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第四章 三つの世界の謎

自覚

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「ベッドって、あっちだっけ。んじゃあ、行くか」
 まるで世間話でもするような口ぶりで京は言い、リオの手を引いて腰を浮かせた。求めるものは明らかで、リオは慌てる。
「すぐに、一星戻ってくるし……ね、だから……今は……やめよ?」
「ゆっくりしとけってあいつ言ったよな。あれで二時間以内に帰ってきたら、俺、切れるぜ」
 二時間という、妙に生々しい表現に、リオは顔を赤らめた。
「だって……、京ちゃん、俺、無理……だって、こんな時だよ」
 腰をソファにつけたまま、むずがるように、リオは取られた右手を引き戻す。
「こんな時、だからだろ」
 京は言った。
「計画が成功するとは限らない。このまま離れちまうかもしれないんだぜ?」
 くぐもった声につきん、と心臓に痛みが走る。そんな可能性があるのだろうか。
「いざという時は、俺を選ぶって言っただろう? あれは嘘か? 俺を喜ばせようとして、気をつかっただけか?」
「違う……もん……」
 そうじゃない。そうじゃないけど……。
 はっきりと肯定してしまえば、男に御墨付きを与えるようで、どうしても口ごもってしまう。京は、腰をおろして、リオの頬を愛しげに両手ではさむ。
「なら、態度で見せてくれよ。たまには……。素直に抱かれてくれ。俺の気持はわかってるだろう」
「京ちゃん……」
「好きだぜ。リオ」
 リオは俯いて視線を避けた。ドキドキと心臓が高鳴っている。このタイミングで抱きあうのは、思ったほど、不謹慎ではないのかもしれない。
 だけど、沙蘭や二人組の黒人たちに、散々弄ばれた肉体を、京の前に晒すのは恥ずかしかった。
「リオ?」
 優しい声が、返事を促す。京は、怖い。その強引さと、優しさで、いつの間にか彼のペースに巻き込んでしまう。
 男の両手が、頬から離れ、リオの背中へと回った。そのままきつく抱きしめられ、リオは、京の肩口で、息を整える。至近距離の男の視線が痛かった。恥ずかしくて、そしてやっぱりちょっぴり恐怖もあるのに、慣れた匂いに包まれると、感じるのはやはり和らぎだった。
 抱きしめられたまま、リオはおずおずと顔を上げた。まっすぐにこちらを見る、京の視線とぶつかって、そして、次の瞬間には唇を奪われる。心臓が一際高く跳ね上がり、リオは大きく息を吸った。が、吐息ごと、男の唇に奪われて、革張りの背面に痛いほど背中を押しつけられたまま、リオは舌による蹂躙を受ける。
 慣れた舌が、歯列の裏を抉るように舐め、リオは白い首筋を晒してのけぞった。男は許さず、なおも口づけは深まっていく。

 京が好きだ、と突然思った。

 そう、好きだ。好きなのだ。
 彼がそばにいてくれたら、もう何もいらないくらいに。
 胸の中が、温かいもので満たされていく。切なさに、声をあげて泣きたくなった。
 のけぞった首筋を、長い指が撫でていく。京の触れた部分から、細胞が新しく作り替えられていくような気がして、ただ指で触られているだけなのに、気が遠くなる。

「なあ……、いいよな?」
 口づけを解いた後、京はそっと囁いた。こくり、とリオは頷く。京は再び、小さな身体を抱きしめた。
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