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王妃の資質
5.
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次の日の夜、フェリオン国王即位二十周年のパーティーが開かれた。
もちろんパーティーの主役はフェリオンなのだが、それに負けじと劣らずカイルとユリスの周りにも人々が集まってきて、次々と挨拶をすることになった。
「オメガが王族とは、前代未聞のことですね」
北国バラディスの爵位を持つ高齢の高官、ハイデン卿がユリスをもの珍しそうな目でみてきた。ハイデン気がついては北国バラディスで最も力を持っている最大派閥のトップ高官だ。
「ケレンディアではオメガの地位はアルファとは遜色ないのです。これからはオメガの王族も、官位を持った者も増えるでしょうね」
カイルは即座に言葉を返す。
「ケレンディアに逃亡するオメガが増えているそうですね? わが国のオメガも情けないことにケレンディアに亡命を試みるそうです。オメガはオメガらしくアルファの慰め者でいればいいものを」
吐き捨てるようなハイデン卿の言葉がユリスの胸に突き刺さる。王妃になろうともアルファには敵わないと思っていたところだったから。
もしアルファの王妃だったら、外交から後宮の取りまとめまでを完璧にこなし、さらにはヒートも関係なしにカイルの子を孕むことができ、生まれてくる子は間違いなくアルファだ。
ユリスはそのどれも叶えられていない。すべて西国ケレンディアにとって重要なことなのに。
「アルファの私はいつもユリスに癒されている。我が妃は私とケレンディアのために本当によくやってくれていると思うが」
カイルはユリスの肩を抱き、自分のほうへ引き寄せた。
「ありがとう、ユリス。今も俺の隣にいてくれることを嬉しく思うぞ」
人目があるのに、カイルがぎゅっとユリスを抱き締めたものだから、周囲が驚いている。
「おふたりは本当に仲睦まじいのですね」
「王族なのに想いを馳せた方と結ばれるなんて素晴らしい」
「オメガを見下すバラディスの高官とは大違いね」
ユリスの耳にもふたりの噂話が飛び込んでくる。
「ま、まぁ、ケレンディアにはケレンディアの法があるのですな、それでは失礼!」
ハイデン卿は形勢が悪くなったと気づき、逃げるように去っていった。
「カイル様、ユリス様っ、我が国の者が無礼をいたしました! 私が代わりに謝罪いたします!」
深緑色のドレスを纏ったクローディアがふたりのもとに駆け寄ってくるなり、頭を下げた。
「ユリス様、ご気分を害してしまわれましたよね? ごめんなさい……」
「いいえ、お気になさらないでください」
自分のせいではないのに、誠意をもって謝ってくれるクローディアを責めることなんてできない。
「クローディアも今日は忙しいだろう? ユリスのことは俺が守るから気にするな」
カイルはクローディアを労うようにクローディアの頭にぽんと触れた。その瞬間、クローディアの顔がパッと華やいだのがわかる。
「はい。カイル様は頼りになりますものね」
クローディアの笑顔はとても可愛いらしかった。
パーティーが終わったあと、カイルとともに部屋の前まで戻った。
「今夜はフェリオン王の部屋に呼ばれてしまった。だからユリスのもとには行けない。ひとりでゆっくり休んでくれ」
カイルはユリスの両肩にそっと触れ、何気なく言うのだが、ユリスはショックを受けた。
今夜は、じゃない。
今夜も、だ。
北国バラディスへ向かう間の三日間もカイルとの夜の触れ合いはなかったし、ここへ到着してからも毎晩カイルはいない。
「はい。わかりました。私なら大丈夫です」
本当は全然大丈夫じゃない。ユリスが先に寝てしまっていても、添い寝でいいからユリスのもとへきて欲しいと思っている。
寂しいが仕方がない。毎晩一緒にいた日々が珍しいことで、数日間交わらなくてもそれが普通のことだ。そう、自分に言い聞かせる。
「明日こそ。な?」
カイルはそう耳元で囁いてから自室に戻っていった。
そうだ、明日がある。今日も我慢だ、我慢。
ここ数日、カイルに抱かれていないせいか、フェロモンの量が減ってコントロールしやすくなり、体調も安定している。北国バラディスにいる間はこれでいいのかもしれない。
もちろんパーティーの主役はフェリオンなのだが、それに負けじと劣らずカイルとユリスの周りにも人々が集まってきて、次々と挨拶をすることになった。
「オメガが王族とは、前代未聞のことですね」
北国バラディスの爵位を持つ高齢の高官、ハイデン卿がユリスをもの珍しそうな目でみてきた。ハイデン気がついては北国バラディスで最も力を持っている最大派閥のトップ高官だ。
「ケレンディアではオメガの地位はアルファとは遜色ないのです。これからはオメガの王族も、官位を持った者も増えるでしょうね」
カイルは即座に言葉を返す。
「ケレンディアに逃亡するオメガが増えているそうですね? わが国のオメガも情けないことにケレンディアに亡命を試みるそうです。オメガはオメガらしくアルファの慰め者でいればいいものを」
吐き捨てるようなハイデン卿の言葉がユリスの胸に突き刺さる。王妃になろうともアルファには敵わないと思っていたところだったから。
もしアルファの王妃だったら、外交から後宮の取りまとめまでを完璧にこなし、さらにはヒートも関係なしにカイルの子を孕むことができ、生まれてくる子は間違いなくアルファだ。
ユリスはそのどれも叶えられていない。すべて西国ケレンディアにとって重要なことなのに。
「アルファの私はいつもユリスに癒されている。我が妃は私とケレンディアのために本当によくやってくれていると思うが」
カイルはユリスの肩を抱き、自分のほうへ引き寄せた。
「ありがとう、ユリス。今も俺の隣にいてくれることを嬉しく思うぞ」
人目があるのに、カイルがぎゅっとユリスを抱き締めたものだから、周囲が驚いている。
「おふたりは本当に仲睦まじいのですね」
「王族なのに想いを馳せた方と結ばれるなんて素晴らしい」
「オメガを見下すバラディスの高官とは大違いね」
ユリスの耳にもふたりの噂話が飛び込んでくる。
「ま、まぁ、ケレンディアにはケレンディアの法があるのですな、それでは失礼!」
ハイデン卿は形勢が悪くなったと気づき、逃げるように去っていった。
「カイル様、ユリス様っ、我が国の者が無礼をいたしました! 私が代わりに謝罪いたします!」
深緑色のドレスを纏ったクローディアがふたりのもとに駆け寄ってくるなり、頭を下げた。
「ユリス様、ご気分を害してしまわれましたよね? ごめんなさい……」
「いいえ、お気になさらないでください」
自分のせいではないのに、誠意をもって謝ってくれるクローディアを責めることなんてできない。
「クローディアも今日は忙しいだろう? ユリスのことは俺が守るから気にするな」
カイルはクローディアを労うようにクローディアの頭にぽんと触れた。その瞬間、クローディアの顔がパッと華やいだのがわかる。
「はい。カイル様は頼りになりますものね」
クローディアの笑顔はとても可愛いらしかった。
パーティーが終わったあと、カイルとともに部屋の前まで戻った。
「今夜はフェリオン王の部屋に呼ばれてしまった。だからユリスのもとには行けない。ひとりでゆっくり休んでくれ」
カイルはユリスの両肩にそっと触れ、何気なく言うのだが、ユリスはショックを受けた。
今夜は、じゃない。
今夜も、だ。
北国バラディスへ向かう間の三日間もカイルとの夜の触れ合いはなかったし、ここへ到着してからも毎晩カイルはいない。
「はい。わかりました。私なら大丈夫です」
本当は全然大丈夫じゃない。ユリスが先に寝てしまっていても、添い寝でいいからユリスのもとへきて欲しいと思っている。
寂しいが仕方がない。毎晩一緒にいた日々が珍しいことで、数日間交わらなくてもそれが普通のことだ。そう、自分に言い聞かせる。
「明日こそ。な?」
カイルはそう耳元で囁いてから自室に戻っていった。
そうだ、明日がある。今日も我慢だ、我慢。
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