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107 恋
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俺は自分の母親の顔を覚えていない。
俺が1歳になる前に俺を置いてオルコット家を出て行ったらしい。
俺を育てたのは当時我が家にいた乳母で、自分の子供を亡くしてしまった寡婦だったが、2歳を過ぎる頃にはいなくなった。元々は教会の営む慈善院にいた女性で派遣だったらしい。
今の母が実の母と思い込んでいたのが5歳位まで。
俺にソレを教えたのは父だ。
「お前の母さんは、好きな男がいたんだよ。没落貴族で金で売られて俺と結婚したようなもんだな」
淡々と話す父の顔には何の感情も浮かんでいなかった。
「俺は仕事を継いだばかりで構ってやれなかったんだ。気がついたら好きだった元恋人と駆け落ちしてた」
俺は自分の母親が今の母親とは違うと言われたことだけでいっぱいいっぱいで、あまりその時のことを覚えていない。
ただ、1年掛かって親父が母親を見つけ出した時は貧民街の荒屋の寝床の上で飢え死にしてたらしい。
母親を連れ出したはずの男は、一緒にいなかったが恐らくそっちも似たようなものだろうと親父は言ってた。
「貴族の甘やかされたお嬢様だ。働く術なんか無かった筈だ。男の方も廃嫡されてた元貴族だからな。似たようなもんだろう。『恋』や『愛』だけじゃあ人は食っていけない」
その言葉だけが俺の痺れた頭に強く残った・・・
『人は恋や愛だけじゃ生きていけない』
×××
「なあ、サーシャ嬢?」
「はい? 何でしょうか」
「変なことを聞いていいか?」
首を一度傾げてからコクコクと頷く彼女。
「君は恋をする事はどういうモノだと思う?」
俺が1歳になる前に俺を置いてオルコット家を出て行ったらしい。
俺を育てたのは当時我が家にいた乳母で、自分の子供を亡くしてしまった寡婦だったが、2歳を過ぎる頃にはいなくなった。元々は教会の営む慈善院にいた女性で派遣だったらしい。
今の母が実の母と思い込んでいたのが5歳位まで。
俺にソレを教えたのは父だ。
「お前の母さんは、好きな男がいたんだよ。没落貴族で金で売られて俺と結婚したようなもんだな」
淡々と話す父の顔には何の感情も浮かんでいなかった。
「俺は仕事を継いだばかりで構ってやれなかったんだ。気がついたら好きだった元恋人と駆け落ちしてた」
俺は自分の母親が今の母親とは違うと言われたことだけでいっぱいいっぱいで、あまりその時のことを覚えていない。
ただ、1年掛かって親父が母親を見つけ出した時は貧民街の荒屋の寝床の上で飢え死にしてたらしい。
母親を連れ出したはずの男は、一緒にいなかったが恐らくそっちも似たようなものだろうと親父は言ってた。
「貴族の甘やかされたお嬢様だ。働く術なんか無かった筈だ。男の方も廃嫡されてた元貴族だからな。似たようなもんだろう。『恋』や『愛』だけじゃあ人は食っていけない」
その言葉だけが俺の痺れた頭に強く残った・・・
『人は恋や愛だけじゃ生きていけない』
×××
「なあ、サーシャ嬢?」
「はい? 何でしょうか」
「変なことを聞いていいか?」
首を一度傾げてからコクコクと頷く彼女。
「君は恋をする事はどういうモノだと思う?」
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