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 バシャンッ!

「っ!?!」

 突然頭から水を掛けられたフィーナ・セロンは驚いて目を覚ました。
 しかし慌てて動かそうとした体は動かず、何かが引っかかった手首が痛くて直ぐに顔をしかめた。

「え? ……なに……?
 ……え?! 何これっ?!?」

 頭から滴る水が滲む視界で自分の体を確認したフィーナは、自分の体に巻かれて自身を拘束しているロープに気付いて驚き慌てる。
 無意識に周りに視線を向けたフィーナの目に自分の側に居る汚らしい男たちと、目の前に立つ数人の人影が映る。
 その真ん中に立つ人物の顔を見て、フィーナは憎々しげに顔を歪めた。

「……キャサリーナっ、何のつもりよ……っ!」

 フィーナは床に倒れた自分を見下ろすわたくし、キャサリーナを睨む。
 その視線を受けて、わたくしは不思議そうに小首を傾げた。

「あら? 随分理解が早いのね?
 こんな場合、『何故? どうして?』と疑問の方が大きいと思うのだけれど。
 貴女は“わたくし”がこんな事をしている事には疑問に思われないのね?」

 わたくしの疑問にフィーナはますます怒りを込めてわたくしを睨み付けてくる。

「貴女の顔を見たら理由なんて直ぐ分かるわよ! 嫉妬に駆られた哀れな女の癖に! 婚約者に見向きもされないから、その婚約者が愛してやまない相手を逆恨みして私に危害を加えようとしてるんでしょ?! 最低ね!!」

 威勢よく言い返しているけどフィーナの体は小刻みに震えている。目の前に居るのがわたくしだけなら怯える事もなかったでしょうに、自分の側に居る一般人とは思えない風体の男たちやわたくしの側に立っているわたくしの侍女や護衛を見て、此処に自分の味方は誰も居ない事を理解したのでしょう。
 だけど、だからと言ってただ怯えてわたくしに頭を垂れる事はしないのね。自分には誰よりも強い味方がいると確信しているから、何があっても彼女はわたくしに負ける事はないと思っている。

「こんな事してっ、ジェイド様が黙ってないんだからねっ! 貴女はもう終わりよ!! この人攫い!!」

 フィーナが喚く。
 ジェイドとは、わたくしの婚約者であるジェイド・L・カーフィス第一王子の事。彼に愛されていると思っている彼女は彼の威を借ればわたくしが怯むと思っている。

 全身を縛られ、味方も居ない状況で、これだけ吠えられるのだから凄い。
 ヒロインとはやはり、心の強さで選ばれるのかしら?

「わたくしの婚約者の名前を気安く呼ばないで下さる?
 いつ、あの御方と貴女はそこまで仲良くなったのかしら?」

 扇を広げて口元を隠し、そう問うたわたくしに、フィーナは恐怖心を隠した顔で勝ち誇った様に笑って口を開いた。

「会った時からもう私達は繋がっているのよ! 貴女には分からないでしょうけどね!
 運命って知ってる? 私とジェイド様は出会うべくして出会ったの! 彼とはこれからもっとも~っと運命的な出会いを繰り返すわ! 貴女が何かしてもそれはむしろ私達の絆を強くするスパイスなの! 貴女が今、婚約者やってるのは、私とジェイド様の愛の為の障害役なの! ただの当て馬役よ当て馬! 
 こんな事したって貴女が捨てられる未来が無くなる訳じゃないんだから! むしろ貴女の断罪が早まるわね! この犯罪者!!」

 芋虫の様に床の上でバタバタしながらそんな事を言うフィーナにわたくしは呆れ、周りに居る者たちは不愉快そうに顔をしかめた。

 犯罪者。

 それを、『犯罪者本人に言う』事の意味を彼女は理解していないのかしら?




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