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二度めの夜
1.
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パーティーの時間は刻一刻と過ぎていくのに、カイルにまったくつけ入る隙がない。カイルに話しかけようとしても、もはや周りの従者に止められて、話す人が選ばれている状態だ。
「国への陳情があればまた別の機会に聞く。少しだけ風に当たってくる。一度離れるがすぐ戻る」
カイルはその場から離れた。少し疲れた様子のカイルは護衛が追いかけることすら拒否してひとり大広間を出ようとしている。
来た。絶好の機会だ。
ユリスは素早くカイルのあとを追いかける。この機会を逃したら次はない。
慣れないドレスの裾をひるがえし、カイルを追いかける。だがカイルが角を曲がったところで見失った。どこにも姿がない。
カイルはどこに行った? この機会を逃したら作戦は失敗になるというのに。
「…………っ!」
突然背後から身体を引っ張られ、喉元に銀色に光る短剣を当てられる。
「お前、何者だ? ずっと俺を狙ってただろ」
カイルだ。つけ狙っていたことが、いつからかカイルに見抜かれていたのか。
「何が目的だ? 誰かの手の者か? 答えによっては殺す」
カイルは変な答え方をしたら、このままユリスの喉をかっ切るつもりなのだろう。
「私はただ、陛下を慕っているだけで、特別な意味はございません……」
小さな声で答えると、カイルはユリスの顔を横から覗き込んできた。
「慕ってる……? 本当か?」
「はい……。陛下とゆっくりお会いしたくて……」
パーティーの場にはカイルに憧れる貴族の娘たちばかりだった。カイルと話がしたくて追いかけてきた、そんな娘たちのふりをしてもおかしくはないだろう。
「わかった。ではついてこい」
カイルは短剣を鞘に戻し、ユリスの手を乱暴に引っ張る。こちらのことなど気にせずズカズカと歩くカイルはどこか怒っている様子だ。
「俺は今、心が穏やかではないのだ」
やはりそうだ。でも、カイルが怒る理由がわからない。パーティーのときはそんな素振りはまったく見せなかった。
「お前は知っているか? 俺はわざわざナルカから妃にするためオメガの王子を連れてきた。だが、その者は俺をまったく受け入れない。今日のパーティーももうすぐ終わりになるのに少しも顔を出さない。そんな無礼があるか?」
カイルの怒りの原因はユリスがパーティーに訪れなかったことのようだ。
「もう愛想が尽きた。あんな奴は知らん。そんなに妃になりたくないのなら、国に帰るなり、なんなり勝手にしろ」
愛想が尽きた……?
カイルの吐き捨てるような物言いに、ユリスの胸がズキンと痛んだ。
なぜだろう。カイルの妃になる未来など始めからなかったはずなのに。
「俺はヒイラと約束したんだ。今回のパーティーで、誰かを見初めることにするとな。一国の王に世継ぎがいないのは由々しきことだと俺も理解はしている。だからこそユリスに来てもらいたいと思ったのに、来ないことがユリスの答えなのだろう? それなら俺はユリスを諦める」
カイルの言うとおりだ。いつまでも王妃の座を空けておくわけにはいかないのだろう。西国ケレンディアはカイルの統治で平和で豊かな国だ。あとは世継ぎさえいれば安泰となるだろう。
カイルは兵士に命じ、荘厳な扉を開けさせた。ここは国王の部屋だ。なぜここに名も知らぬ娘を連れてきたのだろう。
「陛下?! パーティーの途中では?!」
「その娘はどなたですか?!」
中にいた従者たちはカイルの奇行に驚いている。だがカイルは何も答えない。
「さて。お前はさっき、俺を慕っていると言ったな?」
カイルはこちらを振り返った。その目に優しさなどない。感情が凍りついたような、冷たい視線。
ユリスは頷く。さっきの言葉を撤回することなどできない。
「それならば、お前を抱いても構わないな」
「…………っ!」
ユリスは言葉を失った。カイルの目はどう見ても本気だ。ユリスはその強い瞳に囚われ動けない。
「陛下、まさかこの娘を見初められたのですか……?」
周りの従者も怯えたようにカイルをみている。
「いいや。誰でもいいから適当な者を連れてきた。どこの誰とも知らん。だが世継ぎさえできれば問題ないだろう?」
カイルのひと睨みに従者が「ヒッ……」と震え上がった。
「陛下がご乱心を……」
「なんだと! お前たちも世継ぎを望んでただろう? この娘も俺に惚れてるそうだ。それなのに何が問題だ?」
カイルが睨みを効かせ、従者はカイルのもとからそそくさと離れていく。
「こっちに来い!」
カイルに強く掴まれた手首がジンジンと痛む。その手を引っ張られ、連れてこられたのは寝室だ。
寝室の扉が閉められる。
この部屋にはカイルとユリスのふたりしかいない。
「ユリスが駄目なら相手は誰でもいい。お前も王の子を産みたいのだろう? お互いの利益が揃ったな。早く服を脱げ。早速始めるぞ」
カイルはユリスの身体を抱えてベッドに放り投げた。そのままカイルは、ユリスの上に覆いかぶさってきた。
「国への陳情があればまた別の機会に聞く。少しだけ風に当たってくる。一度離れるがすぐ戻る」
カイルはその場から離れた。少し疲れた様子のカイルは護衛が追いかけることすら拒否してひとり大広間を出ようとしている。
来た。絶好の機会だ。
ユリスは素早くカイルのあとを追いかける。この機会を逃したら次はない。
慣れないドレスの裾をひるがえし、カイルを追いかける。だがカイルが角を曲がったところで見失った。どこにも姿がない。
カイルはどこに行った? この機会を逃したら作戦は失敗になるというのに。
「…………っ!」
突然背後から身体を引っ張られ、喉元に銀色に光る短剣を当てられる。
「お前、何者だ? ずっと俺を狙ってただろ」
カイルだ。つけ狙っていたことが、いつからかカイルに見抜かれていたのか。
「何が目的だ? 誰かの手の者か? 答えによっては殺す」
カイルは変な答え方をしたら、このままユリスの喉をかっ切るつもりなのだろう。
「私はただ、陛下を慕っているだけで、特別な意味はございません……」
小さな声で答えると、カイルはユリスの顔を横から覗き込んできた。
「慕ってる……? 本当か?」
「はい……。陛下とゆっくりお会いしたくて……」
パーティーの場にはカイルに憧れる貴族の娘たちばかりだった。カイルと話がしたくて追いかけてきた、そんな娘たちのふりをしてもおかしくはないだろう。
「わかった。ではついてこい」
カイルは短剣を鞘に戻し、ユリスの手を乱暴に引っ張る。こちらのことなど気にせずズカズカと歩くカイルはどこか怒っている様子だ。
「俺は今、心が穏やかではないのだ」
やはりそうだ。でも、カイルが怒る理由がわからない。パーティーのときはそんな素振りはまったく見せなかった。
「お前は知っているか? 俺はわざわざナルカから妃にするためオメガの王子を連れてきた。だが、その者は俺をまったく受け入れない。今日のパーティーももうすぐ終わりになるのに少しも顔を出さない。そんな無礼があるか?」
カイルの怒りの原因はユリスがパーティーに訪れなかったことのようだ。
「もう愛想が尽きた。あんな奴は知らん。そんなに妃になりたくないのなら、国に帰るなり、なんなり勝手にしろ」
愛想が尽きた……?
カイルの吐き捨てるような物言いに、ユリスの胸がズキンと痛んだ。
なぜだろう。カイルの妃になる未来など始めからなかったはずなのに。
「俺はヒイラと約束したんだ。今回のパーティーで、誰かを見初めることにするとな。一国の王に世継ぎがいないのは由々しきことだと俺も理解はしている。だからこそユリスに来てもらいたいと思ったのに、来ないことがユリスの答えなのだろう? それなら俺はユリスを諦める」
カイルの言うとおりだ。いつまでも王妃の座を空けておくわけにはいかないのだろう。西国ケレンディアはカイルの統治で平和で豊かな国だ。あとは世継ぎさえいれば安泰となるだろう。
カイルは兵士に命じ、荘厳な扉を開けさせた。ここは国王の部屋だ。なぜここに名も知らぬ娘を連れてきたのだろう。
「陛下?! パーティーの途中では?!」
「その娘はどなたですか?!」
中にいた従者たちはカイルの奇行に驚いている。だがカイルは何も答えない。
「さて。お前はさっき、俺を慕っていると言ったな?」
カイルはこちらを振り返った。その目に優しさなどない。感情が凍りついたような、冷たい視線。
ユリスは頷く。さっきの言葉を撤回することなどできない。
「それならば、お前を抱いても構わないな」
「…………っ!」
ユリスは言葉を失った。カイルの目はどう見ても本気だ。ユリスはその強い瞳に囚われ動けない。
「陛下、まさかこの娘を見初められたのですか……?」
周りの従者も怯えたようにカイルをみている。
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「陛下がご乱心を……」
「なんだと! お前たちも世継ぎを望んでただろう? この娘も俺に惚れてるそうだ。それなのに何が問題だ?」
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「こっちに来い!」
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寝室の扉が閉められる。
この部屋にはカイルとユリスのふたりしかいない。
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