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しおりを挟む結局明日からも学校に通う羽目になってしまった。
「参ったなあ」
二人が帰ったあと、私はベッドの上に寝ころんだ。
「友達を辞めようとしたのに、むしろ友達関係強化しちゃったよ」
悪役令嬢なんて、役割さえ放棄してしまえばいいと思ったのに、それさえ出来ないらしい。
「あー……頭痛くなってきた」
私はごろんと寝返りを打った。
「明日からどうしようかなあ」
なんて考えていた時だった。こんこん、と部屋のドアをノックする音が耳に届いた。
「?」
私はベッドから身を起こすと、ドアに向かって声をかけた。
「はーい、どなた様でしょう?」
「レクナンだけど、ちょっといいか?」
意外にもそれはついさっきリリィと一緒に帰ったはずのレクナンだった。
「お兄様!? お兄様の方がどうしてまた」
「ちょっと話があってな。いいか?」
「ええ、いいですよ」
私がそう返事をすると、レクナンはそっと部屋に入ってきた。私は彼が座る場所を作るようにベッドから少しズレた位置に移動した。念のため彼の背後にリリィの姿がないか確かめる。
「あいつは来てない」
「そ、そうですか」
その答えにホッとする。また彼女に抱きつかれたら、たまったもんじゃない。
「悪いな」
「いえいえ」
レクナンは私の前で腰を下ろした。
「それでお兄様、話って?」
私は尋ねた。するとレクナンはああ……と言葉を濁しながら言う。
「この世界が恋愛ゲームの世界だって話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「詳しく?」
「ああ」
レクナンは真顔で頷いた。まさか彼が恋愛ゲームに興味があるなんて意外だな。
「分かりました」
私は頷いた。
「恋愛ゲーム『ピエロット』。これはリリィを主人公にしたゲームです。彼女はそのゲームの主人公として様々な攻略対象と恋愛し、最終的に誰か一人を選ぶことになります」
「つまり相手は複数名いると」
「はい」
「その相手をお前は把握しているんだな?」
「勿論。相手の生年月日から家族構成、好きな食べ物や場所までバッチリ把握しています」
「怖」
レクナンが眉をひそめた。失礼だな、私だってこの知識をひけらかす場が来るとは思ってなかったよ。転生特典だ
よ、転生特典。
「しかし、そうか……」
レクナンはそこで押し黙ってしまった。私は首を傾げながら問う。
「何か問題でも?」
「ああいや……」
歯切れの悪い返答をするレクナン。なんだか煮え切らない。
「どうかしましたか?」
「単刀直入に言おう」
レクナンは改まって私を見た。私も思わず姿勢を正す。何を言われるんだろう。
「リリィの恋愛成就を阻止したい」
「なんて?」
今、なんて言った? ちょっと予想外の言葉が聞こえたんだけど。慌ててレクナンに尋ねた。
「え、あのごめんなさい。もう一回言ってください」
「だから、あいつの恋愛成就を阻止したいと」
聞き間違いじゃなかったー……っていやいやいや何言ってるのこの人!?
「一体どうして」
「考えてみろ。妹がぽっと出のどこの馬の骨とも分からない男と結ばれるなんて納得できる訳ないだろ」
「そんなものですかね」
「そんなもんだよ」
そうかなあ。普通だったら、兄として妹の幸せを願わないかなぁ。恋愛敵でもあるまいし……ん、待て、違うな。レクナンは『ピエロット』の攻略対象の一人、血のつながらない妹を愛する兄レクナンだった。
「分かった!」
「何が分かったんだよ」
「ずばり、リリィの事を愛しているんですね! 好きな気持ちに気付いたんですね、恋愛的に」
「馬鹿か」
「馬鹿ぁ!?」
我ながら名推理だと思ったのに馬鹿って。
「俺は血は繋がっていなくても、大切な妹としてリリィを心配してるんだよ。ゲーム? そんな訳の分からない強制的な力でリリィが幸せになるかっての」
うわ。恋愛ゲームの存在意義を真っ向から否定しちゃったよ、この人。
「とにかくだ、大切な妹に付く悪い虫は全て駆除する。目標、リリィの恋愛成就の阻止!」
「恋愛成就の阻止ね……あのー、言うのは簡単ですけど、一体どうやるおつもりで?」
意気込んでいるところ悪いけど、私には全然想像がつかない。
「そこでお前の出番だ、ソリス・レレクララ」
「へえ、私……私かぁ……私!? いやいやいやいや! どうして私が!?」
「ふっ、気付かないとでも思ったのか? お前のその知識なら、攻略対象との恋愛を妨害する方法くらい知っているんだろ?」
「知りませんよ!」
知らないよ! 知る訳無いだろ!? どうして恋愛を楽しむゲームなのに、妨害の方法を知ってると思ったの!? そんなゲーム楽しくないわ!
「じゃあ、そういう訳で」
レクナンがぐっと私に顔を近づける。ちょっと近い近い。
「明日から頼むぞ、ソリス」
「へ? いやちょっと待って……」
だから無理だってば。私がそう答える前に、レクナンは踵を返して去って行ってしまった。兄も妹も押しが強いな!
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