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28>> 最後の仕返し!

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 私は誰にも見られずに自室に戻ると着ている服を脱いで鞄から平民の服を取り出して着替えました。

 元々私は普段着にしていた簡易的なドレスを一人で脱ぎ着していたのでなんら問題はありません。
 私に専属の侍女を付けたくなかったお義母様が子供の私が一人でも脱ぎ着できるように、見た目は普通のドレスに見える特殊なドレスを服屋に作らせたのです。今でも技術の無駄遣いだと思いますわ。そんなドレスだけを与えられていたので私は着替えを一人でできるのです。
 流石にパーティー用のドレスは違いましたけどね。

 そしてこの平民の服ですが。
 なんとお義母様とララーシュからの誕生日プレゼントでした。
 平民の服と下着が3枚ずつ。布の靴に木の皿とお椀とスプーンが一つずつ。タオルが2枚に石鹸一つ。火打石──魔力の少ない平民用に作られた物です──に小型のナイフ。チリ紙と針と糸。
 平民の旅行用荷物一式が大きめの鞄の中に詰まっていました。

『お誕生日おめでとう!
 これでいつでもこの家を出ていけるわね!』

 と家族から笑顔で言われた時は心臓が止まった気がしました。そして家を追い出されるかもしれない恐怖で数日間眠れぬ夜を過ごしたものです。
 そんな義母たちの嫌がらせの道具が今の私にはとても役に立つのですから皮肉なものですね。
 服などはどれも市販品で私には少し大きいのですが、小さくて着れないよりは全然マシです。これがあったから簡単に家を出ていくなんて発想になったのかもしれません。
 そしてお金は今さっきお父様の執務室から少し拝借してきました。
 盗んだのではありません。手切れ金です。
 綺麗事なんて言っていられませんからね。これから私は平民として生きていくのです。


 誰にも見られずに邸を出た私は、真夜中の夜空を見上げました。
 大雨を降らせる分厚い雨雲の所為で世界は本当に真っ暗です。
 でも怖くはありません。
 冷たいはずの雨が、私にはとても温かく思えるのです。

 屋根のある部分から一歩足を踏み出せば、頭の上から強い雨が全身に降り注ぎます。
 ですが私は濡れません。
 魔法で雨水を全て体に当たらないように流しているのです。透明の傘を差している状態の私は、更に足元に魔法を発動しました。
 水魔法の上級魔法。氷です。
 一気に水の温度を魔法で奪い氷の板を作ります。そして私はその上に乗りました。

 そしてここからは私のオリジナル魔法です。
 目を閉じてイメージをかためます。
 前世の記憶を思い出して……
 難しく考えずに想像して……

「さぁ、行きましょう」

 そう言って目を開けた私の体は空へと上がっていきました。
 滝のように降る雨は小さな雨粒が連なるように降り注ぎます。それを魔力で捕まえて、あたかもロープを伝うように上に上に上がって行くのです。
 原理はエレベーターです。が、見た目は鯉の滝登りの方が近いかもしれません……
 足元は氷の板。伝うのは雨粒。
 今日のような大雨の日にしかできない芸当です。この雨に感謝しかありません。
 
 私は一気に上空まで上がると街を見渡せる山の頂上へと向かいました。
 体全体を囲うように魔法を展開している所為か飛行による体への負荷は全くありません。それでも地面に足を下ろすと途端に強烈な安心感が湧き上がってきて少し笑いました。

 山のいただきから住んでいた街を見下ろすと不思議と懐かしさが沸き起こりました。良い思い出など一つも無く、親しい人など一人も居なかった街ですが、それでも自分の育った場所だからでしょうか……
 心地よい雨音のBGMに私は暫し目を閉じます。
 心はとても穏やかで、晴れやかです。
 私は今から生まれ変わります。
 身分を捨て、名も捨てて、新しい『私』になります。

「……さようなら皆さん……」

 今までの事を思い出しながら、私は閉じていた目を開けて街を見下ろしました。

 そして…………


「“無能”って馬鹿にした奴らザマァ!!
 水魔法万歳!!!!」


 そう言って街全体に向けて『全ての人の尿が強制排泄する魔法』を放ちました。
 前世の記憶を思い出して初めてあの魔法です。
 きっとみんな今“お漏らし”している事でしょう。
 もう夜中でみんな寝ているのでこの場合は“おねしょ”ですかね? 明日起きて子供にどう言い訳するのか気になります。

「さぁスッキリした!
 雨が降ってる間に行けるところまで行くぞー!!」

 私は一仕事終えた気持ちで生まれた街に背を向けました。
 こんなに気持ちが晴れやかなのは人生で初めてです。今なら何でもできる気がします!

 私はまたエレベーター魔法(勝手に命名)を発動して空に舞い上がりました。
 この世界にも飛行魔法はありますが、こんな雨の中を飛ぶ人は居ません。
 私は誰に見られることもなくこの国から出て行きます。心は期待に満ちています。

 さぁ、大きな湖がある国に行きましょうか? 
 それとも海の近くにしましょうか?

 水の魔力しかないと馬鹿にされて生きてきた私ですが、この魔力のお陰で、“水さえあれば”どこででも自由に生きていける気がします!
 確か魔法に依存しない国があった筈です。

 そこで私は自由に生きて、必ず幸せになってみせます!!






[完]




最後に【ロンナの知らない後日談】(三人称視点)があります。
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