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15.一歩先へ

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「あらどうして?」

 グレイの一言に、ミーナが首を傾げた。

「今日はこのシリカ嬢と過ごす大事な予定なんです。他の方とはご一緒出来ません」

 そう言ってグレイは私に視線を送る。きっぱりとした断りの言葉。もしかしてこれは……私のためを思って? ミーナとルイスからの誘いを断る口実のために、そんな理由を付けてくれたのだろうか? いやまさか、いくら何でも考えすぎだ。

「あら、そうなの」

 ミーナは残念そうに言った。

「残念ですわ。お姉様は昔から真面目で、一緒にいても面白くないんじゃないかと、だからお誘いしましたのに」
「……っ」

 彼女の言葉に、私は思わず顔をしかめた。まるで私の全てを否定されたような気分だ。
 けれど彼女の言葉をグレイはさらりと否定した。

「そんなことはありませんよ。シリカはとても面白い」
「へえ、面白いのね」

 そう言ってミーナは意味ありげな視線を私に向けた。その笑顔は
 まるで私を嘲笑っているようにも見えて。

「ええ、とても」

 けれどグレイがそれを一蹴した。

「……わかりましたわ」

 ミーナは静かに答えた。

「では、また日を改めてお誘いするという事で」

 私達向けてそう言うと、彼女はくるりと踵を返して歩き出した。

「じゃあね、お姉様、グレイ様」

 無邪気に笑ったまま片目をつぶる。
 そして妹一行は去っていった。私は呆然と妹の後ろ姿を見送った後、隣の婚約者へと視線を向けた。

「あの、グレイ様」
「何だい?」
「この場合、ミーナの誘いを断らない方が良かったのではないですか? 貴族の嗜みとして受けておくのが礼儀では」

 それがたとえ実の妹であっても、そういう場面では断らないのが礼儀だと思っていた。

「じゃあ君は行きたかった?」
「いえ、私は……」
「なら断るべきだった」

 そう言って彼は私を見つめた。

「君は少し、我慢しすぎなんじゃない?」
「そうでしょうか?」

 私は首を傾げた。

「そうさ、さっきのだって。君には断る権利があった」
「それは……」
「それとも僕がいたから断り辛かったって?」

 図星だ。彼の指摘に思わず俯く私。何も答えられない私に、彼はそっと手を差し伸べた。そして一言呟くように言う。

「もし君が本当に行きたい場所に行くというのならば、僕だってきちんとお供するよ」

 そんなグレイの意外な言葉に私は驚いた。まさか彼がそんなことを言ってくれるなんて思わなかったから。けれど、その言葉はとても嬉しかった。

「ありがとうございます」

 私はその手を取ると、笑顔で答えた。

「ま、これでも一応婚約者だからね」
「……ええ」

 私とグレイは手を取り合ったまま、歩き出した。彼の言葉通り、本当に私の行きたい場所に。
 途中、彼が私の手をそっと離そうとした。でも私はそれを再び握った。

「別に無理に手を繋ごうとしなくてもいいんだよ」
「いえ」

 私はそう答えて、その手を握り続けた。

「これは無理なんかじゃなくて」
「ん?」
「私がグレイ様と手を繋ぎたいだけです。我慢はしないって決めましたから」
「……そうかい」

 彼はそれだけ言って、再び歩き出した。私もその手を離さないように彼の隣を歩いた。
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