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しおりを挟む小川に向かったのはほんの出来心だった。
昨晩は大雪で、小屋にはつららも出来ていた。
これだけ雪が積もっていれば、外から森へは簡単に近づくことは出来ない。
冬季の間は、森に唯一やってくる食糧を運ぶ使用人も来ないことになっている。
雪はふくらはぎのあたりまで積もっていて、足場は不安定だった。
さくさくと音をたてながら、歩を進めると、小川の周りだけ雪が無く、川は辛うじてまだ流れているようだった。
やはり、マキシの姿はどこにも無かった。
マキシがいないから川に来たはずなのに、マキシがいないことが寂しくて落胆する。
本当は遠くからでも、一目姿が見たかった。
エリオットは、ぽろぽろ涙を流しながら、川の流れを見つめた。
自分もこの川に身を投げたら、あの子に花を供えに来るマキシに会えるだろうか。
今度は少しも怖くなくて、無意識に体が川の方へと揺らいだ。
その時だった。
後ろから誰かに抱き留められたのだ。
清廉で、凛々しくて、爽やかで、でもむせかえるような百合の香りが、いっぱいに広がる。
「…やっと、会えた。」
そこに居たのは居るはずの無い、マキシだった。
「住んでいる場所も、名前も教えてくれないから、もう会えないかと思ったよ。」
マキシは美しい顔を歪ませ、その黄金の瞳からぽろぽろと涙を流している。
その涙が、まるで蜂蜜のように甘やかに見えて、思わずエリオットは手を伸ばした。
指先で涙を拭うと、マキシはようやく柔らかに微笑んだ。
その顔が、そんなはずないのに、遠い日の記憶の中のマックスに重なり、胸がきゅっとなる。
「僕を、探してくれたのですか。」
震える声でそれだけ言うのがやっとだった。
「ああ。時間が許す限り、ここに足を運んだよ。本当は騎士達に命じて、森全体を捜索したかったのだけど、この森はラザフォード伯爵家の所有地で、大掛かりなことは出来なかったんだ。」
マキシは拳をぎゅ、と握り締め、悔しげに眉間に皺を寄せた。
「君に会えない間、とても不安だった。私はまた、この川に大切な人を奪われるのかと。」
そんなことを思ってはいけないのに、エリオットの胸は高鳴った。
「でも、駄目です…。お気付きだと思いますが、僕は卑しいΩです。マキシ様はきっと身分の高い貴族で、αでしょう。本来僕は、こんなふうに言葉を交わすことすら、許されない立場です…」
震えながら、弱々しく言葉を続ける。
自分自身の言葉なのに、エリオットは胸が深く抉られるようだった。
「…そんな言い方、しないでくれ。この川で亡くなった私の大切な子もΩだったんだ。Ωが卑しいなんて、間違った考えだよ。」
「…でも!でも僕はΩなんです…!ヒートになれば浅ましく発情して、僕は、恐れ多くも、あなたを思って、自分を慰めて、」
エリオットは泣きじゃくった。
いっそ軽蔑して、もう自分に会いたくないと思ってくれれば良いと、そう思った。
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