暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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王妃の資質

11.

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「ユリス様、ありがとうございます。ユリス様のような優しい御方とならケレンディアでの生活も穏やかに過ごせそうです」
「クローディア! まだカイル様のお許しがありませんよ!」
「はぁい。お母様」

 リアがクローディアをたしなめる。だがふたりはどこか嬉しそうだ。
 この様子では、カイルが了承したらすぐにでもクローディアが側室になることが決定するだろう。

「すみません、フェリオン様。この件については少し時間をください」

 カイルは首を縦にふらなかった。
 だが、以前は側室など迎える気はないと言いきっていたのに、カイルの気持ちに変化があったようだ。そのことに気がついて胸がズキンと痛んだ。

「そうか。我が国としてはケレンディアとこれからも友好関係を築きたいと思っている。本来なら正室として娘を迎え入れて欲しかったのだが、こちらは娘のたっての希望もあり、精一杯の譲歩をしている。それは理解してくれるな?」
「はい。クローディアは私のもとなどではなく、もっと他の有力な国へ嫁ぐべきだと思っています」
「その貴重な娘をカイル殿のもとへやろうとしている。この苦しい親心をくんではくれまいか?」
「私にはユリスがいますから。そろそろ食事を楽しませてください。ケレンディアにはない珍しい果物ですね、これはなんという名の果物ですか?」

 カイルは話題を変えた。フェリオンからのそれ以上の追及はなく、穏やかな雰囲気で食事は進んだ。





「ユリスは最近フェロモンの具合がいいようだな」

 朝食のあと、カイルに言われた。決して優しくはない。ユリスが勝手に外出したと聞いた時からずっとカイルの態度はどこか冷たい。

「はい。落ち着いています」

 ユリス自身、原因はよくわからない。だが体調がいいのは正直助かる。

「お前にひとつ確認したいことがあるのだが」
「はい。カイル様、なんでしょうか?」
「まさかとは思うが、また抑制薬を飲んでいるのではあるまいな? そのお陰でフェロモンが落ち着いているのではないか?」
「えっ……」

 そんなものをユリスが飲むはずがない。誰よりもヒートの訪れを今か今かと待っているのはユリス自身なのに。

「飲んでいません……」
「本当だな?」
「はい……」

 なぜそんなに疑うのだろう。たしかに薬を止めて随分経つのに未だにユリスにはヒートが訪れないが。

 カイルはユリスの反応を確認するような目で見てくる、その鋭さに胸が痛くなる。

「俺と番になりたくない、そう思っているのではないか? それで抑制薬を飲んでヒートが起こらないようにしている——」
「そんなこと、あるはずがありません!」

 さすがに黙っていられない。

「カイル様、私はカイル様だけを慕っているんです! それなのにどうしてそんなことをしなきゃいけないんですか? 私にヒートが来ないからカイル様は疑ってるんですよね?」
「待てユリス、そうじゃな——」
「どうせ私は役に立たない駄目オメガです! そんなに早く世継ぎが欲しいのならカイル様は側室を迎えられたらいいじゃないですか! 私などの機嫌を取る必要はありません! 全部なにもかもカイル様の好きになさればいいのです!」

 たまらず走り出した。とにかくカイルから離れたかった。

 感情がぐちゃぐちゃになって、情けないくらいに涙が溢れ出てくるからこんな顔をカイルに見られたくなかった。
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