暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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二度めの夜

3.

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 ユリスはカイルを憎んでいるわけではない。ただカイルは殺さなければならない。祖国のため、家族のため。ここでやらねばユリスは裏切り者だ。

「カイル様……」

 声が震えている。カイルを恐れているのではなく、もう心が限界だった。

「ユリス? なぜ泣く?!」

 そうか、自分は泣いていたんだ。

「嫌だ……嫌だ……もうやめたい……」

 涙が溢れてきた。こんなところで泣き言を言うのも立派な裏切り行為だとわかっているのに。

「ユリス……。わけを話せ。お前の涙の理由がわからん」

 カイルは困惑している。そこに厳しさはない。カイルはユリスの涙をそっと指で拭った。
 カイルは自分の命を狙った者ですら、許すつもりなのだろうか。普通なら国王の暗殺がバレたらその場で即刻殺される。

「ユリスは何を抱えている? ユリス。お前には俺がいるぞ。だからもう泣くな」

 カイルはそばにあった水瓶の水で布を濡らし、ユリスの顔を丁寧に拭く。変装のための化粧も拭われ、その下の素顔も暴かれた。
 カイルの優しさに絆されそうになる。だが東国ナルカでの問題は、カイルといえども制御できないことだ。

「ユリス。そんなに泣くな。帰りたいなら国に返してやる。ナルカでも楽に暮らせるよう、取り計らってやろうか?」

 カイルはユリスに優しすぎる。こんなに酷いことばかりしているのにどうして守ろうとしてくれるのだろう。



「カイル様……」

 ユリスは震える手でカイルの首に手を伸ばす。

「私と一緒に死んでくれませんか……? それが今の私の望みです……どうか、お願いいたします……」

 ユリスがカイルの首を絞めても、カイルは抵抗しない。ユリスの行為を受け入れてくれている。だが、どうしても強く首を絞めることができない。ユリスの心がそれを拒絶している。


「ユリス」

 カイルはユリスの手を掴み、それをふり払った。

「お前の望みがわかった。それは俺を殺すことじゃない。本気で殺したければお前なら何度も機会はあった。今もそうだ。それなのにお前は俺を殺そうとしない」

 カイルに指摘され、本心を認めるしかない。
 ユリスは命令に背き、任務を放棄することを望んでいる——。
 家族も祖国も見捨てて自分の幸せを願っている。

「——レオンハルトか? こんなことをユリスに強いたのは。そんなものは無視しろ。あんな奴は俺が捻り潰してやる」

 カイルにはすべて見通されている。誤魔化しようのないくらい完璧だ。


「ユリス。お前はどうしたい? ユリスがこの俺に死ねと言うなら、この場で俺が自ら命を絶ってやる。それとも妃になることを受け入れ、俺に抱かれるか。今ここでお前が選べ。お前の望むとおりにしてやる」

 ユリスを組み敷いたまま、カイルはユリスに見下ろしている。

 ユリスが殺せないから、ユリスがカイルの死を望むなら、カイルは自らの命を絶つつもりなのだ。
 もしユリスがカイルと生きる未来を望むなら、ユリスを抱き、妃に迎え入れようと考えているようだ。


「カイル様……」

 ユリスが望むなら命すら失うことも構わない。そこまで想ってくれる人と、共に生きられる未来があるのなら。



「私を抱いてください……今すぐ……」

 なんて決断をしてしまったのだろうと言ってすぐに不安になった。だが、カイルの身体が覆いかぶさってきて、その匂いに包まれると幸せな気持ちになる。

 カイルがユリスの唇を奪う。突然のキスに驚き、あっと口を半開きにしてしまったがために、その隙からすぐに中まで犯される。

「んっ……んう……っ!」

 さっきまで優しかったカイルの激しいキスにユリスは翻弄される。こんなふうに愛情を交わしたことなどないので、どうしたらいいのかわからない。
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