は、少しだけ驚いて言った。
「知らなくても、わかるさ。だって、君は、怪我をした私を、一人で看病してくれたんだろう? そんなことができるのは、心が美しい人だけだ」
その言葉は、私の心をじんわりと温かくした。今まで、誰も私のことを褒めてくれたことなんてなかった。私を褒めるのは、ただ、アルベルト様と婚約している、侯爵令嬢だから。そう思っていた。
でも、この人は、私のことを、何も知らないのに、褒めてくれた。それが、ただただ嬉しかった。
私たちは、カイル様が完全に回復するまで、その村で過ごした。私は、カイル様と話すうちに、今まで押し殺してきた、自分の本当の気持ちを話すようになった。
「私は、本を読むのが好きなんです。特に、植物図鑑とか……」
「へえ、すごいね。僕は、そういう本はあまり読まないけど、君が話してくれると、なんだか面白そうに思えてくる」
カイル様は、私の話を、いつも楽しそうに聞いてくれた。私の話に、飽き飽きした顔をする人もいなかった。
「もうすぐ、僕の仲間が迎えに来てくれるはずなんだ」
ある日、カイル様が言った。
「そう、なんですね……」
私は、少しだけ寂しくなった。彼がいなくなれば、また、一人ぼっちだ。
でも、そのとき、カイル様は、私の手を取った。
「君は、これからどうするんだい?」
「私は……まだ、行き先は決めていません。ただ、遠くへ行きたくて……」
「もしよかったら、僕と一緒に、僕の国に来ないか?」
私は、彼の言葉に、目を丸くした。
「そんな、私は、ただの旅人で……」
「構わない。君のような才能ある女性を、放っておくことはできない。実は、僕は……」
カイル様は、少しだけ言いづらそうに、でも、はっきりと、私に言った。
「僕は、この国の隣にある、ユージェニア王国の第二王子だ」
その言葉に、私は、心臓が止まるかと思った。まさか、私が助けた青年が、王子様だったなんて。
カイル様は、優しい笑顔で、私の手を取った。
「もし、君が望むなら、僕の国で、君の才能を活かしてくれないか? 君が望むなら、どんな勉強でも、好きなだけしていい。君の本当の居場所は、きっと、僕の国にある」
彼の言葉に、私は胸がいっぱいになった。初めて、私のことを、私として見てくれた人。私を必要としてくれた人。
私は、アルベルト様との婚約を破棄されたとき、もう二度と、誰かに必要とされることなんてない、そう思っていた。でも、目の前にいる王子様は、私に、新しい人生を与えてくれると言ってくれた。
私は、静かに頷いた。
「はい……。喜んで」
そして、その日から、私の新しい人生が始まったのだ。王子の庇護のもと、私は、王都で、語学や歴史、外交について、たくさんのことを学んだ。
それは、退屈な日々を過ごしていた、昔の私からは、想像もできないような、充実した日々だった。
私は、もう、ただの地味な侯爵令嬢ではない。王子に必要とされ、王子に守られ、王子と共に生きる、新しい私になったのだ。
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