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しおりを挟むその日からマキシは月に2,3度は現れ、小川に白百合を供えに来た。
その度にエリオットとマキシは他愛もない話をした。
半刻ほどの限られた時間ではあったが、これまで孤独に生きてきたエリオットにとってはかけがえのない時間だった。
マキシはエリオットにいつも手土産を用意してくれた。
最初は新しい靴。その次は柔らかなブランケット。
マキシはエリオットに欲しい物を訊ねたが、エリオットは首を横に振り続けた。
あまりに何度も訊ねるので、仕方なく、焼き菓子をお願いするようになった。
上質だが、ささやかな贈り物。
マキシはエリオットが望むなら、どんなものでも用意すると言ってくれたが、エリオットはそれ以上のものは欲しがらなかった。
あれほど立派な百合の花を、季節外れのこの時期に用意できるマキシは、きっととても裕福で身分の高い貴族なのだろう。
それでも、それはエリオットには身に余る。
本当はこうやって言葉を交わすことも赦されない身分だ。
Ωはαを誘惑し、堕落させる。
低俗で、卑しい性だ。
屋敷にいた頃に繰り返し浴びせられた言葉を、今度は自分で自分自身に言い聞かせた。
優しくされて、勘違いするのが怖い。
前回のヒートの時、エリオットは浅ましくもマキシのことを思いながら自分を慰めた。
彼がくれたブランケットに包まりながら、幼くして命を落とした大切な子のために、白百合に唇寄せるマキシを思い出して汚したのだ。
あの形の良い薄い唇が、自分に触れたら。
あの黄金色の瞳が、自分を見てくれたら。
それは叶わない夢だ。
マキシがこんな辺鄙な森の中まで何度も足を運ぶのは、川で亡くなった子供のためなのだ。
マキシの心は今も、その子の物なのに。
これ以上は良くない。
その日からエリオットは、小川に近づくのをやめた。
大丈夫。
マックスとの思い出をよすがに生きてきたが、縋る思い出が一つ増えただけだ。
哀れなΩに神様がひと時、幸せを分けてくれたのだ。
エリオットはまた、質素な小屋で、たった一人の日々に戻っていった。
足にピッタリなブーツはどれだけ歩いても足が疲れず、薪拾いは順調で、冬が近づいても、上質なブランケットがあるから、これまでのどの秋より暖かかった。
それでも人恋しくなると、あの小川へ走って行きたくなってしまうけれど、なんとか我慢した。
そうして日々を耐えながら過ごしていると、とうとう冬が来て、森は雪で真っ白になった。
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