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6章 殿下魔獣討伐へ
60.魔獣③
しおりを挟む前世でプレイしていたゲーム内の自分は強くて少々のことでは死ぬことは無かったし、何なら3乙まではセーフだったが、この世界の本物の魔物にはそんな作り物のルールは通用しないのだという事に初めて気が付いた時に頭を過った事。―― それは自分の力が本当に魔獣に通用するのだろうかという不安が沸く以前の問題で、寧ろ命をかけてまで、何故自分のような弱い存在が戦場に立たなけいといけないのだろう? という単純な恐れと疑問だった。
恐らくだが、今のシルフィーヌはあの時の自分と似たような心境なんじゃないだろうか、とウィリアムは思い声を掛けたのだ。
×××
あの時の自分は、父親である陛下によって救われた。
『ウィリアム、大丈夫だ。俺が一緒にいるんだ! お前は今まで城で鍛えてきたのだろう? それは今この時の為だけにひたすら鍛えて来たのだ。だから今日がお前にとっての練習の成果を見せる発表会なんだ。それなのにそんなにビビッてどうするんだ。股の間にチ〇コのついた男だろう! いつも通りでいいんだぞ? ハッハッハッハ』
彼はその言葉で冷静になり・・・ いや、どちらかというと脱力したのかも知れないが、とにかく肩の力を抜いて思いっきり魔力を込めた己のバスタードソードを駆使してあっという間に周りの魔獣を全て切り捨てたのだ。
まぁ、その開き直った途端の身替わりの速さに若干周りの兵士達に引かれたのは苦い思い出でもある。
同行していた騎士団長のバートン侯爵だけはウィリアムの剣の師匠でもあった為、王子がたった10歳で魔獣を相手に振るった太刀筋が天才的であったと泣いて喜んでいたが・・・
因みに彼が10歳という王族としても異例の早さの魔獣討伐デビューを果たしてしまう事になった原因となった陛下は、震える息子を颯爽と助けるカッコイイ自分を演出する予定が、あっさり失敗したのでガッカリしていたのが王妃にばれてしまったせいで折檻をされた上に暫く家族から白い目で見られたらしい。
当然ウィリアムもそれを知った時はガッカリしたが・・・
それでも彼は父の一言
『大丈夫だ』
に救われたのだ。
だから今、引き攣ったような顔で焦点の合わない虚ろな瞳になってしまった婚約者に自分が出来ることは、ここにいるのは彼女一人だけではないことを思い出させる事だと思った。
×××
「あー、大丈夫か? 領地での間引きとは規模が全く違うからな」
彼の言葉にシルフィーヌはコクリと頷いた。
「はい。あまりの規模の違いに一瞬だけ我を忘れそうになっておりました。殿下、ありがとうございます」
「ああ。もう大丈夫だな」
「はい」
シルフィーヌは場違いな位にニッコリと微笑み
「殿下が傍にいてくださいますもの。安心ですわ」
そう答えた。
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