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 呆れ顔の彼女を微笑ましく思いながら珈琲を飲んでいると、レストランの入口から自分と似たような色味の青年が入ってくるのが見えた。


 「おはよう兄さん、お待たせ」

 「おう。おはよう」


 クリスだ。

 慌てて立ち上がろうとするサーシャ嬢を手で制して


 「挨拶はいい。朝食はしっかりな」

 
 そう言うと口を閉じたままコクコクと頷いた後で


 「社長、おはようございます」


 と。

 彼女はいつもよりかなり控えめな声で挨拶をした。



×××



 「じゃあ、例の彼女からの情報?」


 ホテルの部屋へ戻り、昨日の情報を弟と共有した。


 「ああ。1度調べ直した方がいいかもしれない」

 「ん~~、まぁ確かに彼女はウチオルコットに不利になる情報は流してこないだろうからね。今やオルコットは国の財布だからねぇ」


 腕組みをしながら考える様子の彼を横目に、秘書2人は互いの手帳と名刺を突き合わせながらサーシャ嬢は名刺をいぶかしげに、チャーリーは迷いなくバツマークを入れている・・・


 「そんなに沢山会う必要性のないモノが混ざってるのか?!」

 「ええ、まあ。年頃の御令嬢を連れて会いたいという要望のものは避けて、純粋にビジネスに繋がりそうなモノだけ選んでますから」


 第1秘書チャーリーがシレッとそう言い、第2秘書サーシャ嬢は黙って頷いた。


 「会場で変な飲み物を飲まされなくて良かったです」


 真顔で呟く第1秘書の顔を思わずその場の全員が2度見した。


 「嘘だろおい」

 「いいえ、会長の飲み物は全て検査しましたから」


 シレッと胸ポケットからリトマス試験紙のようなモノの束を取り出すとヒラヒラさせて、クリストファーに手渡すチャーリー。
 昨年から何故ドリンクコーナーに近寄ると、いつの間にか彼が先回りをしていたのか理由が今やっと分かり、溜息を思わずついた。


 「スマン」

 「社長もですよ」

 「・・・・分かった。秘書に渡さずに自分で口付ける前にコレ使うよ」

 「なぁ、それ。結果はどうだったんだ?」

 「ええ、まぁ。クロは2割程度でした」

 「「「・・・・」」」

 「社長も気をつけて下さい」

 「う、うん」


 クリスの顔が絶妙に引き攣る。


 「ねえ、皆。もう1晩だけ出席しない?」


 「「「・・・」」」


 全員が押し黙った。





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