王子様の白百合

伏見うづら

文字の大きさ
2 / 10

しおりを挟む

寂しくてどうしようもなくなると、いつも思い出すことがある。


幼い頃に一緒に遊んでいた幼馴染のマックスのことだ。兄の学友として一時期よく屋敷を訪れていたマックスは、エリオットをよく構ってくれた。日の光をキラキラと反射する黄金色に輝く瞳を蜂蜜のように蕩けさせ、実の兄の何倍も優しく、可愛がってくれた。

マックスのことは兄の学友であることしか知らなかったが、いつも仕立ての良い服を着ていて、洗練された上品な所作から、名のある名家の令息だと、確信していた。

子供なのに紳士的で優しくて、誰よりも美しい。

いつも花のような香りを纏ったマックスはエリオットの憧れだった。

マックスは遊びに来るとエリオットを膝に乗せ、そのままよくティータイムを楽しんだ。

クッキーの屑をマックスの高級なウールのパンツにたくさん零して、彼の護衛が慌てていたのを思い出して、思わず笑みがこぼれた。

マックスはエリオットにはどんな無礼も赦していたし、エリオットも彼に素直に甘えていた。

自分がΩだと確信していたエリオットだったが、万が一βだったら、兄が通っているアカデミーに入学して、マックスと一緒に学校に通うことを夢見ていた。

幼いエリオットにとって、それは唯一の夢だった。



でも、残念ながらエリオットはΩだ。

この国でΩという性は、αを誑かす、ふしだらで低俗な存在だ。

そんなΩである自分がいくら会いたいと思っても、高貴な貴族令息であるマックスには迷惑になる。

せめて彼の近況だけでも知りたくて、最低限の食糧を運んでくる、年老いたβの使用人に駄目元で尋ねたが、「マックス」というありきたりな愛称では誰のことかも分からなかった。

そもそも、マックスが屋敷を頻繁に訪れていたのはエリオットが8歳から10歳までの2年間で、エリオットが森に来る前に交流は断たれてしまっていた。

屋敷にいる兄に聞けば分かるかもしれないが、Ωであることが判明して以来、家族とは一度も会っていない。今更エリオットが会いたいと言っても、取り合ってもらえないことは明らかだった。



屋敷から嗜好品を一つも持ってこなかったエリオットにとって、マックスとの思い出は、宝箱から偶に取り出して眺める、美しい宝石のようなものだ。



「さぁ、今日もしっかり働かないとね。」



宝石は日々を慰めてくれるが、空腹を満たすことはできない。

最低限の食糧は屋敷から運ばれてくるとは言っても、森で生きていくためにエリオットは毎日働かないといけない。

手に入らないものを欲しがっても仕方がないのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ

MITARASI_
BL
I 彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 Ⅱ 高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。  別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。  未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。  恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。  そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。  過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。  不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。  それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。  高校編のその先を描く大学生活編。  選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。 続編執筆中

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...